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十、初依頼に挑戦

 今日僕は朝ごはんを朝に食べている。それもベッドの上ではなく、テーブルに。孤食は昨日でお別れ。僕はフィーミェンさんと共に朝食をとっていた。またもやセリナさんが美味しい料理を食べさせてくれるのでふたりとも一言も話さずに全て食べ終わってしまった。僕はナプキンで口元を拭きながら再び通りかかったセリナさんを呼び止めた。

「すみません、お風呂をお借りしたいんですけれど……」

 僕はいつかきちんと使った分全額返済すると心で唱えながら聞いた。

 彼女はすぐに承諾してくれた上、フィーミェンさんをどう誘うか迷っている僕の悩みまで解消してくれた。

「勿論です!男性用と女性用のお風呂があそこをまっすぐ行ったところにあります」

 寝室のある階段の隣にある細い通路を指すと彼女は仕事に戻って行った。大変そうなのにありがたい。

 用済みの食器を片づけるパンジルににらまれながら僕はフィーミェンさんを引き連れて廊下をくたっだ。そこには男女の脱衣所につながる扉がふたつ、そして扉の前にはフックに鍵がぶら下がっている。朝早いので貸し切りなようだ。僕らはそれぞれ中に入り、鍵を閉めた。

 中には日本の銭湯とは違う風呂場があった。ロッカーやかごはなく、棚に洗面所のようなものがひとつ。引き戸なんていうものは当然なかったが、風呂は石風呂で、直径三メートル程の円形だった。僕は服を脱ぎ始めた。上を脱ぎ、下を脱ごうとする前にポケットからスマホを取り出すようなそぶりを無意識にしてしまった。全く、スマホなんて無いのに毎日こんなことを。しかしこの動作が僕を僕としてつなぎとめている気がする。昔の僕が失われてしまっては、塔で言われたようにただの記憶喪失した人のようになってしまう。それは……なんだか怖かった。

 僕は思わずため息をついた。きっと疲れているんだろう。ゆっくりと疲れを取りたいところだが、今日はフィーミェンさんと装備品を買うお金を稼ぎに、セリナさんに返すためのお金を稼ぎに行くんだ。全裸になると、備え付けの石鹸で全身を隅々まで洗った。緑色のカスが爪に入っていたが、しっかりと洗い取った。髪の毛も念入りに洗うと、全て水で流した。そして石風呂に足から片方ずつ入り、腰を下ろした。痛いくらいの熱さがちょうどよかった。彼女はこの暑さで大丈夫だろうか。

 サバァッ。

 心の中で五分数えると、すぐに風呂から出て、体を拭いて髪の毛をある程度乾かすと服を着た。鍵を開け、廊下に出るとちょうどフィーミェンさんに会った。僕らは鍵を戻すと、昨日もらった金色の冒険者カードをさっそく依頼の貼られたボードを見に行った。

 報酬30000ポイント、報酬70000ポイント、報酬120000ポイント……残念ながらフィーミェンさんの貯めてある13ポイントはすぐに少ないことが分かった。僕が木のボードに貼られている無数の紙を眺めていると、隣からフィーミェンさんにつつかれた。

「あの……そっちは討伐依頼なので、私たちはこちらです」

 僕の間違いを指摘すると隣にある四分の一サイズのボードを指さした。

「はい」

 僕は恥ずかしくなってしまった。羞恥心からボードを見ずに一枚剥がした。

「これでいこう」

 僕が選ぶと、彼女はその紙切れを手に取り、じっと読んだ。読んでいる途中、クスっと笑っていたので僕は少し怖くなった。

「じゃあ、行きましょう。ヨウさんの初依頼に!」

「お、おう!」

 初めて彼女に名前で呼ばれ、変な回答が出てしまった。しかしセリナさんに呼ばれる時のようではない。なんだか懐かしく、安心させてくれる呼び方だ。

 どうやらこの依頼のシステムは割とシンプルなようだ。好きな依頼を選び、書いてある通りにし、依頼人からの証明書や魔物討伐の魔物の指定された一部などをカウンターに持っていくだけ。面倒くさいのは一切なしだ。

 ギルドから出た僕はフィーミェンさんに着いて行った。彼女のローブが風にそよぎながらたまにめくれる。そのたびに僕は目を逸らしていた。もちろん彼女も隠そうとはしていたが、彼女の全体を覆うローブを細い腕二本では抑えられなかった。いずれか、僕らは町はずれの馬小屋の前に立っていた。

「ここは?」

 僕が聞くと彼女はニヤニヤしながら答えた。

「馬小屋ですよ」

「いや、見ればわかるんだけど……」

 馬小屋での依頼とは嫌な予感しかなかった。そしてその予感はばっちりと当たった。

「ヨウさんが選んだ初依頼、お馬さんのトイレ掃除です!」

 嬉しそうに言い張る彼女を、僕は起こりたくなった。選んだのは僕だが、伝えてくれても良かっただろうに。しかしここまで来ては引けない。彼女はこのような依頼のプロだ。僕が逃げてしまっては恥ずかしい。

「大丈夫ですよ。手袋は持ってますから」

 そう言うと彼女は自身のと、予備の手袋取り出し、僕にくれた。

 手袋を腕にはめた僕らは空きの馬小屋から始めた。彼女が放棄をもって藁を集めている間、僕は馬の糞を手で掬い上げていた。匂いで鼻がへし折れるかと思った。

「なんでこんなにたくさんあるんだ……」

「それは私たちのような人以外誰も依頼を受けないからですよ。その代わりお手伝いの中では結構報酬が多いほうです。最初の依頼にしてはなかなかですよ」

 僕を憐れんだ目で見降ろす彼女はとても楽しそうであった。泣いているよりはマシかと思い、僕は糞をまたひとつバケツに移した。

 馬が飲む用の水を変え、ひと段落着いたと思い休憩しているところに先輩が僕を叱った。

「休んでいる暇はありませんよ、まだあと5回あるんですから」

 ひえぇぇ。

 これを今までずっと一人でやって来たフィーミェンさんには尊敬しかない。ようやく終わったころにはそう思った。手袋を洗っても洗っても匂いと色は落ちなかった。その臭い手袋を当たり前のように彼女はポケットにしまってしまった……。

 報酬を受け取りに僕たちはギルドへ戻った。証明書や証拠はどうするのかと思うと、フィーミェンさんは僕の使っていた手袋をポケットから引っ張り出し、カウンター裏で立つ受付嬢に依頼書と一緒に見せた。

「あ、はい……こちらで処分しておきますね」

 鼻をつまみながら受付嬢の女性は手袋と依頼書を受け取ると丸い占いの水晶玉のようなものを取り出した。

「では、こちらにカードをかざしてください。ポイントを分けたい場合は同時にかざしてください」

 説明を受け、フィーミェンさんと同時に金のカードを水晶玉に近づけた。するとカードの数値が一瞬にして変化するのが見えた。僕がこの世界に着て初めて見る魔法だ。しょぼくて小さなことかもしれないが、これが僕の初めて見た魔法だ。

 カードの数値を確認すると、依頼達成数は当然一増えていた。そしてポイントはというと……現在所持ポイントは2500ポイントとなっていた。彼女と分けたので合わせて5000。お金に変換したらどのくらいになるのだろう。しかし弱い魔物とはいえ、簡単な討伐依頼の六分の一はもらえてしまう。僕は彼女の方を見た。「初依頼達成おめでとう!」、などという言葉を待っていた僕は彼女を見た瞬間青ざめた。両手に手袋を持っている。それもさっき使ったものではなく、綺麗なものだ。

「この街には馬小屋が4つ。あと3つも同じ依頼があるのよ。早速取り掛かりましょう」

 そう言い、彼女は依頼ボードからぺりっと紙を剥がした。

 僕はその後、また糞を触ることになった。

 ――

 すべての馬小屋依頼をこなし、ひとり10000ポイント、ふたり合わせて20000ポイント集まった。早速僕らは銀行に行き、現金に変換してもらった。するとなんと一人銀貨二十枚、フィーミェンさんのもともと持っていたポイントと合わせると、1ポイントで銅貨一枚、銅貨千枚で銀貨一枚なので、現在所持ポイントが0に戻ると同時に合わせて銀貨四十枚と銅貨十三枚を受け取ることができた。フィーミェンさんにセリナさんへ食べさせてもらった分、お風呂を使わせてもらった分、止まらせてもらった分を払いに行こうと提案すると、彼女は納得してくれた。

「セリナさん、僕たち泊めてもらった分などを全額支払いたいんです」

 とギルドに戻り、僕がちょうど手の空いたセリナさんに頼むと、驚いた表情をされた。

「いいんですよ全然払わなくって!」

 彼女は僕らの提案を拒んでしまった。ああ、なんて優しい人なんだろうか。しかし僕はもう一度払うと伝えた。

「お願いします。払わせてください!」

 ふたりで熱心に伝えると、セリナさんは一言、「ついてきて」と言い、カウンターに僕らを連れてきた。

「じゃあ計算しますね。宿代一泊食事付きで銀貨四枚です」

 言われた分だけすぐに支払うと、僕は残り銀貨十二枚、フィーミェンさんは十六枚と銅貨十三枚と、さっそく半分近くなくなってしまったのである。しかし僕らとしては、セリナさんにきちんとお金を払えたことがとても嬉しかった。こんなに良く接してもらっては払わずにはいられなかった。これからも払うつもりだし、ということは今夜止まればまた銀貨四枚ずつ減る。明日も依頼をこなさなければならないわけだ。今日は馬小屋の掃除とぎーミェンさんによると最初からかなりハードなメニューであり、4つの依頼をこなすのに街を一周したくらいなのでセリナさんに払い戻せたころには外は暗くなっていた。明日はもっと簡単な依頼をもっとたくさんこなし、僕の依頼達成数を25回に近づけると同時に装備を買うお金を貯金する。そうフィーミェンさんと話し合い、朝風呂を楽しみにしながらベッドに潜り込んだ。

次回、第十一話 店長のお勧め

1/9 金曜日 17:30公開!

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