第61話 推しの色は?
ライブ会場は家電量販店、大型商業施設の二階にある広場。決して広いとは言えなず、会場だが、結構な人で埋まっている。
ここ最近、人気が目立ってきているとは思っていたが、着々とファンを獲得してきている様子である。
もちろん、全員が全員ライブ目的ではないだろう。家電量販店、大型商業施設を行き来している人や、目の前にあるチェーンのカフェが目当ての人もいるだろう。
「チケットをお持ちの方はこちらで拝見致しまーす」
スタッフであろう黒いTシャツを着た女性が大きな声で呼びかけると、ゾロゾロと女性スタッフの方へと向かって行く。
パっと見だが、今集まっている半分以上は女性の方へと集まった。
これってのは聖羅のグループは結構の人気と言えるのではなかろうか。やるなぁ聖羅。
俺達も女性スタッフへとチケットを見せて前の方へと行きたかったが、熱狂的なファン達が既に陣取っており、前の方には行けなかった。残念だ。
「よぉし。全力で聖羅ちゃんを応援するぞぉ」
隣に立っていた美月がいつの間にか黄色のペンライトを握っているのに気が付いた。
聖羅のイメージカラーは黄色みたいなので、黄色のペンライトで応援ってことね。
「用意周到だな」
「そりゃ友達のライブだからね。あたし、華麗に舞うよ」
眼鏡を光らせて宣伝する美月。彼女は本気で舞う気だろう。
「世津も舞うっしょ」
こちらの会話が聞こえていた豪気も、いつの間にか黄色のペンライト握っていた。
「ヤンキーの本気のオタ芸見せてやれ」
「やるからには全力で咲くしかねーなぁ! おらああああああ!!」
豪気がいきなりオタ芸を始める。キレッキレの芸を見せつけるヤンキーへ夏枝がドン引きの声をあげた。
「杉並。周りの人に迷惑だし、色々とイタキモイからやめなよ」
「……すみません。調子のりました」
流石に美女の注意が胸に刺さったのか豪気はシュンとなって大人しくなる。
「わかればよろしい。ほーら、よしよーし」
「わん」
どうやら豪気は俺以外にご主人様を見つけてしまったようだな。つうか、あいつは本当に心を開いた奴には犬になるな。見た目ヤンキーなのに。
「世津はペンライトなしで良いの?」
陽介の問に、「愚問だな」とかっこ付けて返すと、ひっそりと潜ませていたペンライトを光らせる。ちなみに、このペンライトはボタンで色が変わる優れものだ。
「あ、四ツ木。光らせるなら水色にしてよ」
夏枝のいきなりの提案に首を捻る。
「なんでだよ。聖羅のイメージカラーは黄色だろ」
彼女は自分を指差して言ってくる。
「わたしのイメージカラー」
「確かに夏枝のイメージカラーは水色って感じだな」
爽やかな夏枝七海にぴったりの色だって言えるよな。
「あ、うん。だからどうした?」
「四ツ木の推しはわたしでしょ?」
「すみません。よくわかりません」
スマホのAIみたいな返事になっちまっていると、隣に立っていた美月が俺のペンライトを強制的にオレンジ色にしやがる。
「なんで強制オレンジ?」
「あたしのイメージカラー」
この眼鏡美人の大和撫子様のイメージカラーがオレンジってのは初めて知ったんだけど、確かにこの子のイメージにぴったりな色だわ。
「七海ちゃん。残念だけど、世津くんの推しはあたしだから」
眼鏡を光らせて夏枝に喧嘩を吹っ掛ける美月は珍しい。
夏枝もちょっぴり面食らったって感じだったけど、すぐに態勢を整えてから反撃の狼煙をあげた。
ギュッと俺の腕を組んでくる。
いや、幸せな感触に包まれているんですけど、なんでいきなり大接近してくんだよ。
顔が綻びやがりますですぞ、はい。
って思っていると、俺の持っているペンライトを水色に変えた。
「美月の方こそ残念。四ツ木はわたし推しだから。ね、四ツ木」
男心をくすぐる絶妙な首傾げはやめていただきたい。危うく頷くところだったぞ。
ギュッと、夏枝とは逆方向の腕が組まれる。
夏枝よりも柔らかい部分が大きくて、なんだろう、うん、男の夢が詰まったものを押し付けられて、ライブとかどうでも良くなる感触。
美月ちゃんやい、静かに闘志を燃やす感じはやめてくれない? 俺の理性が萌えちゃうよ? とか思っていると、俺の持っているペンライトをオレンジ色に変えた。
「今まで過ごして来た時間の差がえげつないから、世津くんはあたし推し。ね、世津くん」
パっとペンライトが水色に変わる。
「こちとら顔面がえげつないくらいに綺麗ですから。唯一無二ですから」
「た、確かに……。七海ちゃんの顔の良さは世界一」
そこは認めるんだな。
美月に言われて夏枝は、「ぐぬぅ」となんか知らんけどダメージ音を発し、パっとペンライトをオレンジに変える。
「美月も眼鏡美人だし、眼鏡外しても美人だし、美人の二刀流だし!」
パッとペンライトが水色に変わる。
「七海ちゃんなんかあたしと仲良くしてくれて嬉しいし、これからもよろしくお願いしますだし!」
パッとペンライトがオレンジに変わる。
「美月こそ。こんなわたしと仲良くしてくれてまじ親友だし、これからもよろしくお願いしますだし!」
パッとペンライトが緑色に変わる。
「親友と言やぁ俺と世津だろ」
「「邪魔すんな! クソヤンキー!」」
「ごめんなさい」
「「おすわり!!」」
「わん!」
ふたりの美女におすわりを命じられて素直に言う事をきく豪気。もうお前はヤンキーじゃなくて、ただの犬だよ。
「で? 世津は結局どっちの色にすんの?」
陽介の言葉で夏枝と美月がこちらを勢い良く見てくるんだけど……。おい陽介。お前はなにを楽しそうにしてんだよ。
「お前は終わりかけの争いを激化させるな、このイケメンゲス野郎」
「両手に花のハーレム野郎に一矢報いたくてな」
爽やかに笑う悪魔だわ、こいつ。かっこいい悪魔だな、おい。
「んで、何色にすんの?」
この色で全てが決まる。
みたいな雰囲気で全員見てくるんだけど。
あ、安心しろ豪気。緑だけはないから、そのつぶらな瞳で見つめてくんな。
「俺は──」




