とあるアキへのタイムリープ
私が買ったタイムリープもののグッズ。漫画やアニメ、ドラマを一通り見てわかったことはその全てがハッピーエンドで終わっていた。
そりゃ、そうだよね。創作の世界なんだからハッピーエンドにしなくちゃ。悲劇よりも喜劇の方がずっと良い。悲劇のヒロインなんて綺麗事だよ。泥臭くても喜劇を手にしたい。
物語の主人公も、話の途中に絶望し、打ちひしがれて、でも立ち上がって幸せを手に入れていた。
私と世津の物語も絶対にハッピーエンドで終わらせる。
タイムリープものの漫画やアニメ、ドラマを見て勉強になったことがある。
幾つかの作品に出ていた、《バタフライ効果》というもの。
非常に小さな出来事が最終的に予想もしなかったような大きなできごとにつながるという意味らしい。
そういえば、タイムリープものの作品も過去では違った行動を取り続けていた。小さな行動の積み重ねが幸せな未来への道標となる。
そこに共感を得た私は、今日も砂時計に願う。
「世津を救いたい。助けて──」
世津を見殺しにしたのは何回目になるだろうか……。
今度こそ、今度こそ……。
そう思う反面、失敗すればまた過去に戻れば良いと。タイムリープものの主人公達も何度も何度も何度もやり直して幸せを手に入れた。私だって何度もやり直せば良い。
そんな考えになる自分が嫌いだ。
世津の死を目の当たりにする度に、心がすり減っているからそんな考えになってしまうのだろう。
そう言い訳する自分が嫌いだ。
でも、大好きな世津を救えるのは大嫌いな自分だけだ。
だから私は今日も時を砂を振りまき、虹色の光に包まれて過去へ戻る。
♢
何度も何度も繰り返した高三の秋。世津のバイト先にある、シーズンで面接終わりのコーヒーを楽しむ。
世津の母方の祖父である、総持寺純一さんは私と血の綱がりはない。だけど、本当の孫みたいに扱ってくれる。
「スーツ姿の未来ちゃんも凄く魅力的だけど、どうしてスーツなんだい?」
カウンター超しで、コップを拭きながら雑談程度の質問。
「将来のために面接に行って来ました」
「受験生じゃなかったっけ?」
「先のことを見据えた面接です」
そう、将来のこと。
世津を死なせない未来を見据えた面接。
バタフライ効果を信じて、行動を変えてみる。
この行動によって世津が助かる未来へ繋がることを信じて。
私が取った行動は、受験生が就活生みたいな行動を取ったらどうなるかというのを試してみた。
せっかく試すなら憧れのキャビンアテンダントの面接に行きたくて、大手航空会社に猛アプローチしてみた。
最初は断られてしまった。
そりゃ、募集要項が大卒だけだし、高校生の私が個人で連絡するなんて性質の悪いイタズラだと思われただろう。
でも、電話で何度もお願いしてみたり、直接会社に出向いたりして必死にお願いをすると、顔合わせだけはしてくれると言ってくれた。
過去を変えれば未来も変わる。そう信じて面接に挑んだ。
もちろん、合格なんてできるはずもない。ただ面接官は私の奇行にちょっぴり興味を持ってくれたみたいで、私の行動を称賛してくれた。
その奇行は、世津も気になるみたい。
バイトでやってきた世津にも同じことを聞かれたから、大人の女性らしく答えてやった。
「I have a time leap to help you. I am taking action believing in the future of living with you.(あなたを助けるためにタイムリープしている。あなたと共に生きる未来を信じて私は行動している)」
「いきなり饒舌な英語をぶちかましてきやがるなよ、パイセン」
「あはは。英語が得意だから国際線のキャビンアテンダントでも目指そうと思って」
「英語が得意ってのは知ってたけどさ、そこまでできるとは思いもしなかった。ちなみに今のはなんて言ったんだ?」
「何事も挑戦って言ったんだよ。進学だけに力を入れていたらその先が見えない。大学入試がゴールじゃないからこそ、色々と行動したいと思って。──同じことの繰り返しは、もうごめんだから、ね」
最後に本音をぶちかましてしまう。
「おお! 始めて未来が先輩らしいこと言った」
「私はきみの先輩だからね」
もう、失いたくない世津を見て、愛おしさが炸裂してしまう。頭をポンポンと撫でてから店を出た。




