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セツなきミライは砂時計にながされて  作者: すずと
加古川未来編~一週目の恋人~
80/100

第四話 義理チョコハッピーバレンタイン

「ハッピーバレンタイン!」


 真冬の教室内。暖房が効きすぎて頭がちょっぴりぼけーっとなる休み時間。


 甘ったるい声の主である聖羅が、甘ったるいお菓子を俺と陽介と豪気へ配ってくれる。なんともまぁコンビニで見かけたことあるような包装のチョコレートは圧倒的な義理チョコ。


 青いリボンが俺。赤いリボンが陽介。緑のリボンが豪気となっている。一応、色分けだけは考えてくれたみたい。


「あざす」


「どうも」


「うぃ」


「おおい! 反応が薄いぞ男子共!!」


 俺、陽介、豪気のリアクションが微妙なもんだから聖羅が怒ってきやがる。


 そりゃ、チョコレートを貰ったら男子的には嬉しいよ。でも、こんなあからさまな義理チョコではこれくらいな反応が妥当なところだと思うんだ。


「この絶対的なアイドルの聖羅様からチョコレートを貰えるなんてね、三人共! 物凄く光栄なことなんだぞ! 感謝して食べること!」


 胸を張り、俺達男性陣へと威張って来る。


「その絶対的なアイドル様は、アイドル活動を休止してる気がするけど?」


 真冬なのに風鈴でも鳴ったかのような涼し気な声と共に夏枝がやって来る。


「しょうがないでしょー。グループが解散しちゃったんだからー。不可抗力だー」


 聖羅の所属しているアイドルグループのメンバーが次々と辞めていってしまったらしい。進路のことや家の都合等で脱退してしまい、聖羅は一時的にアイドル活動を休止中ってわけだ。


「じゃ、わたし達でアイドルグループでも結成する?」


「……ふぇ?」


 夏枝が悪戯っぽい笑みを浮かべて、今しがた丁度こちらにやって来た美月の腕を掴み、聖羅へと提案を持ちかける。


「そこらへんのアイドルより売れそうな気がするけど?」


 表情こそひょうひょうとしている夏枝だが、そこには自信に満ちた雰囲気を感じ取れる。もしかしたら本気で言っているのかもしれないな。


「あー。まぁ確かに夏枝の言う通り、結構良い線いくんでない?」


 豪気が三人を見比べて持論を述べると陽介も続けて発言する。


「加古川先輩がなき今、学校のBIG3な美女達がアイドルグループなんて結成したら人気が爆発すんじゃね」


 陽介の言葉の後に、夏枝と美月と聖羅の顔を見比べる。


「なに見てんの?」


「見ないでよ」


「見るなー」


「そんなこと言われると見たくなるんだなぁ。はすはす」


「きも」


「キモ」


「KIMO」


 なんで聖羅だけネイティブ風な発音なんだよ。


「ここに加古川先輩が入れば敵なしだったんだろうな」


 陽介のしょうもない発言を夏枝が拾ってあげていた。


「ま、そうだよね。わたしですらあの人には勝てないって思うもんね」


「あのナルシスト夏枝が負けを認めた、だと」


「おい、そこの四ツ木。これ、あげないぞ」


 夏枝がポケットから取り出した透明の袋の中には、クッキーが丸見えであった。色んな形をした美味しそうなクッキーが数枚入っている。


「すみません夏枝様。欲しいでございまする」


「素直でよろしい」


 謝ると簡単にクッキーをくれる。


「いいなー」


 豪気が、他の人のお菓子を欲しがる三歳児みたいな発言をすると、夏枝がガサゴソとポケットから同じような袋を二つ取り出す。


「落ち着いてヤンキー。ほら、あげるから」


「よっしゃ!」


 豪気のやつ、ヤンキーと言われていつものネタをやらないところを見ると、普通にクッキーを貰えて嬉しいみたいだな。


「はい。友沢も」


「ありがと。でもさこれ、俺と豪気の分、明らかに世津のやつよりクオリティ低くない?」


「あははー。そんなことないってのー。視力悪いんじゃない?」


「いや、明らかに──」


「友沢はもっと視力悪くなりたい?」


「ありがとうございます。夏枝様」


 声だけは爽やかな男女の会話を横目に聞いていると、ブレザーの裾をクイクイっとされる。


 向くと、美月がコソッと俺のポケットへなにかを入れてくる。


「世津くんにはお世話になってるからチョコあげるね」


「本命?」


「義理」


「あ、やっぱし」


「でもでも……」


 握ってくるブレザーの裾を振りながらも、視線は伏せたままに発言してくる。


「特別な義理、かも」


 それだけ言うと、裾を離して恥ずかしそうに豪気の方へと駆け寄った。


 美月の意味深な言葉の意味を考えていると、「四ツ木くん」と聖羅が隣に立ってくる。


「ん?」


「あげたチョコレート。できれば一人で食べてよね」


「なんで?」


「……無粋なことを聞いてくるなー」


 拗ねたような言い草で、念を押すように言って来る。


「良いから。一人で食べてよね」


「んー? ま、男三人でもらったチョコを食べる趣味もないし、一人で食うよ」


「絶対だから」


 なにか意図があるみたいだが、聖羅は話題を変更するようにこちらへ問いかけてくる。


「そういえば、加古川先輩からってチョコレート貰ったの?」


「んにゃ。受験生だからな。そんなことしてる暇ないだろ」


「それもそうだよね。うんうん」


 キーンコーンカーンコーンと休み時間を終えるチャイムが校内に鳴り響いた。それを合図に俺達は解散して各々の席へと戻って行く。チャイムが響く中、ポケットに入れたスマホが震えたので確認すると、未来からメッセージが届いていた。


『放課後。屋上に来て』


 そりゃ今朝方学校に来るとはお聞きしましたがね先輩、屋上は立ち入り禁止ですよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 全員単なる義理ではないんですねえ。 どこまで想いが残っているか。 グループの件はそういう形で収束になりましたか。
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