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10 姉妹と外出

 昼食を終えたイズルはメインホール前の噴水に来ていた。


 週末は学院の外出規制が緩むため、午前に比べると午後は生徒の数が少ない。


 朝食後には噴水回りのベンチは、ほぼすべて埋まっていたが、今では空席が目立っている。噴水中央の女神像から流れる水音がやけに大きく聞こえる。水面がキラキラ輝く。


 噴水の周囲はライトアップ用の灯具で飾られてあった。これも千年祭の準備の一環なのだろう。そういえば、と振り返る。メインホールも星形の飾りつけがされている。


 千年祭ということもあって、今年は学院全体に飾りつけをするらしい。


 メインホールの背後、最も高い位置にあるのが主塔だ。学院内の必要な魔力を生み出す存在である。最上階には展望台や学院長室があるらしい。


 中心となる主塔の左側にレヴィアの研究室がある研究塔、隣接する小さい塔は図書塔だ。


 主塔右側にあるのは供給塔だ。その役割は生産された魔力を受け各施設に配分し、学院の結界を維持することだ。主塔の手前にはイズルたち生徒が授業を受ける学術塔がある。


 これらの塔は内部で行き来できるようになっていて、菱形状に連なっている。

 今年はこれらの塔にも飾りつけがされる予定だ。


「オレは千年祭よりも仕事だけどな」


 学費だけでなく、遊べるくらいの金額も必要だ。空腹も満たされたことだし、ギルドに行こうかと踵を返そうとしたところで、メインホールの扉が音もなく開いた。


「あ、イズルっちじゃん」


 出てきたのはローザだ。隣にはファラがいる。りん、と鈴が鳴ったのは、果たしてどちらの髪飾りだったのか。


「どっか行くの? 私たちはこれから外へ遊びに行くんだ」


「ふふん。オレは遊んでいる暇なんてないからな。これからギルドで仕事だ」


「ギルド?」


 ファラが興味を示す。


「ええー、ギルド行くの、本当に? 私も行きたい」


「私も」


 ローザの言葉にファラが相槌をうつ。


「じゃまじゃま。遊びに行くわけじゃないんだ」


 二人を置いてイズルは並木道へ向かって歩き出す。前回の仕事は戦利品である心核血晶を奪われた。


 今回こそは、がっぽり稼ぐつもりだ。学費だけで終わりなんてつまらない。せっかくの学生生活、遊んでこそだ。イズルは二人を突き放すべく早足で歩きだした。


「いいじゃんいいじゃん。言ったでしょ、私たち将来人を守る仕事がしたいって」


「うん。やっぱり実戦経験は積んでおかないと。ギルドでの仕事は禁止されてるから行ったことないんだよ」


 ローザが駆け足で、続いて小走りのファラが追いつく。


 石畳の道の脇には、赤い灯篭が等間隔で設置されている。ここでも千年祭の準備の一環として、星形の飾りがされていた。夕方くらいになると、ライトアップがされるのだろう。


 灯篭を覆うようにして木々が並ぶ。季節柄それぞれの木々には、白やピンク、薄い紫の小さな花が咲いている。風が吹く度に散った花が足元に舞い落ちる。


「確かに実戦経験は大事だな」


 学院で高度な訓練を受けたはずの卒業生でさえ、最初の実戦では練習通りの動きができずに大けがすることもあるという。早い段階で馴れておくのは重要だ。


「でしょでしょ」


 イズルは速度を緩めた。校門付近では制服姿の生徒たちが何人か並んでいる。


 週末は平日と比較して、外出規制は緩くなる。理由についても厳しく問いただされることがないため、生徒の表情も穏やかだ。行列からは笑い声も聞こえた。


 最後尾に着くと、カード型の身分証を準備する。門番に提示すると、魔法陣でスキャンされ外出記録が残る仕組みだ。門限を破れば、四週間に渡って、週末の外出許可が下りなくなってしまう。


「分かったよ」


 金欠というわけでもないし、懐が寂しくなったら夜中に抜け出して仕事を探してもいい。今日は稼ぐことをあきらめて、二人には簡単な仕事を見繕うことにしよう。


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