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第一話 推しの朝食に何を作りますか1


 目を覚めたら産まれたての赤ちゃんになった。


 ――じゃなくて本当によかった。私は心の中でガッツポーズをした。


 余命1年の赤ちゃんというワードがあまりにもキツいし、洒落にならない。愛嬌はあるだろうが、その身体では推し活なんかできないから。


 神様ではない【何か様】、ひとまずありがとう。


「ふむふむ、前世と同じ女の子ね。なかなかふくよかだね、さては健康体だな、あなたー」


 指定するのを忘れたので男性としての人生もちょっと体験してみたかったが、赤ちゃんじゃないだけでひとまずお礼を言わねばならない。


 自室の鏡が映し出したのは、前世と年齢がそう変わらない若い女性の姿である。ありがたいことに、とても健康的で肉付きも良さそう。私は自分のお腹をつねて、そのぷにぷにさをしばらく堪能した。


 前の世界では細ければ細いほど好ましいと思われていようだが、物心ついてから病弱で好きな物も食べず、あばら骨が見えるほどげっそりとした身体を病院食と点滴で何とか寿命を伸ばしてもらったようなもので、華奢な身体は一欠片の憧れもない。この1年、好きなもの食べるぞ。太る上等!!


 顔に関しては可もなく不可もなく、天パ気味のふわふわ茶髪に健康的な日焼けした肌、可愛いというよりお人好しそうな町娘という姿を授けてもらった。要するに立派なモブ顔。その方が色々と【好都合】なので、全く問題がない。


 私は、自室にある数少ない荷物を大きめの手提げカバンに突っ込み始めた。もちろん、大事な採用合格通知書も忘れず。


 この世界で目が覚めて、枕元にあるその通知書を手にした瞬間、様々な情報が脳内に流れ込んできた。前世の例でいうと、この世界で1年間無事に生き抜くためのバージョンアップのための色んな情報を、前世のままの私の脳内にダウンロードして、インストールするようなこと。


 言語、歴史、文化、常識…


 あのゲームの世界をもとにしながらも、矛盾がないように世界を作り出すために【何か様】が用意してくれた、1人の町娘として知らなければならないことを数時間もかけて習得した。


 ――正直、なかなか二度と体験したくない経験。一気に大量な情報が流れ込まれで、頭が痛くて二回も吐いた。知恵熱のようなものか、パソコンのオーバーヒートようなものなのか…。


 ただ、同時に大好きなゲームの最強公式設定集をじっくり堪能したとも言える。そして、自分のこれから1年の生活もおおよそ理解できた。


【守護の大盾:任期付き職員採用通知書】


 治安維持、魔物退治、外敵撃退…この国の警備及び軍事の要である組織、騎士団。その一つである【守護の大盾】と言われる組織が、私のこれからの職場兼住居となる。


 守護の大盾、第96代団長。リディオン・シルヴァ。私は、その騎士団長の家政婦として採用された。団長…


 うほほ。


 すみません、考えるだけで大変な顔になってしまいました。そうです、その騎士団長はすなわち、はい、わたくしの推しであるリディオン様でござります。


 ご親切にも、私は目覚めた瞬間に日付を知ることができた。


 おおよそ、2年前である。


 最強の英雄、国の守護神、などと称えられる騎士団長がご乱心になった日。またその日、主人公の家族が殺されるので、主人公の復讐の旅が始まる…


 つまり、1年しかない私は、推しが闇堕ちする日を見ずに済むということ。あのドット絵ながらも圧倒的な強さと格好良さで前世の私を虜にした、ゲームの序盤にのみ登場した完璧な団長様のそばに、私は1年も居られることを許されたのだ。


 ありがとう、【何か様】。


 前世では病院を第二実家と誇り、18歳の若さで無念に永眠した私にもちろん家事に対する経験が皆無に等しいが、家政婦として必要な技術やスキルは既に一通りいただいたようだ。


 今いる自室で試してみたが、身体のほうか覚えているようで、なかなかいい手際でやったことも無いベッドメイキングを高級ホテル並にできた。多分その他も言われたら行ける。


 初日でクビにならずに済みそうで、胸を撫で下ろしました。


「頑張るぜ!!!」


 簡単な荷造りを終え、私は自室の鏡で身だしなみの最終確認をして、部屋を出た。


 騎士団は、馬車でいかないとたどり着かない場所にあるらしく、私の所持金はその運賃を払って少しお釣りが戻ってくるぐらい。せっかくだからもう少しお小遣いが欲しかったところ。


 ゲームの通りに、この世界の馬は戦闘の友にもなれるほど、筋肉隆々にして牙まで生えている雑食性。私の中二の部分をくすぐるような設定の一つだ。


 馬車に揺られながら、私は頭の中でゲームの世界に登場していなかった団長邸の設定をおさらいする。


 団長クラスとなると、貴族に遜色ない地位、領地と屋敷を国から授けられるが、私の推し…えへん、リディオン様はそれらを全て辞退したようだ。


『国を守るために生きてきた者ですので、どうか武芸を極めることのみ集中させていただきたい』


 だってよ。


 おーしびれるぅー


 とはいえ、事務仕事や度重なる遠征によって、さすがにひとりで身の回りのことを全て見る訳にはいかないようで、書類仕事を補助する文官ひとり、馬の世話するのにひとり、掃除調理などを担当する家政婦ひとりだけ、頑張って3人の少数精鋭に絞ったという。


 私の前任である、メイラおばさんという方は、勤務中ひどいぎっくり腰になって、ドクターストップを食らって、嫌々と息子に田舎の実家に連行されたため、一応その期間内の代理で私が雇われたという訳。


 ぎっくり腰というのは、本来数ヶ月以内で完治するものらしいが、ただわたくしの願いは1年間推しのそばに居たいという具体的な条件付きなので、恐らくメイラおばさんの腰はなかなか快方に向かわないだろう。


 すまない、メイラおばさん。私は心の中で会ったことの無い女性に謝罪する。憐れな少女の最後の願いを叶えると思って、綺麗な空気を吸って、お孫さんと沢山遊んできてください…!!


「うおおお、ここか…!!」


 到着したのは、想像の数倍も簡素とした屋敷である。

読んでいただきありがとうございます!

のんびりと書いていく予定ですので、

少しでも「続きが気になる」と思っていただければ、

いいね・ブクマでモチベーション爆上がりしますので、

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同時に

『孤児少年、迷いの樹海でもふもふと溺愛される第二人生を紡ぎます』

というほのぼのファンタジーものも連載しているので、

よければ作品ページから覗いてみてください。


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