12 クエスト探し
「まったく」
噴水から出たイズルは、髪を払って水滴を飛ばす。
外出時の規則である制服には、魔力による防水、防汚効果がある。堅苦しい規則に感謝するときが来るとは。
「ごめんね」
二人は声を揃えて、手を合わせる。
「もういいから行くぞ」
天気がいいから髪の毛もそのうち乾くだろう。もたもたしてると、門限どころか、仕事も中途半端で終わる可能性がある。
広場を出て馬車乗り場方面へ向かう。街を見渡せるほどの時計塔が聳えている。
学院内は武具類の持ち込み禁止のため、仕事で使う道具は貸しロッカーに預けてある。目的地に近づくにつれて、馬車や人々の往来が盛んになった。
話し声や馬車が駆け抜ける音が街を賑やかにさせていた。週末で遠出する人も多いのだろう。
駅に備え付けられている一般の貸しロッカーとは別に、ギルド運営の貸しロッカーが存在する。
ギルドに手数料を払うことで使用できるロッカーは、魔力で保護されることにより、一般の貸しロッカーより高いセキュリティを期待できる。
ロッカーを開けて剣を取り出すと、おお、とローザが感嘆の声を漏らした。装備した剣を隠すようにしてマントを羽織ると制服も隠れた。
問題は残る二人だ。アルテナ学院の制服は街でも有名で、意識も向きやすい。ギルドに連れていっても、そこから仕事に向かうにしても、目立つのは避けたたほうがいい。
この先の中央市場で待たせて、一人でギルドに赴き、仕事を取ってマントをレンタルしてくるのが無難か。
マントはほぼ全身を覆えるし、徽章さえ隠せばいくらでも言い訳はできる。
昼間のギルドは冒険者たちで賑わっていた。午前中の仕事を終えて、戦闘を振り返ったり、祝杯を上げたり様々だ。
イズルは大広間の掲示板を眺める。初心者用のクエストでありながら、ファラとローザの実戦経験を積ますものといえば、どのような依頼がいいだろうか。
考えていると、一枚の紙が差し出された。
「こんなの、どうだ」
ガルドだった。報酬は難易度を考慮すると悪くはない。そこそこ楽して儲けられる依頼だ。心核血晶を得られるかについては微妙なラインだろう。
「今日は熊同士で戦ってきたのか?」
ガルドならば、素手で熊と取っ組み合いしても勝ちそうだ。体臭とも移り香とも言えそうなものが鼻につく。
「まあな、投げ飛ばしてやった」
ガルドはにやり、と眉を吊り上げた。
「どうでもいいけど」
イズルは一枚の紙を取った。難易度は「中」と言ったところだ。討伐対象はゴブリンだ。
「それはお前には物足りないんじゃないか?」
「今日はこれくらいが、ちょうどいいんだよ」
ゴブリンは初心者用の魔物として認識されている。今回は討伐対象の数が多いため、「中」に格上げされている。
弱い敵をたくさん倒せる、と考えると今回の目的に沿っているのではないだろうか。
「お、これはどうだ」
ガルドは話を聞かずに別の紙を渡してくる。その紙を突き返す。
「これにするんだよ」
ファラとローザに関することは伏せておくことにした。熊に見えてガルドは学院の教師だ。
「まあ、仕方ないな」
ガルドは紙を掲示板に貼り直した。