第三話 推しの笑顔のために何ができますか 1
私はゲームの設定と出来事を必死に思い返した。
無名の孤児として騎士団団長まで成り上がったリディオン様は、ある日、国の研究機関の資料室で隠し部屋を見つけ、そこで自分の出生の秘密を知ることになる。
人間の魔力を最大限に引き上げるべく、生まれたばかりの赤子を実験体にするという禁断の実験。リディオン様は物心がつくまでしばらくその研究施設で育てられたが、不憫に思った職員の一人が外へ逃がし、人知れず孤児院で育てられたのだ。
リディオン様は隠し部屋にあった文献を読み漁り、その命令が国王直々に下されたことを知り、命を懸けて守ってきた国への不信感が憎悪へと変わる…。
「う――ん、なんだか言葉足らずの設定だな」
英雄が一夜にして世界を滅ぼそうと思うようになる。人は、そう簡単に変わるものだろうか。
その理屈には今一つ理解できない部分がある。当時ゲームを遊んだ時も違和感を覚えたし、掲示板でも突っ込まれることが多々あった。実験の副作用などいろんな考察も読んだが、どれも私にはあまりしっくりこなかった。
しかし、【設定】という認識であれば、それが間違いなく起こりうることになる。この世界は【設定】で成り立つものである以上。
2年後のその日、リディオン様がその研究機関に足を踏み入れれば、ゲーム通りの展開が始まる。
敬愛されるリディオン様が、恐れられる悪魔に…
「――止めたい。」
私は思わず口に出した。
リディオン様が憎まれる存在になるなんて、考えられない。
でも、どうしたらいいのか。
私は、リディオン様のために、何ができるの?
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お昼は、ジャスティンさんが買ってくれたチーズの塊を使って、パスタを作ることにした。ベーコンのような燻製肉をカリカリに焼いて、茹でたパスタを卵と大量のチーズで和える。
そう、パスタ界のキングオブ胸焼け、前世食べたくても食べられなかったカルボナーラである。
付け合わせは、朝に焼いたパンにすりおろしたニンニクとバターを混ぜたものを塗って、釜でもう一度焼いてガーリックブレッド風に。
「メイラおばさんとはまた違った味付けで美味しい」
うひゃーお褒めいただきました。
「味は悪くないけど、なんだか胸焼けしそうな献立…」グレンは文句を言いながらも、気に入っているようでパクパクとガーリックブレッドを頬張る。
「お昼はこれぐらいガッツリ行かないと!」まあ、ガッツリ食べたことほぼないんだけどね。
「グレン、素直に美味しいと言えばいい」リディオン様は目を細めた。食べやすくするため、時折髪の毛を後ろに流すが、その所作とさらさら髪の流れに、私は心の中のビデオカメラに収めることにした。
朝食と同じように、リディオン様はキレイに平らげてくれて、おかわりまでしてくれた。ちなみに、馬の世話や力仕事を担当しているジャスティンさんは、お昼は自宅に戻って家族と食べたい派なので一緒に食事はしない。
「お昼からは、騎士団の方へ?」
「そうだな、昨日遠征から戻ったばかりなので、訓練の方は今日と明日は休みにしているが、やらねばならないことがある」
「グレンさんも一緒に?」
「そうだ。遠征以外は基本お側から離れない」と答えるグレンは得意げだ。
「グレンにはいつも助けてもらっている。」
あー褒められたワンちゃんのように嬉しそう。良かったね、戦友よ。
「そうなんですね…」
「ルノーア嬢、失望しているようだね」リディオン様は何かを感じ取ったように微笑んだ。「まるで、寂しいな、と言っているようだね」
そう冗談を言う推しも相変わらず素敵。
「いいえいいえ、ジャスティンさんもいるので寂しくないですよ。午後のお仕事も気をつけて行ってらっしゃい!!」
「ありがとう。夕食は自宅で食べるので、楽しみにしている。」
「何か召し上がりたいものはありますか?」
「ルノーア嬢に任せる。」
きゃ――なんだこの会話!新婚夫婦みたい!!なんと恐れ多いこと!!
私は懸命に心の動揺を隠す。
「なんか口角ピクピクしているよ」
「それ以上言うでない、グレン氏よ」
昼食後、騎士団に赴くために、リディオン様は軍装に着替えた。その軍装は、ゲームの時から一番似合うと思っていた格好である。【守護の大盾】のイメージカラーは黒。それも真夜中のような漆黒である。
――ああ、素晴らしき軍装のデザイン。デザイナー様は来世石油王になりますように…
硬質な革で作られたジャケットは、肩から胸にかけて精緻な銀の刺繍が施され、ジャケットの両肩には銀のエポレットが光る。団長の象徴である銀のマントは、銀糸で織られた光沢のある布地で、肩から流れるように背中を覆う。その真ん中には強固な盾の模様が刺繍されている。風になびくたびに、まるで光の翼を広げているかのように見える。
無論、その軍装の凛々しさを引き立てる、広い肩幅と強靭な胸板、引き締まった筋肉で覆われたお身体…
――ありがたや、ありがたや。一眼レフで100万枚連写したい。
「顔、また人間離れしてきたよ」グレンは呆れたように私を見た。
「だって…こんなのルーヴル美術館レベルよ…入場料を払わずに拝めるなんて罰が当たる…!!」
「何一つ意味が分からない」
「では、またのちほど。」と、リディオン様とグレンは馬に乗って去っていった。
私はしばらくその場に立ち尽くしていた。
正直な話を言うと、リディオン様の言う通りに、グレンが居ないことに私は確かに残念がっていた。
その理由は、無論、恋心などではない。グレンは、確かにアイドル団体に入っても違和感がないほどの爽やかなイケメンではあるが、生まれてこのかた恋に落ちたことがないゆえ、恋心とは何かが未だによく分かっていない。
私はただグレンを、頼らなければならないのだ。
そう、推しの闇堕ちルートを変えるべく、私は戦友の力を借りたい。
出生のことも、未来の出来事を変えることもできない。頭の回転も大して早くない私は、一人でなんとかしようとするのを諦めた。
というより、リディオン様の未来を変えるために、できること、借りられる力、全部使わせてもらいたい。
リディオン様のことを心から敬愛している。軍や騎士団、もしかして研究機関にも頑張れば入れるかもしれないグレンがいれば、作戦の幅もぐっと広がる。
ただ、それをどう伝えればいいかが難しい。
「2年後、リディオン様が闇堕ちするんですぅー」そのまま伝えても、信じてもらえるはずがない。おそらく「団長を侮辱するな」と怒らせるのがオチだ。
国の誇り、最強の英雄、にわかに信じ難いことだよね。私も信じたくないが、確実にやってくる未来なのだ。
まずは、どうやって信じてもらおう。私は頭を抱える。
読んでいただきありがとうございます!
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『孤児少年、迷いの樹海でもふもふと溺愛される第二人生を紡ぎます』
というほのぼのファンタジーものも連載しているので、
よければ作品ページから覗いてみてください。