九、端緒の決心
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彼女はこのギルドに来たことがない。しかしそれは彼女を知る者がいないと言うことにはならない。ただ、フィーミェンさんの悪運がこのまでしつこいとは思わなかった。
僕らは皿がピカピカになるまで屑ひとつ残さず食べた。満腹になり、僕らはお互いの顔をじっと見た。彼女な頬に赤いソースが付着している。僕の汚れた顔を見た彼女の口端がピクピクと動き、僕らは一斉に笑い出してしまった。腹を抱えて、椅子から転げ落ちそうになるくらい笑った。彼女の目から二度目の嬉し涙が出る。そんなひと時を過ごしている僕らのテーブルに、体躯の大きな男性が現れた。
「かの有名な貧乏魔法使いじゃないか」
突然男に話しかけられたフィーミェンは狼狽した。
「蛭が良い肉を見つけたみたいだなあ」
彼はフィーミェンを煽った。
「なんなんですか?」
黙り込んでしまったフィーミェンの代わりに僕が男に問い詰める。
「彼女を放っておいてくれませんか?」
「そいつはどのパーティにも入れてもらえない落ちこぼれの魔法使いだよ。お前みたいなやつが金を無駄にする相手じゃない」
「いいえ、彼女は僕のパーティに入っているので。それに僕だってお金はありませんし」
僕は男に背き、フィーミェンさんの方を向いた。彼女は未だ黙っているが、僕の顔を見てくれている。少しかっこいい所を見せられたかなと思い、彼女にウィンクを送るが、すぐ男がフィーミェンを再び馬鹿にし始めた。
「その女の別のあだ名知ってるか?黒焦げちゃんだぜ。雑魚の魔物を倒しに行って満身創痍、黒焦げになって戻って来たんだ。服もボロボロだったさ。そいつの両親もきっと貧乏人だったから死んだんだぜ。助ける価値がないって……」
――
僕が気づいたころには壁に寄りかかって座っていた。隣にはフィーミェンさんが僕の肩を支え、何かを叫んでいた。目の前には男が顔面血まみれになって倒れており、彼を大衆が囲んでいた。やってしまった。僕はあまりにも腹が立ってしまい、この男を顔が歪むまで殴ってしまった。無意識に殴る僕をフィーミェンさんが止めてくれたらしい。
「ごめんなさ……」
僕は自分のやったことに気づき、謝ろうとした。誰に謝っていたのか分からない。殴っていた男?それとも恥をかかせてしまったフィーミェンさん?僕が言いかける間に、突然彼女に抱き着かれた。
「ありがとう……」
そう言うと、小さな手が僕を囲った。僕も震えた血のついた手で彼女をぎゅっと抱いた。
「怖い思いをさせてごめ……」
僕はまた謝ろうとしたが、彼女に遮られた。
「いいえ。とてもかっこよかった」
僕は彼女の言葉にドキッとした。心拍数が上がり、彼女の目を見つめた。ふたりとも息が荒い。顔がそっと近づく。鼻がつきそう。
「何があったのですか?!」
セリナさんがやってくると僕らは慌てて距離を取った。彼女の顔が赤い。
「そこのひとが……」
運よく一部始終見ていた人がいたらしく、起こった出来事をそのままセリナさんに伝えてくれた。
セリナさんは少しも考えず、男たち数人にフィーミェンさんを馬鹿にした男を道端に投げ出すよう命令した。すると何も文句を言わずに男たちが働く。数人で持ち上げ、机の間をくねくね通りながら入口に向かった。たちまち男性は全開の扉から放り投げられてしまった。
しばらくして事件は片付き、皆それぞれやっていたことにもどった。一旦落ち着こうと僕とフィーミェンさんも同じ机に座った。
「彼の言っていたことは本当なんです。私、討伐系の依頼を受けられるようになってもトイレ掃除や荷物運びばかりやっていて、それで得たお金を使い、暮らしていました。それを嫌と思う人が多く、思い切って簡単そうな討伐依頼を受けてみたのですが……」
彼女はまたもや自信無さそうに語った。
ゲームではボタンを押せばキャラクターが剣を振る。一定のダメージが入るし、相手の体力、自分と体力などが見える。敵に攻撃されたって痛くないし、体力が高ろうが低かろうが動ける。現実はそうはいかない。切られれば腕は落ちる。戦っていれば疲れるし、自分の限界なんて分からない。そもそも彼女は弱い魔物を討伐しに行ったとはいえ、ひとりでやったんだ。
「僕も頑張って追いつくから、その時一緒に挑戦しよう」
彼女は喜んでくれた。僕は今からでも25依頼こなしにいこうと提案したが、今日はセリナさんから借りた部屋で休んでから、明日からゆっくり無理せずやれば良いと言われた。ふたりとも装備などのお金が必要だし、一緒に少しずつ稼ごうと言うことになった。部屋と聞いて僕は一度舞い上がったが、彼女がセリナさんから借りたらしい部屋の鍵を渡された時、彼女の反対の手にもうひとつ見えてしまった。それはそうか。同じ部屋なわけがない。僕は何を考えているんだ。セリナさんのような素敵な女性の前で、一緒に強くなると約束したフィーミェンさんの前で、なんと言うことを想像しているんだ。僕は軽く頬をつねった。
席を立つと、ギルドの連中にジロジロ目で追われながらも今朝降りてきた階段を上がり、ギルドの宿泊用のウィングに上がった。長い廊下に番号のついた扉が一定間隔で並んでおり、僕は鍵の番号と合う扉まで歩いた。僕が止まり、部屋の番号と鍵の番号を再確認すると、どちらにも211と書いてあった。ちょうど隣の部屋、212号室と書かれた扉の前でフィーミェンさんは止まった。彼女がドアの鍵を解除しているところを見ていると、僕の視線に気づいた彼女の目があった。にこっと微笑んで彼女はドアを開けて部屋の中へ消えた。そのことで頭がいっぱいだった僕は鍵のかかったドアを押し開けようとし、衝突してしまった。
鍵を開けて中に入ると、朝僕の起きた部屋と同じだと言うことに気がついた。ベッドシーツは綺麗に整えられており、僕の服が置いてあった。畳んであり、匂いからして洗濯もしてあった。セリナさんはこのギルドで困っている人を助けたいと言い、客のために全力を尽くしていると言っていたが、一文無しでタダ飯と部屋も貰っている僕のためにここまでしてくれるとは思わなかった。
僕は靴を脱ぐとベットに横たわった。髪がパサパサしている。朝セリナさんに風呂を借りられるか聞いてみようか。食べた分、泊まった分、入った分、稼いで僕はきちんと払い戻すつもりだ。そういえばフィーミェンさんも風呂に入った方がいいだろう。彼女にどう伝えればいいか。そのまま伝えてしまったら彼女を臭いと呼んでしまうことになる気がする。怯懦な性格のため、モノの伝え方には気をつけなければならない。しかしそうなってしまったのも無理はない。二十一歳で十七年前に両親を亡くした。たったの四歳から彼女は誰にも甘えられず、ひとりでに生きてきた。彼女の中の子供が成長しきれていないのだろう。そこは受け入れてあげたい。できれば、彼女が過去の恐怖や自分の臆病なところに打ち勝てるようにサポートしていくつもりだし。
僕はこれからのことを考えながら、窓の外を見た。時刻は九時。前ならば深夜まで起きていて当然だったが、こちらにきてから新しいものに囲まれ、早速事件も起こしてしまい、グダグダだ。ベッドのフットボード側の壁を見つめる。壁の向こうにはフィーミェンさんがいる。彼女はもう明日に備え、寝ているのではないか。瞼が重たい……考え事はまた今度だ。
次回、第十話 初依頼に挑戦
1/5 月曜日 17:30公開!




