第二話 推しの目に何が映っていますか 1
初日はその後、馬の世話を担当するジャスティンさんにも会ってきた。その他に庭の手入れや重い物を運ぶなどの力仕事も担当する、がっちりとした寡黙で渋めの大男だ。
しかし、私は見たのです。夕方になると妖精のような可愛らしい奥さんと奥さんによく似た天使のような娘が迎えに来た時に、それはそれは言葉で表せないほどの優しい目をしていらした。
「今日はありがとう、グレンさん。明日からもよろしくお願いします」
遠征が終わると今度は書類作業が増える。グレンはジャスティンさんより数時間遅れて屋敷を出た。私のことを不審者のように睨んでいた青年に仕事中、温かい紅茶を持って行ってあげたときは、小声で「ありがとう」と言われたので、素直な子であるのに違いない。ツンとデレが半々の黄金バランスと見た!
メイラおばさんが残してくれた丁寧な説明のノートのおかげで、仕事の大まかな流れは頭に入った。今日は休んでいいと言われたが、遠征終わりのリディオン様に少しでもきれいな環境で休んでいただきたい!夕食の準備をしなくてもいいので、共用部や浴室のほかに、何よりもリディオン様の寝室と書斎の掃除をひとまずやりたい。
大変綺麗に使ってくださる書斎の埃掃除、拭き掃除は案外すぐ終わった。その次は…私は雑巾と桶を持って、その部屋の前に立つ。
「頑張れ、頑張れ…!!」
自分に喝を入れる。
――あまりにも気持ち悪い顔で、お部屋の掃除をしないように。
その場所は、先程、同じ次元に実在していることを確かめたばかりの推しの部屋である。誰もいないが、わたしは扉をそっと開けた。
「仕事だ!!真面目にやれ!!」
腕を巻き、掃除を開始した。
――そこにかけてあるパジャマの匂いを嗅ぐなよ。
「よし!次は水拭き」
――落ちている綺麗な髪の毛を部屋に持って帰るなよ。
「さあさあ、ベッドメイキングしよ!」
――替えたシーツはどんな匂いするか想像するな!そこまで行くといろいろアウトだ!!
何とか自分と戦いながら、お掃除を終わらせた。先程、ジャスティンさんにもらったきれいな白い花を花瓶に生けて、私はそっと部屋から出た。
「なんだか、すっごくいい匂いでした…」
浴室のタイルをゴシゴシと磨きながら、笑みがこぼれる。
控え目だけど華やかで優美で蕩けるようで…リディオン様にはじめて会った時にも、寝室の掃除中にもずっと同じいい匂いをしていた。香水なのかコロンなのか、石鹸なのか分からない…リディオン様の匂いなのか?
推しの匂い。
「うへへへ」
生まれてよかったと、思えるような大変すばらしい匂いでした。着替えの匂いを確かめるなど、家政婦として有るまじきな行為は断じて行動に移していないので、業務に伴うささやかなご褒美に喜ぶのは大目に見ていただきたい。
ただ、願わくば今の顔が推しに見られることがないように…
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