第五話 裏技伝授
侵入禁止の養生がしてあるコーンとバーを簡単に跨いで屋上へと続く階段を上って行く。
他の階段と違って掃除が行き届いていないみたい。
色が変色している階段を上がるたびに埃が舞い上がる。
くしゃみを一つかまして、鼻をすすると屋上への扉がある狭い踊り場へとやってくる。
見た目から古そうな屋上への扉の窓には、『進入禁止』と赤字で張り紙が貼ってある。それを無視してドアノブを捻って回すと。
「あ、うん。開かないよね。そりゃ」
進入禁止って書いてあるんだから、そりゃ施錠されてるわけで。それにしたって、未来の奴はどうしてこんなところに呼びつけたのか。
屋上の鍵なんて持ってるわけないだろ。先生に借りろってか?
そんなもん、「進入禁止だ」の一蹴りで終わるだろうに。
もしかして、未来が屋上の鍵を持ってるってことか?
だとしたら、なんとも自己中心的な待ち合わせ場所なこって。
「きみに裏技を伝授してあげよう」
「ひょ!?」
天井にまで届くかと言わんばかりに、飛んで驚くリアクションを披露しちまう。
そりゃさ、扉の前でどうすっかなぁって悩んでて、ふいに耳へと息を当てられたらびっくらこくってもんだろ。自分でもなんとも間抜けな声が出たとは自負しているけどさ。
おい、そこのパイセン。なにをケタケタと笑ってやがる。
「なんのドッキリですか、パイセンこのやろう」
「別にドッキリってわけじゃないんだけどね。それにしたって、ひょって……。ふふ」
「後輩のマジのリアクションを笑うなんてパイセンとして失格だと思いまーす」
「いや、でも、そんな、あはは!」
こいつツボりやがった。腹抱えて大笑いしてやがる。
笑いのツボが長引く前に本題に入らせてもらおう。
「んで? なんでまたこんな埃っぽいところに呼びつけたんだよ。カツアゲにしても、もっと場所を選べってんだ」
「そうそう。ここ、埃っぽいよね。屋上に出よう」
未来は笑うのをやめて扉の方へと歩み寄る。入れ替わりに俺が後ろに下がる。
「鍵でも持ってんの?」
まさか、学校側が一生徒へ屋上の鍵なんて渡すはずないと思いながらも、未来だし先生を上手いこと騙して奪ったとか言われても信じてしまうかもしれない。
「鍵なんてないよ」
良かった。学校側は生徒全員に対して公平に接しているのがわかってちょっぴり安心する。
「えいっ」
未来はドアを右斜め上に持ち上げてドアを押した。
なんとびっくり。
普通にドアが開いた。
校内は負圧なのか、一気に風がこちらへと駆け巡ってくる。
めちゃんこ寒い。
「昔から建付けが悪いみたいなんだよね。こうやって開けると普通に開くみたい」
おい学校側。そこら辺の事情はどうなってんだ。良いのか、これで。
まぁ、屋上は進入禁止って明示してあるし、ヤンキーチックな見た目の生徒は一人いるが、本物のヤンキーなんていないから、こうなることは予想してなかっただろうな。
「さ、待ち合わせ場所に行こう」
呼びつけた本人とは思えないセリフを吐き、未来が乱れる髪をかき分けて屋上へ出る。
俺も髪の毛をかき分けて彼女に続いて屋上へと足を踏み入れた。




