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セツなきミライは砂時計にながされて  作者: すずと
加古川未来視点〜愛恋《いとこ》タイムリープ〜
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時の砂振りまいてあの頃へ

 世津が死んだ。


 屋上から落ちて死んだ。


 死んだ、死んだ、死んだ……。


 信じたくない。世津が死んだなんて信じたくない。でも、私の目の前で……。加古川未来の目の前で死んじゃった。


 緊急搬送された病院先で死亡が確認された時、病院の先生の無常な一言が全てだ。


「手は尽くしましたが、残念です」


 残酷な言葉だった。他人事みたいで冷たい真実。


 駆け付けた私のお母さんが病院の先生を揺さぶって何度も、「うそでしょ!? うそなんでしょ!? ねえ!?」と叫んでいた。


 私はそれをただ見ていることしかできなかった。


 急遽帰国した叔父さんと叔母さんとは、世津の葬式での再会となってしまった。


 叔父さんと叔母さんは泣きながら私に抱き着いてくれた。いつもは温もりを感じる抱擁もこの時だけはなにも感じない。


 告別式では学校関係者の人達、世津といつも一緒のお友達が来てくれた。


 その中でも秋葉美月ちゃんは昔から世津と仲が良かったため、崩れ落ちるように泣いていた。彼女を支えようとした夏枝七海ちゃんも、冬根聖羅ちゃんも、友沢陽介くんも、杉並豪気くんも……。


 特に世津と仲が良かった子達は泣き崩れてしまっていた。


 私からは……? 私から涙って出たっけ……?


「うううぁぁ……ああああああ!」


 わかんないけど、私は頭を抱えて歩いていた。


 ふらふらと地元を歩く。


「待ってよー」


「早くー、早くー」


 すれ違う男の子と女の子。


 まるで世津と私のようで……。


『未来。待ってくれよー』


『世津ー。早く、早くー』


 あの頃は私の方が足は速く、世津の方が遅かったっけ。


 それに身長も私の方が高くて、世津は小さかった。


 でも、いつの間にか……。


「身長追いついたぞ」


「追いつかれちゃったかぁ」


 地元の中学の制服を着た男女とすれ違う。


『未来。身長追いついたぞ。ざまぁみろ』


『追いつかれちゃったかぁ。でも、まだまだ中身は子供だね』


『なにをぉ?』


『あはは』


 ぐるぐると駆け巡る世津との思い出。


「世津……」


 歩くと世津の喜んだ顔が思い浮かんでは消える。


「世津……!」


 歩くと世津の拗ねた顔が思い浮かんでは消える。


「世津……!!」


 歩くと世津の楽しそうな顔が思い浮かんでは消える。


「世津!」


 歩く度に世津を思い出す。大好きな彼の顔が思い浮かんではシャボン玉みたいに消えていく。


「助けて……」


 誰か……。


「助けて……」


 誰か……。


「助けて……。世津を助けて……」


 誰でも良いから……。


「世津を助けてよぉ……」


 気が付くと私は学校の立ち入り禁止の屋上へ来ていた。警察が養生した立ち入り禁止のテープも無視して入った世津との最後の場所。


 そこには誰もいなかった。


 三月に吹く風は真冬みたいに凍えるほど冷たくて、でも、そんなこと気にならなずに私は歯抜けになっているフェンスに向かって小さく叫んだ。


「私が殺したんだ……。私が世津を殺したんだ……。立ち入り禁止の屋上なんかに呼び出したから……。私が殺したんだ。世津はなにも悪くない。だから……。だから世津を助けてよ。誰か……お願いします……。世津を、世津を……!」


 涙は出ない。愛しい恋人を亡くしたのに、出ない。


 膝から崩れ落ちる。そのまま土下座みたいな恰好で、誰かに必死に世津の救出を願う。


 でも誰も私のお願いを聞いてくれなくて、ただただ無常に凍える吹雪のような風が吹くだけだ。


 虚しくって、悲しくって、どうしようもなくて……。


 だけど……。


 絶望していたその時、私のポケットが光り輝いた。


「……時の砂?」


 今まで光ったことのない時の砂が虹色に光だし、私は握りしめて咄嗟にお願いした。


「どうかお願い時の砂。時を駆けることができるのなら過去に戻って世津を助けたい。私だって……。私だって時の魔法使いの子孫なんでしょ!? だったら時を駆けれるはずでしょ!? お願い! おばあちゃん……!」


 私の願いが通じたのか。時の砂の光は大きくなり私を包み込む。その時、砂時計が落ちるような音が聞こえてくる。


 サァァ、サラサラ──。


 私は砂時計にながされるように、意識が段々と遠のいていってしまう。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまでが本来の正史だったのかあ。 一周目は文字通り一周目だったんですねえ。 これから、バッドエンドを避けるための試行錯誤が始まってしまうのですか。
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