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20 安全委員会

「ファラ、イズルっち、私の分も頑張ってね」


 合格者を含めた安全委員会の集まりは、放課後に行われる。ローザは二人の背中を叩くと、逆方向へ歩き出す。


 ファラの表情は冴えない。ずっと励ましあってきた二人だ。一緒に合格したかったことであろう。


 現実を受け入れるしかないことはファラも分かっているはずだ。


「やるしかないよね、うん」


 奮い立たせるように頬を何度か叩き、その拍子に髪飾りの鈴がりんと鳴った。


「教室はあそこだな」


 イズルが示した先には安全委員会と書かれた表示板があった。

 クリスタル素材の黒板には座席表が浮かんでいる。


 座席が決められているようだ。剣術部門は黒板に向かって左側、魔術部門は右側に配置されている。

 ファラと別れて、イズルは左側の最後尾の窓側に座る。


「あれ?」


 隣の席に見知った顔があった。


「お前、タケリオだろ」


 イズルの言葉にタケリオはふん、と鼻息を荒くして顎を突き出した。鼻先越しにイズルを見据える。


「透明の君が合格するとはね。安全委員会の名が泣く」


「オレより弱いくせに何言ってるんだ」


「なんだと!」


 顔を真っ赤にしてタケリオが机に拳を落とした。響き渡った怒声に教室中の生徒が振り返った。

 あ、と小さく叫んでイズルは手を叩く。


「いいこと思いついた。お前、今日からタコ坊主な。すぐ真っ赤になって怒るから」


「ふざけるな! 誰がタコだ」


「お前だってオレのこと透明君って呼ぶだろ。な、タコ坊主」


「貴様!」


 蒸気を発する勢いでタケリオが立ち上がった。その背後に影がよぎった。


「よお、タケリオじゃんかよ」


 タケリオは声の主を確かめる。


「フレデリック先輩」


 袖口のラインは黄色。三年生を表す色だ。タケリオは青ざめ、背筋を正して頭を下げる。


「お久しぶりです」


「おう。大したものだな、一年で選抜試験に通るなんて滅多にないことだぞ」


「恐縮です」


 背中を折ったまま視線を上げずにタケリオは答える。


「剣術部門のレベルが低かったんじゃね?」


「貴様ぁ!」


 イズルは襟に掴みかかるタケリオの顎を押しのける。赤くなったり、青くなったり、忙しいタコ坊主だな。


「ふうん、お前がイズルだな。生意気な一年がいるって評判だぞ」


「そういうあんたは?」


「オレはフレデリック・アーク。剣術部隊長だ。お前の直接の上司ってわけだ」


「よろしくな、フレデリック」


 ひ、とタケリオが小さく声を漏らす。なんだよ、とイズルが問うと「謝れ」とタケリオが怒鳴った。


「いいぜ、別に。安全委員会は実力主義だ」


 イズルの耳元に口を寄せる。


「実力を示せ。でなけりゃ、お前は用なしだ」


「あ」


 イズルはフレデリックの髪に触れた。硬い髪質は、強く立ち上がり、指に当たった衝撃にも負けず起立している。


「ツンツン頭と呼ぼう」


 ひいいっ、とタケリオが悲鳴を上げた。

 ざわめきを打ち消すように手を叩く音がした。


「静かに」


 教壇に立ったのは流れるような水色の髪をした女生徒だった。凛とした瞳の色からは彼女に宿る強い意思を感じさせる。


 入口付近では小柄な少女が身をすくめるようにして太ももに手を置いた。教壇の女生徒を認めると、フレデリックは彼女の左側へと移動した。


 初めまして、と中央の女生徒が挨拶をし、三人が自己紹介をする。


 安全委員会統括は、経験と実力を勘案して、二人の顧問による合議によって決められる。


 選任されたのがエメリア・アーキルだ。魔術部門専門でありながら剣術にも精通している。


 安全委員会統括には剣術部隊長と魔術部隊長の任命権がある。左側が剣術部隊長のフレデリック、右側が魔術部隊長アイリス・ノヴァールだ。


「あの。あの、よろしくお願いします」


 言葉に詰まりながらもアイリスは髪を振り乱して、勢いよく頭を下げた。


「オレはフレデリックだ。よろしく頼む」


「それでは今後の方針を話しておこう」


 エメリアは安全委員会の仕事内容について話し始めた。明確で淀みがない。堂々とした佇まいは委員たちの空気を引き締めた。


 基本は委員を五班に分け、日ごとに交代制で見回りを行う。見回り以外にも緊急対応のため待機や訓練もスケジュールに組み込まれる。


 見回り係の補佐として、連絡係が配置され、配布する首用アミュレットを通して、情報の共有や通信伝達を行う。


 腕章とアミュレットが配布された。

 安全委員会の身分を示す腕章は、星屑がきらめく夜空のような瑠璃色だ。上下に白いライン、中央には剣と杖を交差させたシンボルが施されている。


 アミュレットは紫紺の魔法石を首からぶら下げることで、委員同士や連絡係との意思伝達を行うことができる。


 続いて班決めだ。グループを四人ずつ五班に分ける。基本は剣術部隊二人、魔術部隊二人で構成される。選抜試験直後でもあり、発表された班は期間限定だ。


 一年生の合格者は三人、入学から間もないこともあって学院生活にも慣れていない。そこで安全委員会統括のエメリア自らが班に加わって見回りを行い、実務を通じて一年生のの経験を積ませる役目を担う。


「では試験直後で申し訳ないが、危険度レベルが上がっている」


 エメリアの言葉に室内がピン、と張りつめた。委員たちの意識が教壇に集まる。


 昨晩、結界に軽微な損傷があった。外部からの干渉、千年彗星の影響などが考えられる。


 現在修復作業は完了しているため、警戒レベルは5段階の3となる。警報装置も作動しておらず、重大な事態が明確に発生している警戒レベル4や5のように戦闘の覚悟が必要なレベルではない。


 ただし魔力の弱い魔物が侵入した可能性は排除できない。見回りを強化し、緊急で警戒レベルが上がる事態を想定しておくように、とのエメリアの指示だ。異常事態が発生した場合は即座にアミュレットでの連絡をすることとなった。


 フレデリックとアイリスの班は最重要地点の主塔と、供給塔を中心として、分担して警戒にあたる。残りの二班は校門付近を巡回して外敵の侵入に備える。


 エメリアが率いる一年生グループは学院の中心部だ。メインホール周辺を重点的に回ることとなった。


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