運命を変えろ
気が付くと体育館でパイプ椅子に座っていた。
周りを見渡すと、どうやら三年生の卒業式らしい。
『加古川未来』
壇上で卒業証書をもらう未来の姿が見えた。
どうやらばあちゃんの命がけの魔法で、数分前の過去に戻ったみたいだ。
この時に戻って来たのには意味があるのだろう。
ここが俺達のターニングポイントなんだ。
『奇跡は起こるんじゃなくて起こすんだよ。運命を変えて──』
ばあちゃんの最後の言葉を胸に、俺は運命を変えるように大きく息を吸い込んだ。
「みらああああああい!」
こちらの怒号のような叫びに体育館にいた全員がこちらを振り向く。
在校生も。卒業生も。保護者や先生、学校関係や。そして、未来も俺の方へと注目する。
沢山の視線に臆してしまいそうになるが、こちとら運命を本気で変えようとしてるんだ。そんな目で怯んでられるかよ。
壇上に向かって走る。
途中、夏枝と目が合った。
夏枝と恋人同士になる未来。そんな未来もあったのだろう。この綺麗過ぎる女バスのエース様と恋人になったのなら、毎日がドキドキの学生生活を送れたことだろう。
途中、美月と目が合った。
美月と恋人同士になる未来。そんな未来もあったのだろう。この眼鏡美人な小説家と恋人ならば、どこかこそばゆくて甘い学生生活を送れたことなのだろうな。
途中、聖羅と目が合った。
聖羅と恋人になる未来。そんな未来もあったのだろう。このアイドル様と恋人になったのならば、明るく楽しい学生生活を送れたことだろうな。
でも俺はこの三人を選ばない。
覚悟は決めている。三人を選ばない覚悟と、未来を選ぶ覚悟。この覚悟は決して軽いものではなくて、俺の人生をかけたもの。未来以外を選ばないという人生をかけた覚悟。
この覚悟で俺と未来の死という運命を変えてやるんだ!
「好きだあああああああ!」
俺の告白は体育館だから良く響き渡る。
まるでばあちゃんが現れた時の様に、時が止まった体育館。
場の空気を読めない在校生が、急に卒業生に告白している構図。
告白するなら後にしろよって思われるかもしれないが、学校の嫌われ者をなめるな。こんな空気、痛くもかゆくもないわ、ぼけ。
「俺は、未来のことが好きだ! 大好きだああああああ!」
ここでようやく愛の言葉に対して、周りから、「わぁ」とか、「おお」なんて声が上がる。それと同じくらい冷ややかな視線を感じる。滑っていると言われれば大滑りしているが、こちとら滑る滑らないでやってるわけじゃないんだ。覚悟を決めて、命をかけて告白してんだよ。
ようやくと未来も状況を把握できたのだろう。真っ赤に顔を染めると、普段クールぶってるくせに、やたらとあわあわと始め出した。
「や、ちょ……。え? 世津? なんの冗談……」
「冗談なんかじゃない!」
俺は首を横に振って、本気だということを伝えた。
俺と未来の未来を変えてやる。
「いつも世話してくれる未来が好きだ。
料理を振舞って自慢げにしている未来が好きだ。
ゲームが下手なのに楽しそうにしている未来が好きだ。
お姉ちゃんぶる未来も、先輩ぶる未来も全部、全部好きなんだ。
なんども、なんども、なんども、俺を救おうとしてくれて、命がけで俺を救ってくれた未来が好きだ。
未来、だい、だい、だい、大好きだっ!」
愛の言葉を周りの視線なんて気にせずになんども、なんども、なんどもおみまいしてやる。
「未来とずっと一緒にいたいんだっ!」
かぁぁぁと赤くなっている未来は、キョロキョロと周りを見渡して、視線を伏せて立ち尽くしていた。
「な、んで、こんな大勢の前で、そんな、こと……」
「俺が未来を本気で好きだってこと、みんなに知ってもらいたいんだ!!」
俺は壇上の方へ手を伸ばす。
「これからはいとことしてじゃない! 恋人として俺の側にいてください!」
こちらの告白のセリフに対し、未来は言葉ではなく体で表現してくれた。
「世津……!」
壇上から俺目掛けて飛んでくる。
振ってきた愛しい人を見事にキャッチすると、反動で二回転くらいしちゃった。
「私も、世津のことずっと昔から大好きだよ」
受け入れてくれた言葉。
キスできるくらいに近い距離。
見つめ合う。
そのまま吸い込まれるように俺達はキスをした。
運命を変えてしまいそうなほどに甘いキスを──。




