第76話 セツなきフユは砂時計にながされて
大阪北部にある遊園地。遊園地にしては珍しく、市街地にある。超有名アイドル・俳優を起用した面白いポスターは大阪らしく、クスッと笑えるものだ。
そんな遊園地は冬になるとイルミネーションを推している。
イブに聖羅と恋人になった俺達は、クリスマスに遊園地のイルミネーションを見に来た。
流石は推しているだけあり、イルミネーションに力が入っている。
10mは超えてあるだろうツリーは、これでもかと言わんばかりに光輝いている。周辺には可愛らしい小さなサブツリーがメイクアップされている。雪が降っているかのような光の演出もあり、かなりロマンチックだ。
「綺麗だね」
「聖羅の方が綺麗だよ」
咄嗟に返すと、ぷすっと笑われてしまう。
「なにそれ、きもいよ四ツ木くん」
「確かに。今のはキモかったな」
あははと笑い合ってから聖羅がポツリと教えてくれる。
「昨日さ、事務所からあまりにも連絡がしつこかったから電話に出たんだよ」
「なんか言われた?」
彼女は思い出したかのように苦笑いで教えてくれる。
「『ライブをめちゃくちゃにしてどうしてくれるんだ! 訴えてやる』ってね」
「なんて返した?」
「『だったら事務所絡みでぼくをいじめてたことを訴えてやる』って返したら、『そ、それは知らなかったんだ』とか言い出すから、『次連絡して来たら本気で訴える』って強く言ったら連絡なくなった」
「さっすが俺の恋人だ」
「にゃはー。恋人」
ガシッと腕を掴んで犬みたいにスリスリしてくる。
可愛いな、こいつ。
「それとね、実はさ昨日の夜に嬉しい連絡があってね」
「嬉しい連絡?」
おうむ返しで聞き返すと、こくりと頷いて教えてくれる。
「昨日のライブを見てくれた人の中にダンス関係の人がいたらしくてね。ぼくに連絡が来たんだ」
「あの中にそんな関係者がいたら、聖羅をスカウトしたくもなるだろうな。素人目から見ても圧巻だったもん」
「どもどもー」
俺の腕に抱きついたままピースしてくる恋人めっちゃ可愛いんやけど。
「なんて返事したんだ?」
「悩んだんだけどね。でも、答えは最初から決まってた」
掴んでくる腕に力が入る。聖羅がニコッとアイドルスマイルを送ってくれる。
「今はここがぼくの居場所だから」
「だな」
「責任取ってよね。この超アイドルになるはずだった冬根聖羅を普通に恋する17歳にした罪は重いんだから」
「そりゃ重罪だ。罰として聖羅を幸せにするとしよう」
「にゃはは。判決はくだされた。浮気したら許さないからね」
「するかよ」
「信用できないなぁ。四ツ木くんの周りには美女ばっかりだから」
「大丈夫。俺はロリだ」
「あ、認めた」
あははと楽しい時間を過ごしていると、冷たい感触が鼻先に当たった。
雪……?
どうやら夜空から雪が降って来たようだ。
ホワイトクリスマスだな、なんて思っていると
サァァ、サラサラ──。
砂が流れる音が聞こえてくる。
唐突に俺の脳内に砂時計の砂がながれる音は、春の日に見た時の砂のような音。
段々と強くなっている。
止むことのない時の砂の音は俺を不安という感情で包み込む。
聖羅……。聖羅……!
愛しの彼女を呼んでも、彼女はただただ楽しそうに雪へと手を伸ばしているだけだった。
こちらの呼びかけは聖羅には聞こえない。
舞降る白い雪は砂時計が落ちるように降り積もる。
白銀の世界は今までのことをなかったかのように白く時を染める。
砂時計が流れるみたく、時が戻るかのように──。




