第51話 笑っちゃうくらいにいつも通り
「美月。体調戻って良かった」
「心配したよー、美月ちゃん」
「病み上がりなんだし無理はするなよ、秋葉」
「やっぱオレらのメンバーはひとりでも欠けると違和感あるからな。秋葉の体調が戻って良かったよ」
俺と美月の席を囲う形でいつものメンバーが集まり、体調の戻った美月を待ってましたと言わんばかりに各々が彼女へと声をかける。
「みなさんご心配おかけしました」
頭を下げて丁寧に言ってくる彼女へと問う。
「もう熱は大丈夫?」
「バッチリ」
こちらの質問にニコッと笑顔で答える。
それがいつも通りの美月過ぎてこの前のことを忘れそうになる。
『そもそもあたしの小説は世津くんを思って書いたあたしの夢物語。急展開? ご都合主義? 当たり前。世津くんとやりたいことを文字に起こしたんだけ。白馬の王子様に迎えに来て欲しい妄想なんだよ。《大好きな世津くんとやりたいこと》とか、やって欲しいこととか全てぶちこんだ、あたしのオナニーなんだよ』
あれは間違いなく言われた言葉。
こんなことを言われて意識するなって言う方が無理な話だ。妙に美月を意識してしまうのだけど、彼女は笑っちゃうくらいにいつも通り。
今もみんなと談笑している姿は、俺に向かってあんな言葉を発したとは思えないほどいつも通りだ。
「世津ぅ」
ガシっと陽介が俺の肩を組んできて、冷やかすように声を出してくる。
「お見舞いに行ってすぐに復帰ってこたぁ、旦那の効力爆発ってかぁ?」
「なんだよ、それ」
「誤魔化すなっての。嫁にキスのひとつでもかましてやったんだろ?」
「なぬっ!?」
陽介の言葉に反応した夏枝がこちらの肩をガシっと掴んでくる。
あの、夏枝様。めちゃくちゃ痛いのですが。
「四ツ木。美月とキスしたの?」
「おいおい。夏枝七海とあろう者が、あんなチャラ男の適当な発言を本気にしてるのかよ」
「あれを見たまえ」
夏枝が指差した先には、美月が恥じらいの顔をしながら指で自分の唇をなぞっている。
美月ちゃんやい。なにをしているのかな?
「あれは一夜を過ごした乙女の顔だぞ、四ツ木」
「あっれ? 話がでかくなってない?」
「風邪の時に女の子と××なんて最低」
なんで急に俺が最低の烙印を押されているのだろうか。
「そうだぞ世津。おれを置いて卒業するなんて最低だぞ」
「うるせーよ豪気。俺はまだ在学生だ」
「在学生って……ぷっ!」
聖羅はこちらの返しが気に入ったのか、腹を抱えて笑い出した。
それから美月ちゃん。自分の身体を抱きしめてうねるのやめてくれない。なんかまじっぽいやん。
「まぁ色々と待てよ夏枝。仮に俺が一夜を過ごしたとして、夏枝にはなんにも問題ないだろ」
「それは……そうだんだけどさ」
むぅと頬を膨らませて拗ねたような顔をするクールビューティーは、なにか思いついたように言ってのける。
「元カノとしては? 元カレの状況って気になるわけですよ」
「元カレの状況を知ってどうするよ」
「また色々と利用させてもらおうと思いまして」
この子の方が最低なのではなかろうか。
とりあえず陽介を思いっきり睨みつけておかねば。
「はいはい。ごめんごめん。元はと言えばオレが変なこと言ったのが原因だな。悪かった」
「そうだそうだ。友沢が悪いからS定ね」
「はぁ!? ちょっと待て──」
陽介の嘆きの声を無視して夏枝の提案にグッジョブしてやると、ウィンクで返してくれる。
あらやだこの子、ウィンクだけで世の男子を魅了できるんじゃないかしら。
「みんなー! 今日はこのイケメンのお兄さんがS定を奢ってくれるってー!」
「「「「おおー!!!!」」」
「おい、待て、なんで全員分──」
「美月の復帰祝いと変なこと言った罰」
夏枝の言葉に陽介は肩を落として財布を確認していた。
ちょっと可哀想な気が……しないな。うん。全然可哀想って思わない。俺も訳も分からずにS定奢ったし。
陽介は大きくため息を吐いていたが、どうでも良いや。
それよりも気になるのは美月。
自然と視線が彼女の方へと向かってしまうと、目が合い少しだけ気まずくなる。
だけどそう思っているのは俺だけで、美月はいつも通りに微笑みかけてくれた。
ほんと、笑っちゃうくらいにいつも通りだな。




