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セツなきミライは砂時計にながされて  作者: すずと
冬根聖羅編〜ブロー・オブ・ウィンター〜
75/100

第75話 元アイドルからの告白

 聖羅が引退宣伝して現場から逃げるように俺達はバイク置き場に戻って来た。


「ふぃ。すっきりしたー!」


 わざとらしく額の汗を拭うフリなんかして、聖羅が清々しい顔つきを見してくれる。


「思ってる以上にめちゃくちゃにしたな」


 笑いながら言うと聖羅も幼い悪戯っ子みたいな笑みでスマホを見してくる。


「ほんと。さっきからスマホが鳴り止まないから」


 彼女は震えているスマホを無視して電源を落とした。


「ざまぁみろってんだ。天下のアイドル聖羅様を怒らすとこうなるんだよ。バーカ」


 繋がっていないスマホに向かって叫ぶ聖羅を見て笑ってしまう。


「ほんと、恐ろしいこって」


 言いながらヘルメットを投げると華麗にキャッチをしてくれる。


「こんなところでゆっくりしてるとスタッフにバレるかもな。さっさとずらかろうぜ」

「あいあいさー」


 ビシッと敬礼なんてしてみせて、パチッと聖羅がヘルメットを被る。


 俺は手早くバイクのエンジンをかけると、聖羅が後ろに座る。


 ギュッと俺の腹に手を回される。


「四ツ木くん。ぼくを遠くに連れてって」

「ここから逃げれたら結婚しよう。みたいな?」

「にゃはは。それそれー」


 楽しそうに返答する聖羅へ、注文通りに遠くへ行くためにアクセルをひねる。


 バイク置き場を出て、ショッピングモールを離れたところで一安心。


 信号待ちの国道で後ろに乗る聖羅へと質問を投げた。


「引退祝いになんか食いに行くか? せっかくのイヴだし奮発して奢っちゃるぞ」

「引退、か」


 こちらの提案に聖羅は呟いたあとに、確認してくる。


「そっか。ぼく、アイドルじゃなくなったんだよね」

「派手な引退セレモニーだったぜ」

「だったらさ。だったら……。もう恋愛も自由なわけだよね。我慢することもないんだよね?」


 どういう意味なのかすぐには理解できずにいると回している腕を、ギュッと聖羅が強く抱きしめてくる。


「四ツ木くん。好きだよ」


 パッと青になる信号。


 あれ? 今、聖羅はなんて言った?


 プッと後ろの車にクラクションを鳴らされて、慌てて前進する。


 ゴーゴーと冬の風が響く脳内で、さっきの聖羅の言葉を確認する。


「今、好きって言ったか?」

「言ったよー」


 こいつはなんでこんなにもあっけらかんとしているのだろうか。


 その好きって言うのは、愛しているの好きではないのだろうか。


 直接確認をするために、国道の路肩にバイクを一時停止させ、後ろを振り向いたら改めて聖羅に問う。


「なぁ聖羅。今の好きってのは友達としての……」

「なに言ってんだよ。恋人になりたい好きだよ」

「おまっ。な、んでそんな普通に言ってくんだよ」


 躊躇うことなくいきなり放たれた好きという言葉。その衝撃はなににも代えがたいものだってのに、こいつは朝起きた時のおはよーと同じくらいに自然に伝えてきやがる。


 こちらの動揺なんて無視して、目を細めて言ってくる。


「ぼくは、四ツ木くんのおかげで吹っ切れることができた。四ツ木くんがいなかったら、このまま我慢してアイドルを続けていたかもしれない。おばあちゃんのメッセージにも気が付かず、ただただ無駄に耐えていただけかも」


 でも。


「四ツ木くんはぼくに居場所をくれた。側にいてくれた。そんな四ツ木くんが好きです」


 胸に手を置いて真剣に放つ言葉の羅列を一字一句丁寧に言葉に表していく。


「ぼくと恋人になって」

「聖羅……」


 答えは前から決まっていたのかもしれない。


 俺と同じような境遇。俺以上の境遇の女の子。嫌われるという痛みが互いにわかる存在。


「……俺、も、その……聖羅のこと意識してた。同じような境遇だからこそ俺と同じ目に合って欲しくないというか……。それは仲間って意味じゃなく、ひとりの女の子として好きって意味、だったんだと、思う」


 妙にこそばゆくて、照れ臭くて、なんだかふわふわとした感じ。


「その、俺も、聖羅が好き、だ」

 正直な思いを返すと、ニパァっと明るい

笑顔が返ってくる。


 そしてそのままギュッと抱きつかれる。


「にゃはー。両思いだね」

「両思い、ですなー」

「四ツ木くんってロリコンだったんだねー」

「いや、おまっ。自分で認めてんじゃねぇかよ」

「良いんだよ。四ツ木くんがロリコンならぼくはロリで良いんだよ」

「んだよ、そりゃ」

「四ツ木くん。年が明けたらロリって呼ばれるね」

「……ま、聖羅が一緒なら別にいっか」

「にゃははー」


 俺がロリかどうかはさておき、聖羅の思いを受け取った俺達は恋人同志になった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夏も秋も、ここまでは行けたんだけれどねえ。 二度あることは三度ある。
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