とあるフユへのタイムリープ
私のタイムリープには区切りがあるみたいだ。
去年の春、夏、秋、冬。その期間になら過去に戻れるがそれ以上は戻れないらしい。
だけれど、その期間ならば何度でも戻れるみたいである。
しかし、過去に戻ったは良いけど、どうすれば世津を救うことができるのだろうか。
当然だが、タイムリープなんて初めての経験だ。
なにをどうすれば良いのかなんてわからない。
例えば、初めてのスポーツに挑戦するのであればルール等をネットや経験者に直接聞くなんてことができるだろう。
しかし、タイムリープの事に関してのネットの話なんて信憑性は0だろうし、経験者などいるわけもない。
おばあちゃんがいれば強い味方になってくれたのかな……。
ううん。弱気になるな未来。
過去にタイムリープしているという奇跡が起こっているんだ。もっと強気で攻めて行こう。
ある冬の日の放課後。
受験勉強なんてしている場合じゃない私は世津の教室の前で彼を待ち伏せしていた。
世津に会いたかった。
会いたくて、会いたくて仕方なかった。
教室から出て来た世津の顔が見えて、嬉しくってつい顔がニヤついてしまう。
「や」
なんとか冷静を装い、いつも通りを演じると手を上げて挨拶を返してくれる。
「おつかれー、未来」
労いの言葉を発する彼へ、大人ぶったような笑みを作ってしまう。
「未来先輩、でしょ。いくつ違いだと思ってるの?」
「うん、一つだね。一日違いだね」
いつも通りの彼との会話。このいつも通りの会話というのがどれほどまでに貴重なものなのか、今ではその大切さが、尊さが心に染みる。
「ね、世津」
「んー?」
「オタロード行こうよ」
オタロードはフィギュアやアニメグッズ、プラモデルなどの専門店が集中しているポップカルチャーの聖地。関西でいう秋葉原。
タイムリープなんてフィクションの世界でしか起こりえない。だからこそ、フィクションの世界から学ぶこともできるのではないだろうかと思う。
「おい、受験生。そんな余裕しゃくしゃくで良いのか?」
世津の言う事はその通り過ぎる。
本来ならば、来月にはセンター試験があるため、この時期に遊びに誘うなんてバカだと思われても仕方ない。
しかし、今は近い未来よりも、これから先もずっと一緒にいたい未来の人のために動かなければならない。
世津を安心させるため、鞄に手を突っ込んで一枚の紙を取り出した。
「余裕でA判定なので」
「はい、非常にむかつくな、このパイセン」
ピースサインを送ってやる。できるだけいつも通りで。
「いや、別に、未来が良いんなら良いんだよ。俺も暇だしさ」
「決まりだね」
回れ右して階段の方へ歩みを始めると、世津がすぐに隣に並んでくれる。
いつもの距離感。身長差。足音。
それだけで泣きそうになってしまう。
「それにしても、オタロードまで足を伸ばすなんて珍しいな」
「あんまり行かないね」
「なんか欲しいものでもあんの?」
階段を下りながらの彼からの質問に、私はテンションが上がってしまっていた。
軽くジャンプして階段を数段飛ばす。踊り場に降り立って世津の方へ振り向いた。
「最近、タイムリープものにハマっててさ。そのグッズでも買おうと思って」
「へぇ。タイムリープ。ちょっと意外だな」
「でしょ。タイムリープものの主人公の決断力とか、覚悟とか、色々と勉強しないと」
「未来よ。俺が言うのもなんだが、今はそんな勉強より、受験生なんだから参考書の勉強の方が良いんでねぇの? いくらA判定で余裕だっていっても、世の中に絶対ってのはないんだから」
ぐちぐちと母親のように言って来る姿が妙に可愛くて、切なくて。私は世津の手をギュッと握りしめた。
「そうだよね……。この世に絶対なんてない。それはどんなことでもそうだよね?」
「ちょ、近い、近い」
恋人の距離。このままキスできてしまうそうな距離。
私達は恋人。このままキスしても良いと思えてしまうが、この時はまだ恋人ではない。
彼との口付けを、グッと我慢する。
「そうだよね。うん。そうだよ」
誤魔化すように、うんうんと頷いておこう。
「お、おーい。未来パイセーン。い、良い加減、きょ、距離感ってのを考えてくれよん」
その発言は、やっぱり私達はまだ恋人じゃないっていうのを突きつけられてちょっぴりショックだった。
「せ、世津、いくら私と近づきたいからって学校でやるのは反則だよ」
「おい、パイセン。どの口が言ってんだよ」




