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雪と彼女と

七章


一面の白い世界

辺りは静寂に包まれ

粉雪が降り積もる




そんな情景を無言で眺める女性がいた

彼女は瞬きするのを忘れたかのように

じっと雪に見入っている

彼女の名はランドクリフ

水と大地の力を持つ女神なのだ




「何を見つめているの?」

声に振り向くと

笑顔で訊ねる仲間がいた



「・・・あまりに綺麗だから」

銀の髪にマリンブルーの瞳を持つ彼女は微笑んでそう答えた



彼女―同じ銀の髪を持った仲間は

ランの傍に立って空を見上げた



「雪か・・・寒いはずね」

彼女の名はセイレーン

女神の特徴ともいえる

銀の髪を持ち、光と闇の力を持つ

それ故に瞳は漆黒だった

しばし二人は無言で空を見上げる



「・・・・静かだね」

口を開いたのはランだった



彼女―セイレーンは応えることなく只頷いて窓辺を離れた



「・・・さて、夕食の用意をしなきゃね

皆、そろそろ帰ってくる時間ですもの」

ランを横目で見てセイレーンはキッチンに立った



「セイ・・・・」

だがランは窓辺から動くことなく

視線も外さないまま

膝を抱えるように座り込んでいる




「ん?」

彼女は振り向きランの言葉を待った




「早く止まないかな・・・・」

雪を横目で見て

体を抱く腕に力を込め

呟くように言った




「雪が・・・嫌い?」

彼女は苦笑して聞いた

聞きながらも手元は止まらない

野菜を切る音が部屋に響く




「だって・・・物悲しくて

ここに一人でいるように思えるから」

ランは窓から視線を外して

顔を膝にうずめ消えるような声で言った




セイはそんな彼女を見て

一瞬動きを止めた

“あぁ・・・そうか”



自分たちと同じ色をもつ雪

音も無く降るその風景は

まるで世界を埋め尽くすかのようで



必然的に彼女自身を

孤独にさせてしまう


そんなものは錯覚でしかないのだけれど

でも人一倍暖かい場所を好む彼女には

息苦しい事以外何でもなくて・・・・



“やけに静かだと思ったら・・・

怖がっていたのね”

いつも笑顔でいる彼女のそんな一面を見て

なんだか愛しさを感じる

そう考えながら

一通り料理を仕上げると

調理をコンロに任せて

台所を後にする



窓辺でうずくまっている彼女

優しく頭を撫でると

顔をあげる



その顔は何だか今にも泣きそうで

彼女はあやすように優しく頭を撫でる



「私は・・・好きだけどな」

セイはわざと明るく言う



「・・・なんで?」

ランはまだ泣きそうな顔で見上げている



「暖かいからよ」

空を見上げて言う


ランはきょとんとして何度も瞬きを繰り返した


「雪が・・・?」

判らないのか聞き返してくる



セイはゆっくりと頷いて

ランに視線を移した



「雪は雨と違って、音を立てないでしょう?

それはね、眠っている人を起こさない為なの

・・・そんな優しさといっしょに降りてくるから

雪は暖かいのよ」

まるで物語でも話すかのように

ランの頭を撫でながらゆっくりと語る



いつしかランの瞳からは

涙が消えていた



「それに・・・

私たちの羽と同じ色でしょう?

ふふっ・・・何だか似ているわね」

セイは口元に指を当てて

笑って言った



その言葉にランも笑顔になる

二人は笑いあい、仲間の帰りを待った



数日後

その日も雪が降っていたが

ランは嬉しそうに眺めていた



セイの言葉を聞いてから

彼女には雪は暖かいものへと変わっていたのだ



サク・・・サクサク・・・

雪の中を歩く音がする

“帰ってきた!”

椅子から立ち上がり訪問を待つ

バタン!!

乱暴に扉が開かれ

仲間が入ってきた



「お「逃げろ!!」

迎える言葉をさえぎって

仲間は必死の形相で言った



外からの冷たい風が

ランの頬をなでる

彼女は一瞬何が起こったのか判らなかった



首をかしげているとセイに肩を叩かれる

不思議に思って見上げると

そこには真剣な表情の彼女がいた



セイは入ってきた仲間に目配せすすると

ランの腕を引き外に出た



「ラン、翼を広げなさい」

セイは真剣な表情のまま言った。

彼女は言われるままに翼を広げ

雪空へと飛び立った



「ねぇ・・・セイ、どこへ行くの?」

決して手を離そうとしない彼女を見ながら

聞いた




「追っ手の来ない所よ」

彼女は前を見ながら応えた



「追っ手?」

聞き返すけれど

セイからの返答は無い



しばらく飛ぶと

洞窟が見えてきた

ゆっくりと下り、翼を収めた



そしてゆっくりと話し始めた

神による女神狩りのことを



「・・・殺されるの?」

ランは大きな目に涙をためて

聞き返した



セイは何もいわずにランを抱きしめた

そして


「逃げなさい」

とだけ言った



「生きて・・・他の仲間を探すの

だから・・・今は逃げなさい」

ランの目を真っ直ぐに見つめ、

言い聞かせるように言葉を紡ぐ



ランは手で涙をぬぐって

大きく頷いた



セイはふと気がついたように

ネックレスを外すと

ランにつけた


「お守りよ」

セイは優しく笑うと

洞窟を出て行った



彼女のあとをおって洞窟を出たところで

彼女が振り返って微笑んだ



お礼を言おうとして

口を開いた直後



セイの胸を鋭い剣が貫き

彼女の体を真っ赤に染めた



「セイレーン!!」

ランは叫んで近寄った



「に・・・・さい・・・」

口元から鮮血を流しながら

セイは必死に言葉を紡ごうとする



信じたくなくて

大切な存在が息絶えていくのを

何度も呼びかける



「      」


セイはそう言い残すと

まぶたを閉じた



ランは彼女を優しく抱きしめ

そっと横たわらせた



ザッザザッザッザッ

白い気配が自分を取り囲むのがわかる



ランはゆっくりと立ち上がると

鬼神のごとき形相で正面の者たちを睨んだ



刹那

凄まじい光が辺りを飲み込んでいく



光が消えると白い気配を持つ者達は

跡形も無く消されていた



ランはセイをそっと抱き上げ

頬をすり寄せた



暖かかったその温もりはもう何処にも無い

お礼の言葉さえも言えなかった

静かに涙を流す彼女

まぶたの裏には

彼女の優しい笑顔が浮かんでは消えていく



雪がセイの体を浄化するかのように

降り積っていた




「っ!!」

沙羅は荒く息をつき

目を開けた



ゆっくりと体を起こし

大きく息を吐く



ふと外を見ると

雪が降っていた



“雪の・・・せいか”

天界を追われたあの日の夢を見るなんて

何年ぶりだろう?



あの後セイレーンを埋葬した後、名を変えて沙羅は

地界に降りた

そしてルシファーたちに会い

ともに戦った



戦ううちにヴェルゼに惹かれ

セイレーンの事は乗り越えたはずだった



ベッドから起き上がり

月をかたどったネックレスを眺める



あの時

セイレーンから受け取ったお守り



“これだけは手放せない”

手の中に閉じ込めて

胸に抱く



雪を怖がっていたあの頃

雪は暖かいと彼女は言った



だが彼女の亡き後

雪を見るたびに思い出すのは

浄化するかのような眩い白



かつて彼女が教えてくれた

羽と同じ色の雪



だが天地大戦の時から

彼女の羽は悲しみを表すかのように

青く染まり

白さは何処にも無い



“こんな私を見たら・・・あなたはなんて言うかしら”

空を見上げ

今は亡き仲間に呼びかけた


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