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セツなきミライは砂時計にながされて  作者: すずと
冬根聖羅編〜ブロー・オブ・ウィンター〜
65/100

第65話 きみに一日署長は無理そうだねぇ

 もうすぐ冬休み。


 それまで学校は午前授業に切り替わってくれている。


 午後からは自由時間だ。


 それなのに放課後を迎えた教室内には結構な生徒が残っていた。


 浮ついてやがんなぁ。


 クリスマスも間近に控えてるってこともあり、教室内ではカップルが数組爆誕してやがっておいでです、はい。


 いつものさっさと教室を出て行く部活組や帰宅組が関係なく教室に残り、甘い空気を放ちながら談笑してやがる。ちくしょうめが。


 さて、胸焼けしそうな教室からとっとと退散しようと、そそくさと教室を出て行こうとした時だ。


「ん……」


 教室を出たすぐの廊下に折りたたみの財布が落ちていた。


 ケイトスペードの可愛い財布。この財布には見覚えがある。


『見て見て、四ツ木くん。アウトレットで70%OFFだったから買っちゃった。良いでしょ』

『聖羅もがっつり関西人だよな』

『え? なんで?』

『安い物自慢するところだよ』

『だって、安くて良い物を手に入れたら自慢したくならない?』

『気持ちはわかるけどな。しっかし、聖羅の財布は確かに可愛い。色合いとか良い具合だな』

『お、さっすが四ツ木くん。わかる男だねー』


 そんな会話を思い出し、落ちている財布を拾い上げる。おそらく聖羅の財布だろうが確証を得るために、申し訳ないが中を確認させてもらう。中は意外とスッキリ整理整頓されており、もしかしたら聖羅のじゃないかもと若干、不安になる。あの子の財布はレシートで埋まってそうだからな。免許証があったので、軽く確認だけさせてもらうか。


「あ、やっぱ聖羅のか」


 きみ、財布を片づけるタイプなんだね。意外だわ。


 とか脳内で失礼100%を放ちながら、聖羅の免許の写真を見つめてしまう。


 めちゃくちゃ可愛いくない? 免許証の写真なのに、なんでこんなに可愛く撮れるんだよ。俺の免許証もそうだけど、証明写真って五割増しでブスにならん?


 それを差し置いて可愛いとか、聖羅はやっぱりアイドルなんだと再認識したわ。てか、きみ、免許持ってたんだな。


 それも意外だわ。毎日一緒にいる仲間のことを、わかった気でいることに気づかされちまうな。とりあえず、スマホを取り出して聖羅に連絡をする。


『もっしー? サイン欲しくなった?』


 ワンコールで出てくれる辺り、スマホをいじっていたのだろう。


「サインじゃなくて財布を拾ったんだよ」

『……四ツ木くん。ぼくは警察じゃなくてアイドルだよ?』


 呆れた声を出した後に、鼻を鳴らして言い放ってくる。


『ま、近い将来、一日署長でもするかもだからあながち間違いではないかもだけど』

「いや、色々間違ってるだろ」

『にゃに? ぼくが一日署長になれないって言うの?』

「将来の一日署長様が財布を落としてちゃ世話ないな」

『財布……?』


 こちらのセリフに受話器の方からガサゴソと音が聞こえる。おそらく、鞄なり、スカートのポケットなりに手を突っ込んでいるのだろう。


『にゃはは……』


 この笑いは、さっきの会話がちょっぴり恥ずかしいなんて言わんとしているのかな。


『い、今、ダンス部の部室にいるから、良ければ届けてくれない?』

「俺は警察じゃないぞ」

『今日だけ、ぼくの一日署長になってよ』

「んだよ、それ」


 独特の返しについつい笑ってしまう。ま、聖羅のものとわかった瞬間、どこにいても届けるつもりでいたけどな。ダンス部の部室にいるのなら好都合だ。


「すぐに行くわ」

『ありがと、四ツ木くん。愛してる。ちゅ』


 そう言って電話を切りやがる。なんともまぁ甘ったるい声で甘ったるいセリフを残すもんだ。アイドルってのはみんなこんな感じなんかね。




 ♢




「たのもー」


 手にスポーツドリンクを持ってダンス部に乱入する。


 ノックもなしに部室を開けると、大音量で音楽が聞こえてくる。


 廊下にいる時は部屋の音が全く聞こえてこなかったのにすげーな、流石はダンス部の部室、防音対策バッチリだね。それなのにダンス部が0人ってのはなんともまぁ、宝の持ち腐れ感が否めない。


「……!」


 聖羅はジャージ姿で鬼気迫るように踊っている。


 この前のライブの時とは、ザ・アイドルって感じだったのに、練習の時はまるで鬼にでも取り憑かれたかのようなダンス。


 こちらの存在には気が付いていないみたいで、三枚の鏡に映る自分とにらめっこしている。


「……はぁ……はぁ……」


 結局、曲が終わるまで彼女はこちらの存在に気が付かずに踊り狂っていた。こちらとしては、なんだか一流のダンサーのレッスンを見学できたため、ちょっぴりお得と思ってしまう。


「ほい、聖羅」


 肩で息をしている彼女へ声をかけると、持っていたスポーツドリンクを投げ渡す。


「おっと」


 瞬時に反応した聖羅は、楽々とスポーツドリンクを受け取ると遠慮なくキャップを開けた。


「にゃは。差し入れありがと」


 汗だくでゴクゴクと勢い良く飲む様は、真冬の光景とは思えないな。ま、あんだけ激しいダンスをすれば真夏の光景にもなるだろう。スポーツドリンクを選択して正解だったみたい。


「普通は、聖羅が俺に一割お礼をするもんだがな。なんで財布を拾った人間が、拾ってもらった側に差し入れしてんだか」


 ちょっぴり嫌味を言いながら聖羅へ財布を渡すと、そんな嫌味なんぞ効かないよん、なんて顔をしながら飲みかけのスポーツドリンクを渡して来る。


「謝礼はアイドル様の飲みかけのスポーツドリンクってことで」

「いらんわ」

「なんで? セイランファンの人なら喉から手がでるほど欲しい一品でしょ?」

「確かに。その設定を忘れてた」

「設定って言った。この人、設定って言ったよ!?」


 むきぃと怒りながら、「もうあげないよーだ」と聖羅は飲みかけのスポーツドリンクを飲み干した。


「一気ってやばいな」

「げふっ。ふぃー。げふ」

「おい、アイドル。アイドルがゲップして良いもんかね?」

「今のはゲップじゃなくて、ぼくの天使の吐息だよん」

「ゲップが天使の吐息ってか。だったらそのまま大阪環状線言ってみろよ、アイドル様よぉ」

「え、あ、うん」


 パンパンとリズムを取ってやる。


「大阪♪ 福島♪」


 あ、この子うちまわり派なんだね。


「野田♪ 西九条♪ 弁天町♪ 大正♪ 芦原橋♪ 今宮♪ 新今宮♪ 天王寺♪ 寺田町♪ 桃谷♪ 鶴橋♪ 玉造♪ 森ノ宮♪ 大阪城公園♪ 京橋♪ 桜ノ宮♪ 天満!」


 最後の天満で決めてやった感を出した後に俺をジト目で見てくる。


「ね、四ツ木くん。これって炭酸じゃないと意味ないんじゃないかな?」

「あ」

「この人ばかだ」

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