バッドエンドを覆してよ……!
ぴゅーっと秋も深くなった風がひとつ吹いた。
季節の変わり目を告げる冷たい風。
学校の渡り廊下の自動販売機には、世津がなにかを買おうとしている背中が見える。カフェで今日も食後のコーラでも飲もうかな。
「私、ミルクティー」
彼の指はピタっと止まってしまう。
「なんで俺がパイセンに奢らにゃならん」
「今から私が世津の悩みを聞いてあげるからかな」
「ぬ?」
振り返った見慣れた愛おしい顔はちょっぴり困ったような顔をしており、可愛く見える。
照れ隠しのように自販機のボタンを押してしまう。
「あ!」
「まいどありー」
「くそパイセンめ!」
「まぁまぁ。世津悩んでるでしょ。話聞いてあげるよ」
お姉ちゃん振りながら自販機の前にあるベンチに腰掛ける。
「ったくよぉ」
世津がコーラを選んで、グビグビと景気良く飲んでいるところにぶっこんでやる。
「秋葉さんにどう返事するか決まった?」
「げぼぉぉぉほぉ」
あまりに唐突にした質問なんで景気の良いゲップを出していました。
「汚いなぁ」
「いや、てか、なんで……」
「世津のことならなんでもわかるよ」
「なんでわかんだよ。こえーよ」
「わかるんだなー、これが」
「いとこだからわかりやすいってか?」
「そう、かもね。いとこのままでも良いんだよ。そんな関係性でも良い。なんでも……」
そう。なんでも良いんだ。なんでも……。
ここで話題を止めればふたりは幼馴染の関係のまま。
ここで背中を押せば幼馴染から恋人へ……。
つい力んで世津を睨む。
「秋葉さんへの返事どうするの?」
「そもそもちゃんと告白なんかされてないからな。答えるもなにもないだろ」
「なるほど。そっか。わかった。質問を変えよう。
押したくない背中を押す。
「世津は……秋葉さんが好き?」
「なっ……!」
「好き?」
「そりゃ好きだけど……」
「恋人になりたい好き? 幼馴染としての好き?」
「ええっと……。美月が俺を意識するようなこと言って来たのにいつも通りでモヤモヤするというか……でもそれってのは俺が美月を……その……」
ああ! と世津は頭をガシガシとかきむしる。
「そうだよ! 意識してんだよ! 美月のことを好きって意識してしまってんだよ!」
やけくそに言葉に優しく返答する。
「じゃあ世津から告白するんだ?」
「へ……。いや、そこまでは考えてないというか、なんというか」
「へたれだなぁ、我がいとこわ」
「うるせーよ」
唇を尖らせて拗ねねいる世津も可愛いと思える。
「ね、世津。これだけは聞かせて。秋葉さんと恋人になることがバッドエンドだったとしても、世津は彼女と恋人になる?」
「なんかの心理テストか?」
「答えてよ」
生死をかけた質問なので、茶化さず真面目に答えて欲しい。だから真剣な眼差しで彼を見つめる。
「バッドエンドなんかにさせない。もし、そんな終わり方が待っているだけだとしても、覆してハッピーエンドにしてやる」
本気の答えはどこか子供っぽく、綺麗事の単語の羅列を描いてしまっているが、そんな小学生でも出せそうな決めセリフでも私は彼を、信じることにした。
「証明してみせて。バッドエンドをも覆す、きみのハッピーエンドを」
それだけ言い残して、私は校舎に戻って行った。
秋葉美月ちゃんに世津の未来を託して。
♢
秋葉さんと本物の恋人同士になった世津は幸せそうで。
秋葉さんも初恋が実ったように喜んでいて。
美男美女カップルでお似合いだった。もし、これがタイムリープしていない状態だったなら私は胸に穴が空いたような状態だったのだろう。
でも、これで世津が助かるならばそれで良い。
秋葉さん。世津をお願いします。
世津。秋葉さんを幸せにして。
お幸せに──。
心から祝福したのに、世津は死んでしまった。
秋葉さんと遊びに行った先で事故にあってしまった。
どうして、どうして──。
私はまた時の砂を振りまいて虹色の光に包まれて時を駆ける。




