プロローグ : 私、ドジなんですっ!
どうも、深緋茜です。
ぜひ最後まで読んでってください。
「はい、今日からウチの会社で働く新しい仲間が増えたので、紹介しまーす。」
ある日、凡人であるこの俺、佐藤 陽翔(32)の働くごく普通の、ごく一般的な小売企業であるこの会社に、ごく平凡(?)な新入社員が来た。
「あ、えっと…き、今日からこの会社で働かせていただきます、須鯉 葵陽です。よ、よろしくお願いします!」
まるで社会人1年目のような、実に初々しい挨拶である。「俺もこんな時期があった」と、いよいよおっさんの域にまで達しようとしている俺の心が呟く。
後ろで結ばれた艶の良い栗色の髪、大きな目に浮かぶ髪と同じきれいな色をした茶色い瞳。鼻筋も通った、なかなかに整った顔をしている。それに胸も……おっといけない、邪念が。
まあなんともかわいらしいその子に、おっさん一同、ほのぼのとしていた。
「えーっと…じゃあ佐藤。お前、須鯉にこの会社の諸々叩き込んでやれ。」
「俺っすか?!またかよぉ…。」
例に漏れず俺はいつものように新人の教育係、悪く言えばお守りをさせられるのである。
まじかよ、だりぃ〜…と思っていたが、上司に命令された手前、断ることもできない。
まぁそれもあるけど、新人ちゃんが結構かわいいので、割と内心では喜んでいる自分もいた。
とはいえ、毎回毎回任されるのは嫌なので、一応嫌そ〜な顔をしておいた。
「あの、今日からよろしくお願いします!」
「はいはい、えっと、今日から君の教育係をさせてもらう、佐藤 陽翔です、よろしくね。呼び方は任せるよ。」
「はい先輩!!」
このときの俺は知らない。これから始まる受難の数々を。
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ある時、
「先輩!商品の発注数400個を間違えて400万個発注しちゃいました!どうしましょう?!」
また、ある時は
「先輩!手が滑ってコーヒーを資料の上にこぼしちゃいました!どうしましょう?!」
「先輩____!」
「せんぱぁい___!」
「先輩ぃぃ___!」
「せんぱ___ 」
「せん___ 」
「せ___ 」
「___」
___
「ぜん"ばぁい"…み"ずでな"い"でぐだざぁ"い"…」
涙と鼻水まみれで俺に縋り付いてくる。
やめろ!来るんじゃない!!
あぁ!
「おい!スーツに鼻水がついたじゃないか!」
「だってだって!ついに先輩が何も無いところを見つめて、輝きのない虚ろな目をしてたからぁ!」
俺はそんなひどい顔をしてたのか…。
いや、そんなことよりだ。
この新入社員、ポンコツすぎる!
逆に何ができるんだ!この娘は!!
毎度まいど「せんぱぁ〜い!」って擦り寄って来やがって!
かわいいけども!かわいいけどもっ!!!
そんなこと気にならないくらいポンコツさが際立ってやがる!
「は、はは…皆最初ハソンナモンサ〜」
「そ、そうなんですか…?よかった〜…実は私………ドジなんですっ!」
ドジ?そんな生易しい言葉でまとめられるもんじゃねぇよ!
くそぅ!かわいい顔に惑わされたが、まさか核級の爆弾だったとは…!
「もう無理かもしれない。」
心の声がつい漏れてしまった。
「見捨てないでください〜!次こそはちゃんとしますから〜!」
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あれから1週間くらい経っただろうか。
俺の教育の賜物で、須鯉もだいぶ仕事が板についてきたもんだ。
だが、決して仕事ができているわけではない。
こいつが今まで失敗してきたミスの数々、会社にバレれば即クビレベルだ。
それを俺がなんとかカバーして、修正して…まったく、俺がいなければどうなっていたことか。
腹に立つことにあいつは俺以外の上司に愛想振りまいて、随分と気に入られている。
俺もかわいい女の子に生まれたかったぜ。
と、まぁ日頃からこんな事を考えて、須鯉がミスしないように見張りながら、自分は自分の仕事をこなす、という高等テクが良くも悪くも身についてきたのであった。
ということで俺は今、須鯉の作業に目を凝らしてミスをしないか見張っている。
………
あれ?こいつ、「Enterキー」使ってなくないか?
そこには、いちいちスペースキーを連打して改行を行っている須鯉の姿があった。
なんと効率の悪いこと…。
「おい須鯉、お前はEnterキーという物の存在を知っているか?」
「…?はい、この何に使うか分からない大きいボタンのことですよね?」
何に使うかわからない?!
こいつ、まさかEnterキーの使い方を知らないのかっ?!
「なぁ須鯉よ。Enterキーと言うのはだな、改行をしたり、変換候補の中から選んだ言葉を決定したり、検索したり、他のキーと同時に押したりすることで便利な機能を発揮したりするものなんだ。」
「そうだったんですか!先輩は物知りですね!」
お前が無知なんだよ。それもとてつもなく。
てか、Enterキーって普通、パソコンいじってたらなんとなく使い方わかるくないか?
まぁ、いつものポンコツパワーだろうか。
「次から使ってみます!」
「おう。あそうだ須鯉、ここの資料まとめといてくれるか?」
こいつには難しいかな…と思いつつも、そんなに重要でもない資料の作成を任せる。何事も経験だ。
今の須鯉だと、3時間くらいはかかるだろうか。
ー1時間後ー
「先輩!資料作成終わりました!」
「え?!もう終わったのか?!」
「いやー、先輩に豆知識を教えてもらってから、随分作業が捗っちゃって!」
そんなはずはない…。
俺でも2時間はかかるぞ…?
それをこのポンコツ娘が1時間でこなしただと?!
どうせ、ミスばっかりだとか、何かしら勘違いしてたりだとか…そうに決まってる!
「見せろ。」
「はい!」
驚いた…多少、脱字があるものの、そこ以外はほぼ修正いらずの素晴らしい出来に仕上がっている…。
「………。」
「ど、どうですか?」
「お前すごいな…!ここまで早く正確に資料を作成できるなんて!」
「えへへ、先輩の指導の賜物ですよ〜」
そう言って照れくさそうに身をよじる。
俺自身はまるで狐につままれたような気分だ。
「おし、それじゃあこの資料をコピー機で印刷して、田中さんと健崎さんに渡してこい!」
「はい!任せてください!」
いやーまさかあいつがここまで仕事のできるやつだったとは…!
これは感心せざるを得ないだろう。
「先輩!コピー機を操作してたら、機械からなんだか変な音がしてきました!どうしましょう?!」
前言撤回、やっぱお前とんでもないポンコツだわ。
はい、いかがだったでしょうか?
この作品のコンセプトは「1を聞いて10を知るという、珍しいタイプのポンコツ」です。
無知な間はポンコツだけど、ちょっとコツを教えてもらうと、その一点だけ優等生に成長する、的な。
好評だったら続き書きます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
今後の展開に乞うご期待ください。