魔王軍の幹部は囚われの姫騎士に陵辱の限り()を尽くす
魔王軍幹部『紅蓮公』アルカード。
それは敵対する人間軍のみならず、同じ魔王軍の仲間でさえも耳にしただけで恐れ慄く強者の名前だった。
完全な実力主義たる魔王軍において二つ名を持つということは、一定以上の確固たる力を持ち合わせていることの証左である。
ましてや両手の指で数え切れてしまう人数しかいない幹部の地位まで得ているのだから、その実力を疑う者は誰一人としていなかった。
しかし、アルカードが周囲から畏れられている理由は力ではなかった。
どこまでも冷徹かつ冷酷で人間性の欠片もない、同族である魔族でさえも心の底から恐怖する謀略の数々。
紅蓮とは即ち、全てを氷に閉ざす地獄の冷気によって蓮の花のように凍りついてしまった血を意味する。
彼を表すのに、それ以上に相応しい言葉はない。
冷徹非道なる参謀にして、冷血無比なる吸血鬼。
そう、それこそが『紅蓮公』アルカード──。
「幹部さん、どうかしましたか?」
そのはずだ。そうに決まっている。
「顔が赤いですよ?お熱を計りましょうか?」
だから、そう。
「け、けけけけ結構だ!私は魔王軍幹部アルカードだぞ!人間軍の姫騎士たる君に心配される筋合いなどない!」
捕らえた姫騎士に一目惚れして心を奪われるなど、そんな間抜けな醜態を晒すことは決してあり得ない──。
「ふ、フン。この私を心配するなど、よくもまあそんな余裕な態度でいられるものだなソーリス・アルジェント姫君よ。それとも皮肉のつもりだったのかな?」
「そんなことは……幹部さんの様子がおかしかったので、大丈夫かなと」
「それが余裕だと言っているんだ。フ、囚われの身に成り下がっても流石は我ら魔王軍を苦しめてきた姫騎士様というわけか」
姫騎士ソーリス・アルジェント。
生絹のように流麗に靡く銀髪を持ち、紅玉のように煌めく赤い瞳をした少女。
幼い少女の外見をしていながら、しかし絶大な力を秘めた一角の戦士であることをアルカードは知っていた。
「幾度となく我が完璧なる作戦を瓦解させ、目の上の瘤として私の頭を悩ませてきた君だが……ククッ、こうして捕まえてしまえば、まるで幼気で可愛い少女そのものではないか。思わず愛でてしまいたくなるよ」
「ありがとうございます」
「……待て、何故そこで礼を言う」
「可愛いと褒めて頂いたので……?」
「皮肉に決まっているだろう!」
敵軍の本拠地に捕虜として囚われていることの意味を知らないわけでもないだろうに、一体何を考えているのか。アルカードの脳内は疑問符で埋め尽くされていた。
一方のソーリスはイマイチ何を考えているのか読み取れない瞳でアルカードを見つめながら、彼が手に持っている『とある物』を指差した。
「ところで、幹部さんが持っているそれは何なのでしょうか。白い箱のように見えますが……」
「む?ああ、これか。ククッ、これはなぁ……君に陵辱の限りを尽くすために必要な道具だよ」
アルカードの口元が禍々しく歪んだ。
冷血なる吸血鬼としてこれ以上ないほど相応しい凶悪な笑みは、見るもの全てを震え上がらせる凶相であった。
そんな魔人が陵辱のために必要とする道具。
鉄の処女やファラリスの雄牛すらせせら笑うソレが、自身の身を隠すベールを脱いだ。
「……ケーキ、ですか?」
「ああ、そうだ。占領した人間の街で接収してきた食べ物の一種だよ」
そこにあったのは、純白のクリームを輝かせるショートケーキだった。
「部下が気味悪がって食べなかったのでな。興味本位で私が食してみたのだが……フッ、これがまた酷い味ときたものだ!吐き気を催すほどの甘ったるさとは正にこのこと。恐らくは人間たちにとってのゲテモノ料理……違うか?」
「違いますが……」
「誤魔化しても無駄だ。私には全てお見通しだからな」
同じ甘味でも、アルカードの知る食事とは大きな開きがあった。無論、ケーキの方が下だ。
彼にとっての甘味とは、一部の限られた人間のみが持つ血液だった。
支配下に置いた領地の人間たちに捧げさせる血の中でも、それだけは特別甘く脂肪分も豊富で、非常に味わい深い代物となっていた。
「……ところで、その血液の持ち主の人達がどんな身体的特徴を有していたか教えもらってもよろしいですか?」
「む?構わないが……そうだな。あれほど美味い血を持っているというのに、どいつもこいつも太った中年の男ばかりというのは唯一度し難い点といえるだろう」
「それはもしかしなくても糖尿……いえ、なんでもありません」
「おかしな奴だな。まあいい」
ソーリスの何とも言いがたい表情を訝しげに思いつつ、アルカードは気を取り直してケーキの皿を差し出した。
「捕虜とはいえ食事を出してやらねば人道に反するからなぁ。ほら、遠慮せず味わって食べるといい。この甘ったるさの暴力たるゲテモノ料理を!」
白いテーブルの上にはショートケーキだけでなく、いい匂いが薫る紅茶も添えられていた。
因みにソーリスは手錠を嵌められているわけでもなければ、足枷がついているわけでもない。
もちろんそれは少女の柔肌を傷つけたくない、などという腑抜けた理由からくるものでは断じてない。
武装を剥ぎ取られた今のソーリスなど大した脅威ではないというアルカードの余裕の意思表示だった。
そうに違いなかった。
「ありがとうございます。頂きます」
「ククッ、お味の方はいかがかな?囚われの身となってから久々のまともな品だ。さぞや美味なことだろう……?」
「いえ、昨晩もおいしいパンとお水を頂きましたよ?」
「馬鹿を言うな。人間の食事に興味はないが、昨日まで貴様の対応をしていた部下は粗末なモノを与えていたといっていたぞ」
その部下についてはアルカードの権限で左遷させてもらったが、それは瑣末なことだった。
「貴様は王族とやらの血筋なのだろう?尚更粗末に感じたはずだが」
「わたしは妾の子として、城では冷遇されていましたから……慣れた味でした。それに捕虜の身分でパンと水を頂けるだけでも、大変ありがたく思います」
「……ふん、つまらんな」
アルカードが望んでいたのは屈辱に顔を歪め、高貴なる身分から底辺の立場に追いやられた絶望に膝を屈する憎き仇敵の姿だった。
しかしこの顔はなんだ。アルカードは歯噛みする。
ケーキを口に運ぶごとに目尻が下がり、幸福に蕩けていくような表情。
透き通るような白皙の頬に差す、淡い薄紅の肌色。
そしてなにより、
「おいしい──本当にありがとうございます、幹部さん」
「っ……!」
薄く、それでいてどんな大輪の花よりも誇らしく咲いて見える微笑みの可憐さ。
アルカードの心臓が、何故だか高鳴って仕方ない。
ああ、それはなんて。
なんて美しく、そして可愛らしいのか──。
「違う!!!!!!!!!」
「きゃ」
「この私がそのようなこと思うはずがない!!!!!」
「どうかされましたか?」
「どうかなどしていない!」
アルカードは再度自分が何者なのかを胸に刻む。
魔王軍幹部にして怜悧冷徹な冷血参謀、それが己であると。
従ってたかが人間の少女一人に心を乱されるなどあろうはずもない。
つまりこれは、宿敵との対面によりさしものアルカードも緊張しているというだけの話でしかなかった。
「ハッ!今回は上手くいかなかったが、次の食事の席では必ずや貴様に屈辱と陵辱の限りを味わわせてやるからな!夕餉の時間を楽しみにしているがいい!!」
「はい、幹部さんが来るのを楽しみにしています」
「食事を楽しみにしていろ!!」
捨て台詞だけ残して、アルカードは部屋を後にした。
因みに扉は優しく閉めていった。
動揺しているからといって物に当たるのは、三流魔族のすることなのだった。
「……行ってしまいました。でも、また数時間後には会えるんですよね」
そういってソーリスは、捕虜が囚われているとはとても思えない豪奢な一室に、所狭しと置かれた大きなベッドの上に体を預けて瞳を閉じた。
「待ち遠しいな」
目蓋によって漆黒に染め上げられた視界のスクリーンに、脳が過去の映像を投射していく。
それはソーリスがアルカードに敗れ、囚われの身となってしまった際の光景だった。
『ククク、遂に捕らえたぞ!姫騎士ソーリス・アルジェントよ!貴様の英雄豪傑ぶりにはほとほと手を焼かされてきたが、それも今日までだ!兜に覆い隠されたその尊顔、今こそ白日の下に晒してやろう!』
『ッ……!』
人間と魔族は長い歴史の中で、両手の指では到底足りないほどの戦禍を重ねてきた。
今回の戦もその一環だった。キッカケはほんの些細なことであっても、相容れない両種族の間にはその些細な火種さえあれば十分だった。
何度繰り返してきたか分からない闘争の中で、ソーリスは先陣を切って魔王軍に突撃する人間軍の旗頭として頭角を表し始めた。
けれどそれは本人が望んだわけではなかった。
ただ妾の子の第三王女として肩身が狭く、冷遇されて過ごしてきて、たまたま慰めとして握った木剣。
そこから彼女の才能は開花していき、遂には姫騎士として大人の騎士すら負かす実力を手にした。手にしてしまった。
彼女が絢爛なドレスに身を通すより、堅牢な鎧に身を包んだ方が周囲は喜んだ。
彼女が見惚れるような舞を踊るより、震えるような武を披露する方が周囲は喜んだ。
彼女が女性的な美を求めるより、男性的な強さを求めた方が周囲は喜んだ。
だから彼女はそうするしかなかった。
あとは簡単な話だ。
まるで厄介者を僻地に追いやるように、厄介者の王女様は姫騎士として戦地に追いやられてしまった。
そうして幾度も魔族を倒し、敵軍の作戦を潰し、功績を上げ、周囲から望まぬ方向で崇め奉られ……。
その最期は、宿敵たる吸血鬼によって幕を閉じられることとなった。
『……わたしを、殺すのですか?』
それもいい、とソーリスは思った。
どうせこのまま生きて帰ることができたとしても、またこうして戦場に赴き、いつか来る破滅の時に向けて数え切れないほどの血と涙を流すだけだ。
彼女が望んだ未来はやってこない。
それならばいっそ、この綺麗な吸血鬼に殺された方が美しく人生を終えられるというものだ。
スッと瞳を閉じて、覚悟を決める。
殺されるなら嬲り殺されるのではなく、一思いにやってくれた方がありがたい。
けれど自分も沢山魔族を手にかけたから、じわじわと甚振られる可能性の方が高い。
いや、きっと確実にそうなるだろうと彼女は諦めた。
すぐそこまで迫る死の感覚に少しの恐怖を覚えながら、ソーリスは最後に強く手のひらを握りしめて、
『えっなにこの子可愛い』
『えっ』
『あっ』
まるで戦場に似つかわしくない言葉を投げかけられた。
それは間違いなく、目の前の宿敵たる吸血鬼から発せられた言葉だった。
口にした本人も失言だったといわんばかりに慌てふためき、なかったことにしようと思案する余り百面相を形作ってしまうほどの妄言。
けれどソーリスにとっては。
昔から冷遇され、公的な場にも出してもらえず、煌びやかな衣装などとは縁遠く、母すら早くに亡くしてしまった彼女にとって、その言葉は。
誰よりも何よりも、望んでいた一言だった。
『……ありがとう、ございます?』
『ばっ、ちがっ!今のは違う!違うぞソーリス・アルジェントよ!私は貴様を可愛いなどとは断じて思っていないし、ましてや口にしたりなどとそんな馬鹿なことをするはずがないのであってそのだな』
吸血鬼の特徴である紅い瞳よりもよっぽど頬を赤く染めるアルカードを見て、ソーリスはこう思った。
──かわいい、と。
「……起きろ……おい、起きろ。ソーリス・アルジェント」
「……ん……ぅ……?あ、れ……わたし、いつの間にか眠ってた……?」
いつの間にか深い微睡の底に沈んでいたソーリスが目を覚ますと、そこにはアルカードがいた。
時刻は既に夜。吸血鬼が最も活動的となる時間帯だ。
それはつまり、告げられていた夕餉の時間を過ぎていたということでもあった。
「まったく、敵軍の本拠地に囚われた身であるというのに居眠りに耽るとは……!その余裕が一体どこから湧いてくるのか知りたいものだな」
「申し訳ありません……このベッドが、とてもフワフワで気持ちよくて……」
「嘘をつくな。そのベッドはとりあえず用意させた安物。貴様からしてみれば粗末な寝具もいいところだろう」
「いえ、そんなことはありませんが……」
ソーリスにとっては嘘偽りのない真実だったが、アルカードは信じようとしなかった。
魔族は完全なる実力主義であり、血筋のみで権威を保証される王族などという概念は存在しない。
人間の営みについては観察して学習するしかないからこそ、逆に『王族とは無条件に偉い者として扱われる』という固定観念から抜け出せなかった。
「それほどまでに余裕に溢れているのも、全ては私の責苦が足りないせいか──ならば仕方ない。夕餉によって君を辱めるのはやめだ。より直接的に、君という存在を陵辱してやろう」
アルカードの口角が歪に吊り上がる。
その笑顔を見たものは誰もがこう思うだろう。
冷血無情な魔族の権化である、と。
「幹部、さん?」
アルカードがソーリスをベッドに押し倒す。
柔らかい素材が彼女の体を優しく受け止め、その首元近くに白い手袋をはめた腕が深く沈み込んだ。
真紅の双眸と、薄緋色の視線が交じり合う。
言葉はなかった。
ただ無言のまま、互いが互いを見つめ合う。
一体どれほどの時間が経過しただろうか。きっと正確に計測すればごく短い時間だろうが、二人にとっては永劫に近い時間に感じられた。
そして徐に、アルカードはソーリスの手を取った。
細くて柔い、こんな小さな腕に魔王軍を苦しめてきた剛力が秘められているなど到底信じられない綺麗な手。
嫋やかな花のようなそれを、アルカードは自身の口元まで近づけて、
手の甲に、そっと口付けをした。
「…………」
「…………」
「……?」
「……フッ、クク、クハハハ!!どうやら余りのショックに言葉も出ないようだなぁソーリス・アルジェント!!」
高らかに笑い出すアルカードに対して、ソーリスはその意図を読めないでいた。
普通に考えれば、これから陵辱の限りとやらを尽くされるだろう流れ。
しかし魔王軍の幹部様は何故か、前段階にすぎない手の甲へのキス程度で勝ち誇ったように笑っていた。
「我ら魔族は人間の風俗や文化に疎いからなぁ。人間にとっての愛情表現とやらを調べるのに苦労はしたが……ククッ、私の頭脳にかかれば容易いことだった」
「……ということは、つまり」
「これが人間にとって最上級の愛情表現なのだろう?そんなことを仇敵たる魔族にやられてしまう屈辱と羞恥。心中察するに余りあるぞ、姫騎士様よ」
無論、そんなはずはなかった。
手の甲へのキスは確かに愛情表現の一つではあるものの、恋愛的な意味だけでなく親愛的な意味も多分に含まれる行為だ。
誰彼構わずされたいわけではないが、陵辱行為かと聞かれると首を傾げる程度のもの。
しかし、アルカードは心の底から勘違いしていた。
「……その、手の甲へのキスというのを、一体どこで学んだのでしょうか?」
「む?別に知る必要はないと思うが……いいだろう、教えてやる。最近人間どもの間で流行っているという恋愛小説とやらだ。姫と騎士の身分差のある恋を描いた不朽の名作だよ」
「不朽の名作」
「そこで最上級の愛情表現として記されていたのが手の甲への口付けだった。つまり!姫騎士たる君を陵辱するのに、これ以上に相応しい行為はないということだ──!」
それはどちらかというと、直接的な愛情表現をできない悲恋を描いたロマンス小説だと思うのですが……。
ソーリスは喉から出かけた言葉を飲み込んだ。
悲しきかな、種族の違いによる勘違い。
人間と魔族とでは生態からして確固たる違いがある。
同じ魔族でさえも種族差によって違いがあるのだ。
吸血鬼たる彼が人間を知るために小説を読み、致命的な勘違いをしてしまうのも無理からぬことであった。
「我ら吸血鬼の愛情表現といえば首筋への吸血だ。手の甲への口付け如きを重んじる人間の文化は理解できんが、まあ小説を読む限りそれはそれは大事なことなのだろう」
「ご自身でお読みになられたのですか?」
「ああ。軽く三周はした」
「そんなに」
「意外とおもしろ……いや、興味深くてな」
断じて人間の書いた小説程度が琴線に触れたわけではなかった。
「どうした顔が赤いぞ?羞恥の感情が隠しきれていないようだが、こんなものはまだまだ序の口だ。貴様が嘆き苦しむ日々に終わりがくることはないと思い知るがいい!ハーハッハッハッハッハ!」
真紅の眼が鈍く光る。
これまではのらりくらりと躱されてきたが、こればかりはさしものソーリスも誤魔化しきれない。
そう確信して、アルカードは勝ち確の高笑いを決める。
これこそが悪辣非道な魔族の本領であると勝ち誇り。
対して、頬を薄桃色に染め上げたソーリスは口付けされた手の甲を自身の唇へ寄せると、
「ハ──!?」
そっと、跡に口付けをした。
「ば、馬鹿な!?貴様一体なにをしている!?わ、私が口付けした跡にキッスをするなど!?」
「……はっ。あれ、私なんで……ち、違います。これはその、つい魔が差して……」
「何を言って……ハッ!?」
瞬間、アルカードの脳内を電流が駆け巡った。
魔が差して、というのは明らかに魔族たる彼への挑発の言葉だ。
そして意図が不明な間接キッス。
これら二つを組み合わせて考えると「貴方の口付け程度、私からしてみればちょっとした子供の悪戯に等しい児戯そのものですよ」といっているも同じ……!
「つまり私を馬鹿にしているのだな!?」
「い、いえそんな……私はただ、その」
ソーリスは恥ずかしそうに顔を下げると、
「……なんとなく、したくなって」
「ッッッッッッッッッ」
白い肌を林檎みたいに真っ赤に染めながら、そう言った。
無論、アルカードは歴戦の猛者にして冷徹なる幹部だ。
その程度の反応に心を揺さぶられるなどありえない。
ありえるはずがなかった。
だから、そう。
余りの可愛さに膝をついて胸を抑えるなんてオーバーリアクションを、彼がするはずがなかった。
「私は意趣返しをされた屈辱で膝をついただけ私は意趣返しをされた屈辱で膝をついただけ私は意趣返しをされた屈辱で膝をついただけェ……!」
「幹部さん?大丈夫ですか……?」
「大丈夫に決まっているだろう!私に近寄るな!そんな嫋やかな手で触れようとするんじゃあない!」
アルカードは慌てて立ち上がると、必死に態度を取り繕いながら、ソーリスに向かって宣言した。
「きょ、今日はこのくらいにしておいてやる!だがこれで終わりと思うなよ!いつか必ず、貴様に陵辱の限りを尽くしてその綺麗な顔を恥辱に歪めてやるからな!」
「綺麗だなんて……ありがとうございます」
「褒めとらんわ!あと夕食はそこに置いてあるから好きに食べろ!ではまた明日!」
やはり今回も荒れた様子とは裏腹に優しく扉を閉めると、アルカードは捕虜部屋を後にした。
数秒前までの喧騒が嘘のように静寂が一室を支配する。
ソーリスは自身の唇を優しくなぞりながら、
「……早く明日が来ないかな」
微笑みながら、明日の来訪を心待ちにするのだった。
これは冷血無情な魔王軍幹部の吸血鬼が、捕らえた姫騎士に陵辱()の限りを尽くす日々を送る。
そんなお話。
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