第68話 イブイブアイドルデート
明日はクリスマスイブだ。
学校側が空気を読んだのか、それともたまたまなのか。
本日、クリスマスイブイブの23日にて今年の学校は終わり。冬休みに突入しました。
イェーイ! はくしゅー! パチパチー!
ま、今からバイトなんですけどね。
さて、セルフで自分を上げて落としてみたけども、なんでこんなことしたんだ俺、ってことで特に深い意味というか、意味自体なし。
暇かっ。
さっさとバイトに行け、と自分自身にツッコミを入れたりして。
おっと。冬休みに突入したけど女バスには関係がないみたい。夏枝は冬休みになったってのに教室を一目散に出て行ってしまう。なんなら美月も、いそいそと出て行ってしまったな。最近、執筆がノリノリみたいだね。絶好調の美月を邪魔しちゃいけない。
そんな中、聖羅が珍しく教室に残っているのが見えた。
明後日はクリスマスライブ。レッスンがあるはずだろうに。
いつもの聖羅なら夏枝に続いて教室を出て行っているはずだ。
もしかしたら、メンバー関係でまたトラブルでも起こったのかもしれない。
「よっ、聖羅。帰らないのか?」
この前のちょっぴり弱気な聖羅を見たからか、なぁんか妙に気になったため、鞄を持って聖羅の席に行く。
「珍しいね。四ツ木くんからこっちに来るなんて」
思っているよりも全然普通だったので安心した。
「いつも俺の席に集まるもんな」
「だよねぇ。──それで、どうしたの?」
「んにゃ。珍しく聖羅がのろのろと帰り支度してるもんだから気になってな」
本心を伝えると、ニタァとからかうような顔つきをしてきやがる。
「なになに? 後ろからそんな熱い視線を出してたのか? ごめんねぇ。可愛すぎて」
あはぁ。こんだけ軽口を叩ければ問題ないなぁ。
「その可愛すぎるアイドル様のクリスマスライブを楽しみにしてるわ。んじゃ、また明後日な」
手をひらひらとさせて教室を出て行こうとした際に後ろから、「四ツ木くん」と呼び止められる。
振り返ると聖羅は俯いていた。
「あっ、と……」
呼び止めたは良いけどどうしようと言わんとする声を漏らしているのが伺える。
「どうした?」
「えとえと……。きょ、今日レッスン休みなんだよね」
乾いた笑い声を出しながら言ってのける内容がウソだってのは直感でわかる。
だけどさ、そんなことをわざわざ指摘するほど俺だって野暮じゃない。
「丁度良かった。俺もバイト休みだし、今から遊びに行かないか?」
ウソに対してウソで返してしまう。ごめん、じいちゃん。今はバイトよりも仲間を優先させて欲しい。めっちゃ電話で謝るとしよう。
「いいの?」
「誘ってるのはこっちだぞ」
聖羅はどこか安堵したような顔をすると、ニコっと笑って俺の隣にやってくる。
「この超アイドル冬根聖羅様とイブイブデートを楽しめるなんて、四ツ木くんは前世で相当な徳を積んだみたいだね」
「はぁ。前世の俺ぇ、もっとしっかり徳積まんかいな、ぼけぇ」
「おい、ごら。そりゃどういう意味だ?」
「聖羅の思っている通り」
「よぉし、安定のそのノリに革命を起こしてやる。イブイブの夜からぼくの扱いをプリンセスに変えてやる」
「聖羅がプリンセスなら俺はプリンスだな」
「ぶっ。四ツ木くんがプリンスって……」
「おっけー。その辺も踏まえて話をしようか」
そんないつものノリで笑い合う。
絡んだ感じはいつもの聖羅なので安心する。
「まぁ冗談は置いといてよ。今更なんだが、超アイドル冬根聖羅様が、超イケメンとデートなんかバレたらやばいんでねぇの」
聖羅は指を口元にもっていき、ウィンクひとつ投げてくる。
「このデートは誰にも内緒ってことで」
「お忍びのデートってことね。わくわくすんな」
♢
地元の駅。自動改札にてICカードをチャージしながら、「すみません」と謝りの電話をする。
『かまわんよ。友人関係を大事にしなさい。時が経つと徐々に友人は周りからいなくなっていく。年を取っても友人と思える人を作っておくのが人生では大事になる。お金なんてもんはいつでも稼げるが、友情はいつでもは作れない。だからバイトは気にせずに休みなさい』
「……ありがとう、じいちゃん」
じいちゃんへ正直に事情を伝えてバイトを休みたいことを電話で伝えると、小言のひとつもなしにOKを貰えた。小言というか名言だったな。
電話を切って改めてじいちゃんの寛容さに感謝する。
確かに、バイトを始める前にもそんなことを言われたっけな。でも、俺はお金を稼がせてもらっている身。バイトの突発休みはやめるようにしていた。だから、若干の罪悪感は残る。今度、バイトのシフト増やすか。
「お待たせ」
雨の日はバス通学の俺のICカードの残高が一桁になっていたため、チャージをしてから改札前で待たせた聖羅に謝りを入れる。
「全然。ところで、誰に電話してたの?」
「気になる男子の電話相手が気になる?」
「にゃはー。あんまりかなぁ」
苦笑いで返されると男心としては複雑なのですが。
ま、そんなことはいいか。
「どこか行きたいところはある?」
とりあえずデートに誘ったは良いけど、正直に言うとプランなんてもんは一つもないのを許して欲しいね。今日、本来ならバイトだったし。
聖羅は良い意味で気を使う必要がない相手だけど、やっぱり相手は可愛い女の子。それもアイドルだ。気の利いた場所へエスコートしたいって欲求はある。それに、正直にじいちゃんに話したもんだから、今度のバイトで絶対にどこに行ったか聞かれちまうだろう。その時に紳士じゃなかったらガチで怒られるもんな。
大体の人は、『どこに行きたいか?』の質問に、『どこでもいい』って答えるもんだ。俺だってそうだし。なので、ここは今のうちに場所を考えないとな。
「実はぼく、行きたいところがあるんだよね」
予想外の返答があり、俺の思考は一旦停止した。
「んぁ。ああ、全然。どこでも行きますよ」
「決まり。それじゃ早速、レッツゴー!」
ピューっと改札を潜ろうとする聖羅は、いつも通りの女の子。
あの悩んでいた姿は幻ではないかと錯覚しちまうね。
ビィィ!
『係員をお呼びください』
聖羅が自動改札機に引っかかる。
「にゃははー。ぼくも残高なかったみたい」
「いつも通りだねー」




