第59話 このアイドル様ったら将来ビックになるわ。サインは今のうちかな
バイトでもないのにバイト先に行くなんてうざいバイトだなとわかっていながらも、じいちゃんの店だからと言い訳しながらやって来たカフェ、シーズン。
カランカランと鈴の音が鳴ると同時に入店すると、相変わらずコップをキュッキュッしているじいちゃんがお出迎えしてくれる。
「やぁ世津。今日もお友達を連れて来たんだね。ゆっくりしていきなさい」
「忙しくなったら手伝うよ」
「その時は容赦なく呼ぶとしよう」
じいちゃんは笑いながら次のコップをキュッキュッとし始める。
聖羅と陽介が会釈をしながら、「こんにちはー」と挨拶をすると、じいちゃんは
「ごゆっくり」と渋い声で返していた。
いつものテーブル席に腰かける。
俺の前に陽介。陽介の隣に聖羅という席順だ。
約束のパフェでもご馳走してやろうとしたところで、じいちゃんが相変わらずサービスコーヒーなんて持って来てくれた。
湯気が立つコーヒーカップを聖羅の前に置く。
「あの、注文していないですよ?」
「いつも孫がお世話になっているお礼です。それに美しいレディーにサービスするのは紳士として当然ですよ。遠慮なくどうぞ」
夏枝に向けたキザのセリフをコピペしたように言ってのける。
「レディー?」
「なにかにゃ? 友沢きゅん」
「いや、どこにも見当たらんと思って」
「友沢くんって視力悪いんだね。だからいつも赤点なんだ」
「まさかそこをえぐられるとは思いもしなかった」
陽介が自分の胸を支えるように抑えると、じいちゃんは笑いながら陽介へ言ってのける。
「レディーとは我々紳士が育てるものだよ、爽やかイケメンくん」
言いながらコーヒーカップを陽介の前にも置くと、陽介が首を捻った。
「すみません。オレは美しいレディーではありませんけど」
「真の紳士はレディーにだけじゃなく、イケメンにもサービス精神旺盛なのだよ」
あっはっはっと機嫌良く笑うとじいちゃんはカウンターに戻っていった。
「世津のじいちゃんすげーな」
「うんうん。ジェントルマンだねぇ」
「まさか陽介にまでサービスするとはな」
俺にサービスがないのは従業員だから、だよね?
♢
「はわぁ。美味しかった」
「だなぁ。絶品だったよ」
聖羅と陽介の満足気な顔の前には、空になったパフェの容器。相当美味しかったのか、綺麗に食べ尽くしてくれたみたい。
ウチのパフェを高評価いただいた代わりに、俺の財布の中身は寂しくなっちまっとさ、ちくしょ。
「こんな美味しいパフェをご馳走してくれた四ツ木くんには、ぼくからプレゼントをあげよう」
「聖羅のキスなんていらねぇ」
「いれよ! アイドル様の口付けだぞ!」
即座に答えた聖羅に陽介がケタケタと笑う。
「いれよってなんだよ。あはは!」
「つうかアイドルが簡単にキスすんなよ、炎上すんぞ」
「世津。あれじゃねぇか? 炎上方ってやつ」
「うわぁ。聖羅やめとけって。そんなん誰も幸せにならんぞ」
「んなわけあるかあ!! 実力でのしあがるわい!!」
言った後に、「ちっがーう!」と大きく否定する。
「そもそも、なんでキスなんて発想になった!?」
「あれじゃない? 世津は普通に聖羅とキスしたかったんじゃない?」
「にゃにゃ! にゃに、にゃに、なんだかんだ、この超絶アイドル冬根聖羅様とイチャコラしたかったってか」
「夏枝と美月と同時にキスしたいなぁ」
「ぼくをいれろよ!!」
「いや、聖羅。今の世津のきもい発言に対してのツッコミはそうじゃないと思うぞ」
「自分で言っててなんだが、俺もそう思う」
「ぬぬぬ。ツッコミって難しいよね」
なんでこの子は真剣に悩んでるんだろうか。
「じゃないんだよ。そうじゃない」
仕切り直すように聖羅がポケットに手を突っ込んで、俺へとなにかを渡してくる。
「今度、ライブするんだ。来てよ」
「ごめん。その日は絶対に行くよ」
「あのさ。チケットの日付見ずに断る風に行く宣言してくれるの、落とされて急上昇した気分になってめっちゃ良い」
「ええんかい」
陽介がツッコミながらも、ニタニタと聖羅の方を見る。
「なんだ? 世津にだけ来て欲しいってか?」
「もちろん、友沢くんにも来て欲しいよ」
言いながら聖羅はポケットよりチケットを取り出して陽介に渡す。
「絶対来てね」
「お、おお」
流石はアイドル様。爽やかイケメン相手でもアイドルらしいスマイルで圧倒しやがっておいでです。
「はい。一万円になります」
「金取んのかよ!? つか、高くね!?」
「友沢くん……来て、くれないの? ぼく、待ってるよ、きみがぼくのところに来てくれるまで、ずっと」
うるうるとさせた瞳で見つめられて、彼女のうるっと光線に降参の陽介は財布から万札を取り出した。
「さらばっ諭吉っ!」
「まいどありっ!」
舌をぺろっとだす聖羅を見て一言漏れちまう。
「聖羅。お前、将来ビックになるわ」




