第八話 まだ実感はない
本命のチョコと共に告げられた未来の想い。
彼女の想いにこたえ、無事に恋人同士になったわけだが、未だに実感ってのはない。
そりゃ、未来は受験生で試験が残っているから忙しい身。いくら受験が余裕だなんて発言をしようがデートなんてできる訳もなし。実感がないのも当然っちゃ当然だ。
「元カレが元気ない。もしかしたら今カノと喧嘩でもした?」
目の前で綺麗な手が、ふりふりと振られる。
顔を上げるとそこには夏枝七海の姿があった。
「やっほ」
「やっほー」
仲間達には未来と付き合ったことを報告済みだ。みんな祝福してくれた。だからだろう。夏枝が今カノだのなんだのと発言しているのは。
「……にしたって、元カレねぇ」
去年の夏のことを思い出す。ややこしい先輩を回避するために偽物の恋人を演じ、見事にことなきを得た。それによって、彼女は女バスのエース様を継続できたって話。
「あのまま、本物の恋人になっとけば良かったな」
ボソリと呟いた言葉がこちらまで聞こえてきてドキンと胸を打つ。
瞬間的に、小悪魔的な笑みを浮かべて来やがる。
「う・そ」
はにゃーん、と風船の空気が抜けるみたく体の力が抜けた。
「ドキッとした?」
「そりゃんなこと言われたらドキドキするだろうが」
「浮気はダメだぞー」
「ハニートラップの加害者が注意してくることじゃねぇ」
ケタケタと楽しそうに笑ってやがりますよ、この子。
「そうだよ。あんな美人な先輩の彼女がいるのに浮気なんかしたら絶対にだめだよ」
「あのー、美月ちゃん。そう言いながら机を引っ付けて俺の腕にしがみ付くのはハニートラップ以外のなにものでもありませんが」
「これは幼馴染特権なのです。邪な気持ちを持ってはいけません」
こんなでかいおっぱいが腕に当たってるのに邪なこと考えるなって、なんの修行だよ。
「美月だけハニトラ仕掛けてずるいー。わたしもハニトラ仕掛けて四ツ木を陥れたい」
「おいそこの美女。そういう発言は裏でしろ」
「これは幼馴染特権です」
「ウチの幼馴染がAIみたいになっちまった」
わいわいとしていると、「あ、なんか楽しいことになってる」と聖羅がやってくる。
「みんなー。なにしてんのー?」
「聖羅もおいで。こうやって四ツ木にハニトラ仕掛けて陥れてるんだ」
「うぉー。楽しそー」
「ふっ。元アイドルの聖羅じゃハニートラップにもならんがな」
「なにをおおお!? ぼくは元じゃなくて活動休止中なだけじゃい!」
「これは幼馴染特権であり、ハニートラップではありません」
わいわいがやがやとしていると、爽やか系イケメンの陽介とヤンキー風の良い子ちゃんな豪気がやってくる。
「おいおい世津。加古川先輩と付き合ってるってのに、未だに美少女達をはべらかして楽しそうだな」
「ほんとな。こんなの加古川先輩が見たら激おこぷんぷん丸だぜ」
「豪気。それ、古すぎ」
「なっ!? まじで!?」
「まじ」
ガーンと膝を付いてショックを受けている豪気は放置で良いよね。
「しっかし、まさか加古川先輩を選ぶとはな」
予想外な声を出す陽介に夏枝が質問を投げる。
「友沢的予想は?」
「オレは夏枝とそのまま付き合うと思ってたがな。偽物が本物になるって思ってた」
そう言うと夏枝は少しばかり複雑な顔をしてのけた後に、大きく笑ってみせた。
「あの夏は所詮偽物。本物にはならなかったのだよ。見る目ないね、友沢」
「ま、オレの予想なんて大したことないけどな。豪気は世津が誰と付き合うと思ってた?」
ショックで膝を付き、聖羅にツンツンされていた豪気が立ち上がる。
「おれは秋葉一択だったな。こいつらめちゃくちゃ仲良いし」
「あ、わかる。わたしも美月だと思ってた」
「確かに。世津と秋葉の距離感は彼氏彼女の距離感だったな」
「これは幼馴染特権です」
「いや、物理的な距離感ではなくてだな」
そこから始まる、俺が誰と付き合うか論争。
いや、キミ達。結果は出てるんだから今更予想してなにになるってんだと思っていると聖羅が、「おーい!」と注目を集める。
「さっきからこの超アイドル冬根聖羅様の名が上がってないぞ」
「「「「聖羅はない」」」」
「なんでだよ!」
安定のいじられに、いつも通りだと思いながら聖羅が俺に直談判してくる。
「ありでしょ!? ぼくありでしょ!?」
「まぁ全然ありだな」
「ほらー!」
どやーっと胸を張る聖羅を無視して全員が俺をジト目で見てくる。
「やっぱり四ツ木はロリコンだったんだね」
「あたしの幼馴染がロリコンだった件」
「ロリコンか。先輩に報告だな」
「世津。真性のロリコンは早く治した方が良い」
「ちょっと待て! なんで俺がロリコンってことになってんだよ!」
「ぼくはロリじゃないよ!」
わーわーと騒がしい休み時間。
散々未来とのことをいじられながらも、楽しい時間は過ぎていく。




