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47 魂の共鳴

「どうしてここが分かったの?」


 首元に吐息がかかる。馬車に揺られる。静かな時が流れた。


 車内にはイズルとファラの他には5人の少女がいた。虚ろな目で空間を見据えている。

 ゴブリンに幻惑の魔法でもかけられているのだろう。


 イズルとファラの会話が聞こえてるはずなのに反応はなかった。


 イズルはファラの肩を抱く。


「あれが、家族の星なんだろ?」


 幌の裂け目から4つの星が覗く。腕の中でファラが体を捩じらせた。彼女は一度体を離し、イズルの示す方角を確認する。腕が軽くなった。


 ファラは胸元に手を置き、深呼吸した。小さく握りこぶしを作ると、顔を赤らめて視線を落とし、再度体を預けてきた。腕にファラの重みが戻った。


「うん。あれだよ」


「いつも、ファラとローザを見守ってる星だ」


 家族の星が暗闇で瞬く。その光が何年もかけてイズルに届いた。それだけのことだ。


「あの星がオレをここに導いたんじゃないか」


「なにそれ、よくわかんない」


 理屈が通じない答えに、ファラが笑う。すぐに首を横に振って、自らの答えを否定する。


 そうだね、きっとイズルの言う通り、お父さんとお母さんが私たちを助けるために、導いてくれたんだよ。


 そう言って、肩を震わせる。ファラは涙声だった。

 涙を堪えるように大きく息を吸い上げた。


 きっとファラは泣かない。次に泣くのは、ローザと二人の嬉し涙だと決めたのだから。瞳の奥が物語っていた。


「千年彗星に乗って、オレのところに舞い落ちた奇跡……ってことだ」


 もうすぐ千年彗星が大空を翔る。盛大に空を斬り裂き、我が物顔で星空を支配するのだろう。


「両親に感謝しておけ。オレは一足先に彗星から手紙を預かった、ただの受取人だ」


 イズルの言葉を受けて、不意にファラはしゃくり上げた。隠すように顔を押し付ける。


 慌ただしい車輪のリズムが二人を揺さぶる。ファラは押し寄せる感情に抗おうと何度も鼻を鳴らした。


「あの星は、確かにあそこで、お前たちを見守ってた」


 細い指先がイズルの背中を軽くつねった。


「それ以上言うの、禁止」


 そう言い、つねった箇所にそっと指を這わせ、撫でる。


 イズルは触れた肌から、彼女の体温が内部に浸透していくのを感じた。


 七色に輝く水が一滴、体中に染み渡った。彼女の希望や絶望、喜びや悲しみ、すべてが七色の滴となって、魂を通じて器を満たす、そんなイメージがよぎる。

 研究室でのレヴィアの説明が腑に落ちた。


「魂の共鳴、か」


 イズルの言葉にファラが顔を上げた。視線がぶつかり、ファラは慌てて目を背けた。


「え……っと」


 ファラは虚空に視線をさ迷わせ、言葉を探す。


「今の感覚……」


「これで、ファラもオレの共鳴者だ」


 愛情や友情、様々な言葉で表現される関係性の到達地点、それが魂の共鳴だ。


 ファラの魔力が流れ込み、イズルの疲労感や傷口を癒していく。


「オレが今からすべて終わらせてやる」


 ひと際大きな音を立てて、馬車が停止した。

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