24 ローザの復帰
先週はついにローザを見ることがなかった。
週が始まる朝、教室に入るとイズルの元へローザがすっ飛んできた。
「イズルっち、心配かけたね。やっと回復したよ」
周囲を飛び跳ね、腕や背中やらをツンツン突いて元気になったことをアピールする。
「私のこと心配して見舞いに来ようとしてたんだって? そんなこと言って、女子寮に入りたかっただけだったりして」
「読心術でも持ってるのか、凄いな」
「イズルの企みはお見通しなのだ」
じゃれつくように腹部を拳で何度も叩く。テンションが高すぎてちょっとうっとうしい。
体調が良くなったのなら安心だ。ローザの顔色は白かった。頬はこけ、目にはクマが残っている。体は以前よりも細くなっているようだった。
「あんまり回復している様子はないな」
はしゃぎ過ぎて、ローザは肩で息をしていた。
「ずっと寝込んでたからね。まあ、そのうち戻るでしょ」
外見はともかく、精神的には上向きなのだろうか。イズルは判断に迷った。
瞳は輝いていた。以前の明るいローザだ。
その奥の昏い深淵に沈んだ何かまでを掬い取ることはできない。ここに彼女はいる。笑っている。きっと大丈夫なのだろう。きっと。
「まあ、しばらく無理するな」
イズルとしては、ローザの体調を考えて休ませたい気持ちがあった。
「ええ、やだよ。週末遊びに行こうよ」
髪飾りの鈴が鳴る。
「病み上がりだし、ゆっくりしてろ」
「やだやだ。本当に体の調子がいいんだよ」
首をブンブン振ると、小声で囁く。
「仕事に連れてってよ」
「前に連れて行っただろ」
「あれは試験の前じゃん。もうずっと前のことだよ。スランプから脱したから、試したいことがあるんだよね」
わざとらしく腕を突き出し、魔法を打つ仕草をする。
スランプという言葉に引っかかった。試験後、ローザは呪文が曖昧になって、出てこなかった、と言っていた。あれがスランプだったというのだろうか。
状態を確認するためにも、連れて行ってもいいかもしれない。そう思い直して、イズルは答える。
「仕方ないな」
彼女の気晴らしにもなるはずだ。
「やたー」
両手を挙げて、喜びを示す。
イズルもつられて頬をほころばせた。そこでファラの様子に気づいた。
ローザのテンションが上がったとき、注意を促すのがファラだ。ローザが笑うといつもファラも笑った。この日は会話が届いていないかのようだった。
視線が一点を見つめたままだ。
声をかけると弾かれたように肩を震わせた。
「どうかしたか?」
看病で疲れているのか?
ありえる。安全委員会を一度休ませた後は頑なに出席を続けた。見回りと看病を続ければ疲労も蓄積していく。
イズルはそう推測してはみるものの確信には至らない。
「何でもない」
視線が合うことを避ける。不自然にならない程度にずらして、心を覆い隠すかのようだ。
「私も行くよ」
思い出したような笑顔を作る。
変わらない、繰り返しの笑顔。ローザが笑い、ファラが笑う。いつもの順序。そのタイミングが、少し遅れた。
「無理するな。次の週末だっていいんだぞ」
「大丈夫」
「ファラ、私に無理して合わせなくていいんだよ。疲れてるでしょ、ごめんね私が寝込んだばっかりに」
「謝らないで、大丈夫だから」
謝罪を禁じる、そんな口調だった。