バッドエンドを覆してよ……!!
地元の駅前はすっかりとクリスマスモード。バスロータリーの木にはライトアップが施されていたり、ビラ配りの人達もサンタコスなんてしている。
そんな駅前を行き交うのは、やっぱりカップルが多いな。
大人なカップル。俺らと同級生くらいのカップル。中学生のカップル。最近は小学生のカップルまでいるんだね。凄いや。
すれ違うカップルを妬ましそうに見つめる隣の男の子へ注意してあげる。
「世津。そんな恨めしそうにしないの。未来お姉ちゃんと一緒なんだから」
「誰が姉だよ。一日違いめ」
憎まれ口を叩かれたが、嬉しいことに違いはなかった。
世津とクリスマスイヴデート。
恋人になってから過ごしたかったけど、それはわがままってものだ。こうやって世津の隣を歩けるだけ感謝しないといけない。
「ふふん♪」
自然と鼻歌を歌ってしまう。
今日はなんて良い日なんだろうか。
「……聖羅?」
駅前のバスロータリーを歩いていると世津が急に立ち止まった。
彼の視線を追うと見知ったポニーテールの女の子の姿があった。
冬根聖羅ちゃんだ。
彼女は世津や私の家方面に向かうバス停で、寂しそうにぽつんと立っていた。
もしかしたら世津の家へと向かおうとしているのだろうか。
彼女の行動に勘づいた世津の足は自然と冬根聖羅ちゃんの方へと向かう。私は咄嗟に彼の腕を掴んでしまう。
「未来?」
「世津。冬根さんのところに行くの?」
待って。待って欲しい。
今日はクリスマスイヴ。せめて今日くらいは世津とふたりで過ごさせて。
「仲間が困ってるから。行かなきゃ」
「それは仲間だから? それとも冬根さんが好きだから?」
「いや、好きとか──」
「答えてよ」
「そんなんわかんねぇよ。意識してるかもだけど、好きとかどうとかって……」
「……行かないで」
心の中の叫びを世津に出してしまう。
「そんな中途半端な気持ちで行かないでよ!」
通行人達が軽く見てくる。
でも、そんなの気にしてらんない。
「そんな中途半端な気持ちだったら、今日は私とクリスマスパーティしようよ。私と一緒にいようよ。ね?」
握る手に力が入ってしまう。
「もう、世津がいなくなるのは……嫌、だよ……」
「なに言ってんだよ。俺が未来の前からいなくなるなんてあり得ないだろ」
「……」
世津の言葉を聞いて、私はなにを愚かなことを口走ったのだろうと反省する。
私は世津を救うためならば恋人じゃなくなっても良いと思う。生きてくれているだけで良い。
そう決意したってのに、クリスマスイヴだけは一緒だなんて考えが甘すぎる。
「なにやってんだろ、私」
軽くパンパンと頬を叩いて仕切り直し。
決意したなら覚悟を決めて背中を押せ。加古川未来。
「ごめん、世津。なんか痛い女みたいになっちゃって」
「いや……」
「これだけは聞かせてよ」
溢れてしまいそうな涙を我慢して彼に問う。
「冬根さんと恋人になることがバッドエンドだったとしても、世津は彼女と恋人になる?」
「バッドエンドなんかにさせない。もし、そんな終わり方が待っているだけだとしても、覆してハッピーエンドにしてやる」
本気の答えはどこか子供っぽく、綺麗事の単語の羅列を描いてしまっているが、そんな小学生でも出せそうな決めセリフでも私は彼を、信じることにした。
「証明してみせて。バッドエンドをも覆す、きみのハッピーエンドを」
私はくるりと回れ右して未来は俺に背中を見せる。
「邪魔者は帰るとするよ」
最後に振り返らずに彼に忠告しておく。
「中途半端なことしたら許さないから」
言い残したら私は早歩きでその場を去った。
冬根聖羅ちゃんに世津の未来を託して。
♢
冬根さんと本物の恋人同士になった世津は幸せそうで。
冬根さんも初恋が実ったように喜んでいて。美男美女カップルでお似合いだった。もし、これがタイムリープしていない状態だったなら私は胸に穴が空いたような状態だったのだろう。
でも、これで世津が助かるならばそれで良い。
冬根さん。世津をお願いします。
世津。冬根さんを幸せにして。
お幸せに──。
心から祝福したのに、世津は死んでしまった。
冬根さんと遊びに行った先で事故にあってしまった。
どうして、どうして──。
私はまた時の砂を振りまいて虹色の光に包まれて時を駆ける。




