金の精霊術師から逃げたモグラ令嬢と逃がしたくない金の精霊術師(モグラを馬鹿にするな!)
金の精霊術師。
そう言われるこの方は、ミシェル・オランド大公ご子息。
私を抱き込み、頭に頰を寄せスリスリしている。
大公ご子息は長身の為、小柄な私はご子息に埋め尽くされている。
埋め尽くされている私は、リアナ・ブルーム子爵令嬢です。
はぁ〜⋯⋯⋯。
逃げたのにッ!!
本気で、本気で逃げたのにッ。
逃げて数秒で捕獲された⋯⋯。
金の精霊術師は
「逃げるなんて酷いことをする。2年ぶりに会えたのに。」
私は貴方に会いたくありませんでしたが!?
逃げる私に金の精霊術をかけてくる。
金の精霊力で、宙に浮かされご子息の目の前に降ろされる。
ご子息は私を抱きしめた。
優しく微笑まれるが、私の心は1ミリも動かない。
この笑みに世の女性は魅入られるらしい。
が、私の心の中は(⋯⋯⋯無⋯⋯です。)
今更何の用だろうね?
2年も音信不通だったし、婚約解消の旨は大公家に伝えた筈だし⋯⋯。
考え込んだが答は出ないので、自分の為に答えを出した。
私は助けを呼んだ。
私が大切な『モウちゃん』を。
私の胸元にモウちゃんが現れた。
めちゃ可愛い!!
私は満面の笑みで
「モウちゃん。今日も可愛いいね!」と、なでなでしようとしたが、抱きしめられていた。
モウちゃんが私を転移させ、腕の中から抜け出ていた。
「モウちゃん、ありがとう!」
モウちゃんを抱きしめ、好き好き〜と頬ずりや、なでなでをする。
私は小柄で茶髪のふんわりな髪に薄い黄色目。
小さく可愛いので、「子リス嬢」のあだ名で1部の人から可愛がられているの。
モウちゃんは逆に人気がない⋯⋯。
モウちゃんはモグラの精霊獣。
周りはモグラと馬鹿にする。
私はモウちゃんが大好き。ぬいぐるみの様な可愛らしい容姿。
この国は精霊と精霊獣との結びつきを重視している。
精霊と精霊獣が国の中心にいるのだ。
人は精霊獣や精霊と契約して初めて精霊術が使える。
ミシェル様は水と風、2人の大精霊と契約している。
金の精霊術を使うとは、大精霊と契約している証なのだ。
この国、いや⋯⋯この大陸で唯一として世界から崇められている。
なぜそんな御方が子リス如きを構い倒してくるのか⋯⋯。
それは、婚約者(元?)だからなのだ。
15歳のデビュタントで私は一目惚れされたらしい⋯⋯。意味が解らない。
なぜなら、デビュタントの時にミシェル様は沢山のお姉様を侍らせていたのだ。
私の様なチンチクリンに一目惚れ等ありえないのだから。
確かに私は小さく可愛い。らしい⋯⋯。
私は自分の容姿に興味がない。
あるのは、領地の改革のみだ!
思考を戻し。
「ミシェル大公ご子息、お久しぶりです。先程留学先より帰って参りました。では、失礼します。」
即逃げる。
逃げた先には、いつもの沢山のお姉様方。
「ご機嫌よう。リアナ様。お久しぶりです事。
相変わらず可愛くない精霊獣を抱えてらっしゃいますわね。」
「あら。田舎令嬢にはモグラはお似合いですわよ?」
クスクス笑われる。
が、気にもならない。
「ミシェル様は、あちらにいらっしゃいますわよ?どうぞ持って行って下さいね!」
ニ〜ッコリ。
お姉様方が驚いてる間に、さっさと逃げる。ミシェル様が追いかけて来たが、お姉様方に囲まれている。
チラリと見ると、笑顔で話し込むのを見て少しだけ胸がチクリとする。
婚約当初仄かに芽生えていた恋心が小さく疼いた。
「はぁ〜。何故大公ご子息は私を未だに構うのかしら。放っといてほしいのに。」
〈リアナは抱きしめられてただろう?好かれてるのではないのか?〉
話しかけて来たのはモウちゃんだ。
普通の精霊獣は話せない。モウちゃんは何故か話せる。
モウちゃんは私が領地の畑の改良をしていた時に出会った。
私は魔力を持っている。
遥か昔は魔法があったが、精霊術が重宝され魔法はこの国からはほぼ消えていた。
魔力持ちは余りいないが故、王家に縛られる場合があった。
精霊術は大切ではあるが、他国は魔法を主に使う。
そのこともあり、数十年前から保護と言う名目で拘束に近い扱いを受ける場合があった。
私の属性は地と水。
隣国の留学先で魔力測定をしてもらい、その時に判明した。魔力量は多い。
小さい頃に両親が魔力に気が付き、秘密厳守となった。
私は領地の為に何かしたくて、コソコソ魔力を使った。独学で色んな事を試した。
すると、土地を豊かにする事が解った。
土いじりをする振りをして魔力を使う。
を、ひたすら繰り返した。
いつものように土に魔力を流していた。
その時にいきなり土から飛び出して来たのがモウちゃんだ。
〈貴女の魔力はとても心地がよいです。私と契約しませんか?〉
契約とは?
〈私と契約すれば、貴女の魔力と私の精霊術とでもっと領地を豊かにできます。〉
「もしかして、精霊獣様なの?初めて見るけど。モグラって⋯⋯。」
〈⋯⋯⋯。モグラは嫌いですか?〉
泣きそうなモグラさん。
「全然嫌いじゃないよ?!物凄く可愛いよ!だから、私と契約して下さい。」
〈では、真名の交換をしましょう。私の名前はファルネーゼ。そなたの名前は?〉
「私の名前は、リアナ・ブルームよ」
〈我ファルネーゼはリアナ・ブルームと契りの誓約を交わす。リアナよ魔力を私に流せるか?〉
モグラさんの頭に手を置き魔力を渡す。すると、温かい何かが私に流れ込んだ。
〈契約は成った。
これから、よろしくな!!〉
手を挙げ挨拶をするモグラさん。
可愛いしかない。
私はモグラさんを抱き寄せ、邸に帰った。
両親は精霊獣と契約した事に驚いていた。
精霊獣の真名は誰にも言えない。
私はモウちゃん。と、名付けた。
〈モウちゃんか!可愛い名前を貰ったぞ!!〉
本人は喜んでくれたが、両親は申し訳なさそうな顔をした。
「可愛いと思ったけど、駄目かな〜?」
両親は、
「名前は可愛いが、精霊獣様にちゃん付けはなぁ〜⋯⋯。」
そうか。格好良い方が良かったのかな。
「ごめんね。名前考えるね!」
〈なぜ!?私は気に入ったよ!?可愛い名前だからこれが良い。〉
と、短い手を合わせ可愛く首を傾げる。
「モウちゃん、可愛いね。」
と、頭をなでなで。
モウちゃんは気持ち良さそうに私の手の平に擦り寄る。
この光景は領地ならどこでも見られる、可愛い名物となる。
モウちゃんは私が精霊術で領地を豊かにしている体にしてくれたし、私の魔力を隠してくれたの。
モウちゃんはとても凄い精霊獣なのよ。
領地の農作物は豊かに実り、領地は豊かになった。
モウちゃんと出会って5年。
15歳となりデビュタントで私の生活は様変わりした。
不愉快な方向に⋯⋯。
ミシェル様からの婚約申し込みが嬉しくなかった訳ではない。
精霊術の使い手で容姿も頭脳も良く、貴族らしからぬ穏やかな性格でとても優しい。
良い所しかないのだ。
好意を寄せる女性は星の数程。
当然、夜会やお茶会でどれだけ嫌がらせをされたか覚えられないくらいだ。
私が気を許せるのは、同じ地方出身のご令嬢くらい。
都会の令嬢はモグラを嫌い馬鹿にする。
私は1年間、彼の婚約者としてそれなりに頑張ったし我慢した。
だけど、あるお茶会でモウちゃんが紅茶を被ってしまったのだ。
精霊術で綺麗にしたが、私は泣いてしまった。
悔しかった。
私への攻撃は許せたが、モウちゃんに被害が行くのは許せなかった。
その騒ぎに気が付きミシェル様が来た、事情も聞かず令嬢を嗜めるどころか精霊獣を皆の前に出した事で私を責めたのだ。
「リアナ。精霊獣は人前に簡単に出してはならないよ。しかも、ご令嬢は高位貴族です。場を弁えないと。」
私は何も言えない。言いたくなかった。
モウちゃんは私にかかるはずの紅茶を身を挺して庇ってくれたのに、彼は事情を聞くこと無く私を責めた。
「精霊獣を出してしまい申しわけありません。不作法を致しました故、これにて退席させて頂きます。」
カーテシーをして、モウちゃんを抱きしめ馬車乗り場まで急いだ。
「リアナ!なぜ帰るのです?」
と、腕を掴みミシェル様が引き留めた。
「先程も言いましたが、不作法をした為ですが何か?大公ご子息は私に何をお求めですか?私がこの1年間何を思っていたか解りますか?」
「リアナ。何をそんなに怒っているのですか?あの場にいたご令嬢達も赦すと言っています。戻りましょう?」
駄々っ子をあやすような口調に腹が立つ。
私は悪くない。
この1年、どれだけ耐えたか知りもしない。
悠長に女を侍らせ、私のされた仕打ち等知りもしないくせに!!
「私の質問には答えていただけませんのね。大公ご子息は。」
「その呼び方は止めなさい。」
「この1年、私の考えていた事は大公ご子息との円満な婚約解消ですわっ。」
この言葉にミシェル様は驚いていた。
「何故その様な話しになるのですか。
婚約解消はしませんよ!!絶対に。」
その言葉は嬉しくない。
何故そうなるのかすら考えてくれない。
もう疲れた⋯⋯。
「ミシェル様は、いつも私を責められる。そしてご令嬢達を擁護する。
何がしたいのですか?私がご令嬢や貴方に何かしましたか!?
私を蔑みたいのなら幾らでもすれば宜しい。でも、私の精霊獣を馬鹿にするのだけは許さない。」
モウちゃんが私を実家の邸まで転移してくれた。
両親には事の次第を全て話た。
「済まなかった。リアナ。大公家からの縁談に舞いあがってしまった。」
父と母は謝罪してくれた。
母は女の世界の社交の厳しさを知っているので、リアナを抱きしめ辛さを解って貰えた。
「リアナ。隣国に留学してみない?向こうは魔法が盛んだから、勉強にもなるわよ。」母は隣国の子爵家出身である。
祖父には面識があり、私が魔力持ちだと知っていた。
魔力持ちの少ない国にいては不都合が起きるかもしれない。その時は祖父を頼るように話がついていた。
私は急ぎ準備をして、その日の夕方には馬車で隣国に発った。
モウちゃんが居るから大丈夫なのだ。最強の護衛を連れて私は隣国に逃げた。
残されたミシェルは訳が解らなかった。
突然の婚約解消の言葉に動けなかった。
そこにアリーシャ嬢と仲の良い令嬢が数人声を掛けてきた。最近は一緒にいないな⋯⋯。
「ミシェル様。リアナ様がされてきた仕打ちをご存知ないのですね。」
と⋯⋯⋯。
(仕打ちとは何だ!!)
視線を向けると
「私達は伯爵家です。公爵令嬢であるアリーシャ様にはずっと思う所もありましたが、異を唱える立場にありませでした。」
「何が言いたい!ハッキリ言え!!」
「では、ハッキリ申し上げます。この結末はミシェル様。貴方様の自業自得です。
アリーシャ様を何故側にいつも置いていたのです!?
リアナ様が大切ならば、アリーシャ様に任せるのではなく自ら護らなかったのですか!!」
「なぜアリーシャがでてくるのだ。」
「そこからですか⋯⋯。」呆れられた視線をされた。不敬ではあるが、私に過ちがあるならば知りたかった。
「教えてくれ。リアナに何があったのかを。」
令嬢達曰く
彼女達は元アリーシャの取り巻きだった。
リアナを茶会や夜会で散々罵りドレスを汚したり数え切れない嫌がらせをして来た。
全てアリーシャの指示であり、アリーシャは嬉々として虐げ続けた。と。
アリーシャは私に好意を持っており、いずれ自分が婚約者となると身分等を考えても、そう信じていたらしい。
「⋯⋯⋯。」
私のせいか。私がアリーシャにリアナを任せたばかりに⋯⋯。
身分を気にしていたリアナの後継人として、公爵令嬢であればきっと助けになってくれると信じていたのだ。
許せなかった。アリーシャを。
そして、何も知らずリアナとの婚約に浮かれていた自分を。
自らの手でリアナを地獄に導いていた事実に。
「ですが、リアナ様は嫌がらせをしていた私達に手を差し伸べて下さいました。
ここに居る者は領地を助けて頂いた者です。」
「私達の嫌がらせも、それはそれだと。領民には何ら関係ない事と⋯⋯っ。」
令嬢は泣いていた。
「あの様に優しいリアナ様を虐げていた事を今更ながら後悔しております。」
「大公ご子息が後悔なさり、それでもリアナ様との関係を修復したいのであれば手助けします。
リアナ様が喜ぶかは解りませんが、アリーシャ様の仕打ちの証拠は揃えてありますので。入り用がありましたら、お声掛け下さい。」
令嬢達はそう言うと離れて行った。
私はそのまま邸に戻った。らしい。
気が付くと私室のソファーに居た。
リアナを思い出す。
私は幼い頃、リアナがモウちゃんと呼ぶモグラの精霊獣と契約する姿を偶々見ていた。
隣の領地に避暑に訪れ、風の大精霊があの場に連れてきたのだ。
何をしているのか解らなかったが、モグラと契約を結んでいた。
モグラはとても可愛かった。
モグラを抱きしめる令嬢も小さく可愛い子だった。
満面の笑みで「可愛い。可愛い」と、モグラを撫でていた。
一目惚れしたのは、この時であった。
私と契約している風の大精霊の姿は人型でとても美しいが、関係性も無く契約している。ただ、それだけだ。
ご令嬢の名前も解った。
リアナ・ブルーム子爵令嬢。
1つ歳下であった。
私は父上にリアナ嬢と婚約したい旨を伝えた。だが、子爵家となると爵位の差が邪魔をした。
お互いまだ幼かったのも理由の一つだ。
「大精霊との契約をもう1人増やせ。未だ大精霊2人との契約した者はおらん。
そうすれば、誰からも横槍を入れられる事は無い。」
「解りました。その時は必ずリアナ嬢との婚約をお願いします。」
父上は無理だから諦めるだろうと思っていたらしい。
が、私は精霊術を極めた。
精霊の召喚魔術を使えるまでになり、私は大精霊の召喚に成功した。
風の大精霊と契約していたのが大きかったらしく、契約が整った。
それからも、リアナ嬢とモグラのあの微笑ましい光景を思い出し、精霊術師として高みへ行けるように頑張った。
そして2大精霊との契約を公表し、金の精霊術師として立場を築き上げた。
5年近くかかった。
彼女のデビュタントまでと、父上に期限を切られ焦る中で結果を出した。
父上は呆れながらも、私の想いを認めてくれ早々に婚約を認めてくれた。
デビュタントの日、5年振りに見た彼女はやはりとても可愛らしかった。
周りの令嬢は細身のドレスを選ぶ中、少しだけフンワリとしたドレスを着て可愛いらしさが倍増していた。
リアナ嬢の可愛らしさに気が付いた令息達がソワソワしている。
が、もうブルーム子爵家には我が家からの婚約の話が行っているはず。
リアナ嬢に近付こうとするが、私は沢山の令嬢に囲まれてしまった。
今日はデビュタントの祝の夜会の為、無下にする事も出来ず、対応しながらリアナ嬢に話しかけた。
「デビュタントおめでとう。ドレスもとてもお似合いですよ。」
初めて声をかけた。緊張で声が震えないか心配したが上手く話せた。
「大公ご子息。お言葉ありがとうございます。」と、カーテシーをした。顔をあげれはとても可愛いらしい笑顔を見せた。
(可愛い。可愛らしい。)それしか言葉が無かった。
だがリアナ嬢は挨拶すると、早々に場を離れデビュタントの令嬢達の輪の中に消えた。
この時に、周りの令嬢達のリアナ嬢への鋭い視線に気が付いていれば少し先の未来が変わったかもしれなかった。
「ミシェル様。今の方はどなたですか?」
1人の令嬢が声をかけた。
「リアナ・ブルーム子爵令嬢ですよ。婚約者となる方ですかね。」
見た事がない幸せそうな笑顔でそう話すミシェル様に、顔や態度には出さないがリアナ嬢への悪意が深まった。
その中で1番高位なアリーシャ公爵令嬢が声をかけた。
「リアナ嬢との婚約ですか。おめでとうございます。」
と、祝いの言葉をくれた。
私は「まだ決定ではないが、そうなる事を祈るよ。ありがとう!アリーシャ嬢。」
「では皆様、社交に慣れないリアナ嬢の為に、全力でお力添えを致しましょう。」
令嬢達に声を掛けていた。
そこに悪意があるとは露とも思わずに。
私がこの言葉を少しでも警戒していれば。
幼馴染だからとアリーシャ嬢を信用などせず、自らがリアナ嬢の側にいれば婚約解消との言葉を聞かずに済んだ。
私は自らの行いで、大切なリアナ嬢を辛い仕打ちの待つ社交に向かわせたのだから。
次の日の早くにリアナ嬢に会いに行った。今までの事を説明し、誠心誠意の謝罪と婚約の継続をお願いしに来たのだ。
「申しわけありません。娘は早々に隣国に留学に向かいました。
大公ご子息との事は娘より聞き及んでおります。」
子爵は、私を真っ直ぐ見つめ。
「6年程前、子爵家に婚約をお願いされましたね。
貴方様は幼いながらに娘との婚約を希望され、私は少しだけなら手助けしようと娘に来る婚約話しを避けてきました。」
「デビュタント前ですので、婚約者はいなくとも田舎貴族としては痛くなかったからです。」
「貴方様は約束通りに大公閣下との約束を果たし、また我が家にも正式に婚約を持ってこられた。私は貴方様を信じ、娘をお任せしたのです。娘を虐げさせる為では、断じてないのですよっ!!」
穏やかな子爵をここまで激怒させたのは、私の。全て私の落ち度だ。
「申しわけありません。言い訳のしようがないのは承知の上です。
ですが、私の話を聞いていただきたいのです。」お願いします。
と、私は深く、深く頭を下げた。
子爵は大きな溜め息を吐くと、
「解りました。お話だけは聞きましょう。」と。
婚約を望んだきっかけから、社交会に馴染む様に幼馴染に言われるままに任せた事。
そして、それがリアナを苦しめる結果となった事。
全て、浮かれた自分に落ち度がある事を⋯⋯。
深く謝罪をした。
「状況は理解しましたが、リアナを呼び戻す事は致しません。隣国では魔法を勉強すると、それを希望に発ったのですから。
また、何も解決はしておりません。
解決した後に、リアナの出す結論に私は従いますよ。」
「大公ご子息がどう決着をつけるのか、見届けさせて頂きます。
婚約は一応そのままにしますが、私は誰に聞かれても曖昧にしか返答しませんので。それでも宜しいなら。」
「子爵殿。感謝致します。
リアナ嬢が帰って来る2年後に、綺麗に方をつけます。」
子爵家を後にし、私は策を練った。
あの令嬢達にも協力を仰ごう。
そして⋯⋯。
悲しみに落ちたあの日から、2年が過ぎた。
早いようで待ち遠しかった。
帰国したリアナが王城に来る。父上からの情報で今日1日のリアナの予定を把握している。
再会早々に逃げられたが、夜の夜会には参加をしなければならない。
何故なら、今日の主役は彼女だからだ。
今日、この日に決着をつけるのだ。
綺羅びやかな広間には、沢山の貴族の面々がいる。
今日は、ある人物が隣国の魔塔にて特級魔法師の栄誉を賜ったのだ。
特級魔法師は、世界にまだ4人しかいない。その中の1人が我が国の貴族となれば祝いとなる。
その祝いの夜会に私は早めに馬車乗り場に行く。リアナが来るのを、誰にも見つからない様に待っていた。
子爵家の馬車が到着すると、私は扉に駆け寄りリアナの手を強引に引いた。
「リアナ今日は、大公ご子息のエスコートを受けなさい。」
子爵のその言葉に嫌々だろう雰囲気を纏い頷いてくれた。
「昼間振りだね。リアナ。
今日は薄い紫のそのドレスがとても似合っていますよ。貴方の魔力の色なのですね。」
リアナは驚いていた。
魔法が廃れてしまった我が国では、余り知られていないのだ。
特級魔法師は自分の魔力の色を纏う。
その色はその人以外は着用出来なくなる。
今日は誰かと色が被っても次からは当人以外が使用出来なくなる。
リアナが気にしているのはそれだけでは無い事を。
噂は知っている。
私の瞳が紫の為、アリーシャがいつも紫を使っているのを。
私はアリーシャの気持を知らさせるまで何も考えていなかったのだから。
「大丈夫ですよ。リアナ。
2年前の不甲斐ない私ではないと思っています。
今日は私に全て任せて頂けますか?」
リアナは父である子爵へと向いた。子爵は了承の頷きを返し、リアナも了承した。
夜会の会場にエスコートして向かう。
リアナの緊張が手から伝わる。
優しく握りしめ2人並んで会場に向かった。
(アリーシャ。貴女だけは許さない。リアナにした仕打ちを今日返してあげますから。)
「ところでリアナ。モウちゃんはちゃんと居ますか?」
「はい。ちゃんと側に居てくれてます。」
リアナの口調はやはり距離を感じるが仕方のない事。
会場に私の名前とリアナの名前が呼ばれた。
会場に踏み入れると、一斉に視線が刺さった。1番強い視線を向けたアリーシャは探さずとも居場所が知れた。
リアナの手をキュッと握り会場の中央に向かう。
そこに、あの時の令嬢が近寄ってきた。
「お久しぶりです。リアナ様。
以前は酷い仕打ちをしたと言うのに、私達の領地を助けて頂き感謝します。」
令嬢達はお礼の言葉と謝罪を口にした。
「気にしないで。あの時も言ったでしょ?領民には罪は無いと。」
ニッコリ微笑み彼女達の謝罪を受け入れた。
私はリアナの腰に手を回し、ピタリとくっついた。
悪の元凶のお出ましである。
「ミシェル様。到着遅かった様ですわね。本日は目出度い祝の夜会ですわ。早々に陛下達にご挨拶に伺いましょう。」
と、私以外を全て無視した。
公爵家である以上、そこまでの無礼にはならないが。為人は疑われる行動ではあった。
「アリーシャ嬢。今私は他のご令嬢と話しの途中だ。しかも、婚約者も同伴している。少しばかり気を配られよ。」
アリーシャは嗜められると思っておらず、驚いていた。
リアナも嗜めるとは思わず、驚いていた。
私は苦笑いしながら、リアナに顔を向け腰の手を更に強くしリアナを自身に引き寄せた。
「あら、失礼しましたわ。
隣にいるのはリアナ様でわね。お久しぶりですわ。
また、お茶会を開きますので是非いらして下さいね。」
優雅な笑みを浮かべ下位貴族を誘うその姿は、高位貴族のお手本となる様であった。
周りの貴族達は、こぞってアリーシャ嬢を褒め称えた。
アリーシャは満足気に微笑むと、私に手を伸ばして来た。
お茶会、その言葉でリアナが体を強張らせたのが解った。
思い出したのであろう。忌々しい記憶を⋯⋯。
近付く手を思い切り払い除けた。
パシン⋯⋯。
その音と私の態度に段々会場が静かになって行く。
「アリーシャ嬢。貴女はリアナ嬢を気遣う振りをしながら、茶会や夜会にて散々暴言や暴力を振るっていたな。」
「そのような事を私がする筈ありませんわ!もし、その様なお話があるのならば⋯⋯。
きっと私の為にと側にいた方達が行ったのでは?」と、白を切る。
「貴女達は以前、リアナ様を虐げてましたわよね。私はお止めしたのですよ?それなのに、疑われるなど心外ですわ。」
扇子を取り出し、顔を隠し俯いた。
冤罪をかけられた可哀想な令嬢を演じる。
周りの貴族達は
「公爵令嬢がその様な事をなさるはずがないではないか。」
「あの令嬢達がアリーシャ様に罪を擦り付けようとしてるのでは?」
「婚約者は子爵家出身だな。きっとアリーシャ様に嫉妬して大公ご子息にある事ない事伝えたのであろう。」
「醜い令嬢だな。」 と。
周りがリアナへの悪意に変わった。
その時、モウちゃんが出てしまった。
怒りを纏うモウちゃんは、強い精霊力を放っていた。
アリーシャを褒め称えた者、リアナを悪く言った者はとくに圧が強く息も出来ないでいた。
会場は静寂と恐怖に満ちあふれた。
恐怖に満ち溢れる会場の中、ミシェル様がモウちゃんの前に来た。
「地の大精霊様。どうか精霊力をお納め下さい。」
と、片膝を突き頭を下げた。
金の精霊術師が頭を下げた。
地の大精霊だと言った。
聞こえた者達から次々に膝を突いた。
ミシェルは自身の大精霊から、モウちゃんは地の大精霊と今日教えられた。
モウちゃんは淡い紫の光を纏うと、人型となった。
髪は地に着くほどに長く、美しい新緑の色。瞳はリアナの魔力と同じ淡い紫色であった。
〈アリーシャよ。証拠が無いとでも言うのか?我が証人だ。我はリアナと共にいる。契約者だからな。
2年前は我に茶をかけたな。
そなた自身がな。〉
精霊は嘘を言わない。事実のみを伝える。
会場の者は誰が正しいのかを理解した。
リアナの側に地の大精霊が近づくと、頭を撫でた。
優しく優しく、何度も撫で。
〈リアナ。そなたは我を悪く言う者からいつも庇ってくれた。我をモグラだと馬鹿にせず大切にしてくれた。
そなたの深い愛情を得て、我はこれより精霊王となる。〉
ミシェルと契約している大精霊の2人が姿を現した。
左右に別れ、精霊王の横に一歩下がり侍る。
地の大精霊が精霊王となった。風と水の大精霊が仕えた。
それは即ち、リアナ嬢は精霊王が守護する者となる。
会場の者は誰一人言葉を発せないでいた。
そこに王族の方々が姿を見せた。
前もって王弟である大公より、事の成り行きは聞いていた。
特級魔法師が大公子息の婚約者である事。
その婚約者の契約する精霊獣は大精霊の可能性がある事。のみを。
会場に現れた陛下達に全員が傅いたまま視線を向ける。
会場の中央には、精霊王となった美しい精霊。側に侍る大精霊はミシェルの側にいた大精霊だった。
陛下達も膝を突き頭を下げた。
〈そなたがこの国の王か?〉
〈リアナを虐げた者をどうするのだ?我が罰を下して良いか?〉
リアナは、ハッとした。
モウちゃんに手を汚させるのは嫌だった。
「モウちゃん!じゃなかった。精霊王様。貴方様が手を汚さずとも、他の者が罰を与えますわ。」ニ、ニコリ⋯⋯。
〈リアナよ。もう、モウちゃんと名前を呼んではくれぬのか⋯⋯。〉
ションボリする精霊王に、呼びません!とは言えず、
「モウちゃん。いつもありがとう!これからも宜しくね!」
そう言うと、モウちゃんは微笑み元のモグラの姿で私の胸に飛び込んだ。
アリーシャ様を始め、私を虐げた者とモウちゃんに嫌がらせをした者はモウちゃんが一纏めに括り付け床に縫い付けた。
動けない、話せない。異様な一団を他所に会場では、リアナ嬢の特級魔法師の取得と精霊王の守護する者との祝いの場となった。
子爵が、「大公ご子息より、精霊王がやり返した形になりましたね。」
と、嫌味半分でミシェルに告げた。
罰の悪そうなミシェルにバルコニーに連れて来られた。
「2年前、私はリアナが何を思い何に苦しんでいたのかさえ知らなかった。
あの令嬢達に窘められ、初めて自分の愚かさを知った。
私が不甲斐ないばかりに、辛い思いをさせてしまった。」
リアナは涙を流し、じっと話を聞いていた。
「私は8年前から貴方に恋焦がれています。今もです。」
リアナは驚いた。
(8年前って!?会った記憶が見つからない)
「私がこの2年間、貴女に書き続けた手紙です。読んで欲しいとは思いますが、無理強いはしません。」
束になった手紙を沢山渡される。
「2ヶ月後はリアナ。貴女の誕生日ですね。その前日にでも婚約をどうするのか。答えを下さい。」
ミシェル様は軽く礼をとり、離れて行った。
私は動けずにいた。
目まぐるしい1日に、思考が追いついていない。
〈とりあえず、お父上と屋敷に戻ろう。それからゆっくり考えれば良いのでは?〉
モウちゃんに促され父と屋敷に戻った。
〜❀〜
今日はリアナ・ブルーム子爵令嬢の18歳の誕生日である。
誕生日会など行わなかった子爵家だが。
今回は娘の特級魔法師の取得や、精霊王の顕現などやらねばならない理由がてんこ盛りであった。
そして、半年後の秋にはミシェル大公子息との結婚も決まった。
目出度いこの日、ずっと仲良くしてくれた令嬢達。過ちを認め謝罪の後に仲良くなったご令嬢達。
リアナに増えた仲間に祝福されていた。
楽しそうに笑うリアナの横には、リアナ以上に幸せそうなミシェル大公ご子息と美しい人型の精霊王がいた。
リアナはあの夜会の次の日から、ミシェルからの手紙を読み始めた。
ミシェル様の後悔、愚かさ、人の見る目のなさが手紙に綴られていた。
アリーシャ様を信じていた愚かさには、深い後悔が綴られていた。
あの令嬢達が別に証拠となる物を準備していた事。
この2年、リアナが受けた仕打ちを調べ上げた事。
リアナのいる隣国に一度だけ、お忍びで顔を見に行っていた事。
隣国で無邪気に笑い、魔法を楽しむリアナを手放すべきだと一度だけ悩んだ事。
そして、8年前のお話も手紙に書かれていた。
それ程までに自分を想ってくれていた事実を初めて知った。
私も後悔の思考に沈んだ。
身分等を気にしていた事をミシェル様が気にかけていてくれた事実。
それを逆手に取られた為に起きた事。
ミシェル様に相応しくないと、自分に自信が無く上辺でしかミシェル様を見ていなかった事。
一言、ただ一言。
いじめられ辛い。
そう言えたら良かっただけだと。
弱い自分を見せれず、いじめられる自分は身分が低いからと諦めなければ結果は違っただろうか⋯っ。
毎日泣いていると、精霊王が
〈あやつのリアナへの愛情は深い。身分で婚約を続ける様にできたはずをリアナにその権利を渡した。
それだけ、あやつはリアナを好いているのではないか?〉
その言葉で、私は2ヶ月後も待てなくなりそのままミシェル様の邸まで突撃した。
出迎えてくれたミシェル様に抱きつき、沢山謝罪した。
ミシェル様だけが悪いわけではない。
自分を卑下し逃げたのが悪いと。
お互いが謝罪し、お互いが許しあった。
あの夜会から一ケ月過ぎた頃だ。
残り一ヶ月は、お互いの事を沢山話した。
穏やかに好意を温めた。
誕生日会に隣国の特級魔法師が来てくれたが、リアナへ求婚をした為。
特級魔法師 対 金の精霊魔法師
の決闘となる所だった。
精霊王であるモウちゃんが、リアナの祝いの会を台無しにする2人にお仕置きが発生したのだ。
大人しくなった2人に精霊王の正論の説教が始まった。
正座をし、ションボリする2人の姿にリアナが大爆笑した為、会は賑やかなまま終わった。
長くすれ違った婚約者達を、結婚式では精霊王が祝福を授けた。
そして、優しく温かな2人を精霊王のモウちゃんは深く深く愛し、見守って行った。
〜✿〜
アリーシャ公爵令嬢の処罰は、北の修道院での奉公になった。
北は他部族との衝突が時々起こるため、常に人手が足りなかったのだ。
修道院に幽閉ではなく、修道院に来る怪我人達の介護になった。
民の為に働け!!
と、リアナが処罰内容を提案しました。
❀おしまい❀
出会ってからの年数を間違えていました。
訂正しました。
読んで頂きありがとうございます❀




