第71話 もやもやするなら未来お姉ちゃんとケーキを買いに行こう
結局、聖羅になにも言えずに冬休みに入ってしまった。ほんと、間の悪い長期休暇だ。
だが、現代にはスマホという便利なツールがある。
これで聖羅に俺の思いを伝える。
電話は迷惑だろうから、メッセージを飛ばすぜ。
「……ぐぬぅ」
だが、文才などない俺に上手いこと聖羅を引き止める文章など思いつかず、自宅の居間にあるコタツに突っ伏すと、ぷすぷすと頭から煙が出る。
いや、もちろん出てないけど、それほどまでに知恵熱が出ちまったってこった。
なにが便利なツールだ。使用者が使いこなすことができないツールなんてないも同然じゃないか。
「ありゃま。どうかした?」
こちらが机に突っ伏していると頭上から聞き慣れたいとこの声が聞こえてくる。
そのまま、ぐでぇとノールックで答えてやる。
「良い文章が思い付かない」
「もしかして、ラブレターでも書こうとしてるのかな?」
恋バナだと勘違いした未来が興味津々にコタツに入ってくる。
「誰にラブレターな文を送るの?」
「そんなんじゃねぇやい」
「いいや。世津がそんなに必死に文章を考えるなんてラブレターだよ」
このいとこ様はなんで決めつけてきやがんのやら。
「告る? 告るんだよね? あ、でもでも、やっぱり女子としては直接の方が良いかな。紙に書いたラブレターも。メッセージでの告白も、そりゃ嬉しいけどさ、直接、『好き』って言ってくれた感動には勝てないってもんだよ」
俺は目をぱちくりとさせて未来を見る。
「まるで彼氏でもいたかのようなセリフ」
「おっと……」
こちらの言葉に、隠し事がバレたかのような反応を示してきやがる。
その反応は彼氏がいたってことで良いんだよな。
ん? あれ?
「未来って彼氏いんの?」
尋ねると遠い目をして天井を見上げた。
「思い出は遠くの日々……」
「なにを感傷に浸ってやがるんだか」
しかしあれだな。未来に彼氏がいたとは予想外。そりゃ未来はモテるだろうからな。彼氏のひとりでもいて不思議じゃない。
「誰? 未来の彼氏誰よ?」
俺も人の恋路が気になるお年頃。人のこと言えねぇや。
「や。うん。冗談だっての。そんな人今までいたことないから」
「いやいや。未来ほど綺麗な女の子だったらいても不思議じゃないっての」
「綺麗って……。もう、世津のばぁか」
ちょっぴり恥じらって小さく罵ってきやがる。
「そんなことよりも、世津の恋路だよ」
あ、話が戻っちまう。
「誰に告るの。ほらほら、未来お姉ちゃんに白状なさい」
こうなってくると面倒だ。
真実を話しつつ、ちょっぴりのウソを混ぜることにしよう。
「明日、聖羅のライブだから激励の文を考えてたんだよ」
うん。ウソではないぞ。我ながらハッタリはうまい。
「ふーん。冬根さんにぃ」
ジトーっと怪しまれるように見られてしまう。
「なんだよ」
「別ぃ。ただ、世津がこれまで冬根さんにそんなことしたことないよなぁって思ってるだけぇ」
「ぎくぅ」
「自分で答え言ってるし」
お手製のサウンドエフェクトから推理されちまって追い詰められる。このままじゃ俺が聖羅にラブレターな文を送ろうとしていると勘違いされる。
まぁ、聖羅なら別に勘違いされても良いかも……。とか思っちまうのは、ちょっと聖羅のこと意識してるのかな。
聖羅のことをちょっぴり意識すると、昨日の聖羅との会話を思い出す。
彼女がアイドルになった理由。天国のおばあちゃんへ輝いた姿を見せたい。
「なぁ未来さぁ。孫がさ、アイドルだとすんじゃん」
「いやいや。子供すらまだなのに孫って」
「そりゃそうなんだけどさ。まぁ聞いてくれよ」
コホンを真剣に彼女へ質問する。
「自分の孫に自分の理想を押し付けるか?」
こちらの質問に未来は考え込んでくれる。
「お母さんじゃなく、おばあちゃんだもんね」
自分自身で確認の声を出すと、未来は首を横に振った。
「そりゃ押し付ける人もいるとは思うけど、私は押し付けないかな。自分自身の個性を出して、自分なりに頑張ってくれればそれで良い」
「だよなぁ。しかも、母親じゃなくて祖母だもんな。祖母が押し付けるなんて、あんまり聞かないもんな」
「私なら……」
未来は非常に難しい顔をしている。言うかどうか悩む。そんな表情の後に意を決して放ってくれる。
「自分なりに頑張れば良いよって伝える。例えば、憧れの人の髪型をしてるならやめさせる、とか……」
なんか具体的にタイムリーな例えを頂いたな。
もしかして、聖羅のおばあちゃんがヘアゴムを送ったのっては、春山明日香の真似事なんてしないと、自分自身を出してって意味で送ったんじゃないだろうか。
「……だったら、聖羅に送る言葉は……」
「ね、世津」
「んぁ?」
今から文を打とうとしたところで呼ばれちまう。
「今日は何の日でしょうか?」
「今日はイブですね」
「ケーキ。買いに行こうか」
いきなりぶっ込んでくる未来パイセンおそろしい。
「イブの日に俺と一緒だと勘違いされちまうぞ」
「もう勘違いされてるから良いのでは?」
「え? そうなの?」
「そうだよ。きみは気が付いていなかったのかい?」
「全然」
はぁ、と大きくため息を吐いた。
「世津。きみはね、加古川未来。夏枝七海ちゃん。秋葉美月ちゃん。冬根聖羅ちゃんという美少女達をはべらかしているから嫉妬の目で見られているのだよ」
「いや、それは知ってるが、未来が入っているとは思わなかった」
「ふっ。みんなの嫉妬の念は主に私が原因だからね」
「うそやん」
「ほんま」
なんで俺の周りの美人はナルシストばっかりなんだよ。否定できねぇじゃねぇかよ。
「だったら自重しろよ先輩。可愛い後輩が嫌われ者になってんだぞ」
「晩御飯いらないの?」
「周りの目なんか気にするかばっきゃろー。今日も晩御飯ありがとうございます!」
「息をするような手のひら返しに未来お姉ちゃんもびっくりだ」
あははと笑ったあとに立ち上がる。
「そういうことなんで、今更周りの目なんて気にしない。ケーキ、買いに行こ」
ま、そもそも周りの目なんか気にしてないけどね。
俺も良い文章がまだ思い付かないし、甘いもの食べてリフレッシュだ。
「いきますかぁ」
「決まり。それじゃ世津のバイクでレッツゴー」
「おい、この真冬にバイクなんて死ぬ気か?」
「世津のバイクでレッツゴー!」
「この先輩、おそろしいや」




