第三話 星占いは最悪でも、この朝の日常は最高ですとも
『続きまして二月一四日。バレンタインの星占いのコーナーです』
テレビから聞こえてくる声にピクリと反応する。そういえば今日はバレンタインデーか、と人並みの男子並みにちょっぴりドキっとしたりする。
朝食を食べ終えた未来がキッチンで洗い物をしてくれている姿をチラリと見る。
チラリと未来を見たけれど……。
あ、うん。いつもみたいにコンビニで買った板チョコでもくれるんだろうな。
昨今の日本はあまりバレンタインデーに力を入れていない。それよりもハロウィンに力を注いでいるように思える。そうだ。そうなんだ。
今の日本はバレンタインに力なんて注いでいないんだよ!
以上、本命チョコをもらったことのない男子の言い訳でした。
しかし、淡い期待はしない方が良いのは確かだよな。それよりも今はこのコタツの温もりを感じておこう。
コタツでぬくぬくしていると、サッと食器を終えた未来がコタツに戻ってくるタイミングでバレンタインとは全く関係ない質問を投げる。
「そういや未来はなんで制服着てんだ?」
地域によって差はあると思うが、鷹ノ槻高等学校の三年生は二月、三月と休みとなる。
三年生の進路は様々だ。就職の決まった人。推薦入試で進学先が決まった人。これから受験本番って人もいるわけだ。もう学校での授業はあまり意味を成さないって感じかな。
だから、三年生である未来は学校が休みのはず。
「先生に質問しに学校に行くつもりだからね」
「流石は受験生。勉強熱心なこって。そんな受験生に朝ごはんを作ってもらって申し訳ない。いつもありがとうございます」
「受験は大丈夫だろうし、世津の面倒なんて片手間以下だからね。余裕ってわけさ」
「なんともムカつくありがたいお言葉なこって」
国公立を受ける受験生の態度とは思えないな。だが、センター試験の結果を見してもらったらファンタジーと思えるくらいにめちゃくちゃ結果良かったからな。
「この完璧美少女がいとこで感謝してよね」
「ははー。感謝痛み入りまするー」
全くもって否定できないため、ひたすらに感謝するしかない。
『──すみません。最下位は牡羊座のあなた』
テレビから星占いの結果が聞こえてきて、ニマリと見てやる。
「完璧美少女も、占いは完璧じゃないみたいだな。乙」
「世津も同じ星座でしょ」
「ガッデム。同じ土俵かよ」
「この子、バカだ」
呆れたツッコミを聞きながら未来と共に占いの結果を聞く。
『今日は好きな人となんだか上手くいかない日。でも大丈夫。そんな牡羊座のラッキーアイテムは砂時計。砂時計を見て癒されましょう。今日は素直でいると良いことが起こるかも』
綺麗な女性アナウンサーの声で最悪な占い結果を見てしまった。しかし所詮は占い。大多数を相手にしているので本気にはしていない。
「うーん。素直ねぇ」
俺と同じ牡羊座の未来は今の占いに納得していないようで、ボソリと憂鬱そうな声を吐いた。
「未来って占いとかあんまり信じないタイプだろ?」
「別に信じてはないけど、最下位はいやでしょ」
「そりゃ言えてる」
占いを信じる奴も信じない奴も、なんだかんだ一位だと気分は上がるし、最下位だと気分は下がるもんだよな。人間ってのは現金な生き物なこって。
「ラッキーアイテムは砂時計って言ってたろ。ばあちゃんがくれた時の砂。それがラッキーアイテムになるんじゃない?」
「あー。確かに」
未来はスカートのポケットより、世にも珍しい虹色の砂時計を取り出した。
「持ち歩いてんの?」
「うん。お守りみたいな感じでね」
「なに? もしかして時を駆けるとか?」
「おばあちゃんじゃないんだからできないよ」
「わかんないぞ。ばあちゃんは無理だって言ってたけど、もしかしたら時を駆けることができるやもしれない」
時の魔法少女の血を引いているのだから、案外やってみるとできたりするのかもな。
「いやいや。もし時を駆けることができたとしても、今が一番楽しんだから駆ける必要はないよ」
「ふぅん。このイケメンいとこの面倒をみるのが楽しい、と?」
冗談混じりで言ってやると、コタツに頬杖付いて目を細めて言われてしまう。
「楽しいよ。世津と一緒にいるの」
「……え」
予想外の回答に、俺の顔は真っ赤に染まったことだろう。それを見て未来はくすくすと笑ってきやがる。
「動揺しすぎ……ぷくく」
「は、はぁ!? べ、別に動揺してねぇし。冗談ってわかってるし」
未来は大人の余裕のような笑顔で、「はいはい」立ち上がる。
「それじゃ鞄取りに戻るね」
「あ、ああ」
「それから」
クルリとスカートを揺らして振り返ってくると、ニコッと誰でも簡単に落ちてしまいそうな笑顔を振りまいた。
「さっきの冗談じゃないからね」
「へ……」
なんだか胸を撃ち抜かれたような気分になっちまう。
パタンと閉まる玄関の音を聞きながら現実に戻されたかのようになる。
「なんだよ、未来の奴……。勘違いするようなこと言ってきやがって……惚れてまうだろうが」




