第48話 世津が行けば治るはず
「秋葉のやつ大丈夫かな」
美月が体調不良で学校を休んで3日目。
ひとり欠けたいつメンが俺と美月の席を囲うように集まる。
俺の隣の空席を眺めながら豪気が心配そうな声をあげていた。
「グループメッセじゃ大丈夫って言ってるけど、やっぱり心配だよね」
夏枝が豪気の言葉を拾うように答えた。
彼女の心配する声に聖羅が視線をこちらに向けてくる。
『もしかしたら本当に自爆しちゃったの?』
そんなことを問う瞳であった。
俺も現状では夏枝と同じ情報しか持ち合わせていない。もしかしたら無理な執筆をしたせいかもしれない。
美月からは、『大丈夫』としか言われていない。
わからない。
聖羅にそう返事するように首を横に振ると陽介が俺の肩へ手をポンっと置いてきやがる。
「世津。ここはお見舞いに行ってやった方が良いんじゃないか」
彼の発言に夏枝と聖羅がコクコクと頷いた。
「そうだね。3日も学校来てないのは心配だし」
「それが良い。四ツ木くん。美月ちゃんの様子を見て来てよ」
女性陣の言葉に豪気が乗っかる。
「世津が行きゃ秋葉も良くなるかもな」
「おろ」
陽介が予想外の声をあげてから豪気をからかうように言ってのける。
「いつもなら、『俺も行くぜえええ! 世津うう!』とか言いそうなのに、今日は空気読んでる」
彼の言葉に夏枝と聖羅も続いた。
「確かに。四ツ木の犬が犬してない」
「杉並くんの方が体調不良かも」
「誰がヤンキーだ! おらあ!」
いきなりキレる豪気に全員が?マークをだしているので、俺が代表させてこの狂犬を落ち着かせる。
「どうどう。体調不良ってのは体調が悪いって意味だから。体調がヤンキーって意味じゃないから。どうどう」
あー、なるほど。
夏枝、聖羅、陽介が感心の声をあげると同時に、よくこいつはウチの学校に受かったなと思ったことだろう。これも鷹ノ槻高等学校の七不思議のひとつとして数えられるかもな。
俺が豪気を落ち着かせたところで豪気の口から空気を読んだことの解説が入る。
「秋葉は邪魔されるとおっかないからな。世津と一緒に行けば確実におれは邪魔者。あとで死が訪れるだろうから、今回は大人しくしておくぜ」
彼の言葉に更に納得する三人。
確かに美月は怒らせるとやばいよねってことで、豪気が空気を読むのは至極当然の結果ということで話が落ち着く。
いつメンと話すといつも話が脱線してしまう。それが楽しんだけどね。
「お見舞い、ねぇ」
話を戻すように呟いてから続けざまに発言する。
「体調不良の時にお見舞いって行って大丈夫なもんなのか」
「体調不良だからお見舞いに行くんでしょ」
俺の誰に言う訳でもない言葉を夏枝が論破しやがりました、はい。
「いや、そうじゃないというか……。そりゃ入院してるとかだったらわかるけど、家まで押し寄せて様子見に行くってのはどうかという意味なんだけどさ」
「わたしは四ツ木が来てくれたら嬉しいよ?」
ふつうにそんなこと言ってきやがるのでドキっとせざるを得ないのですが。
こちらのドキッに気が付いたのか、可愛らしく笑ってやがりますよ、この小悪魔様は。そりゃ冗談ってのはわかるけどさ、そんなんウソでもドキドキするに決まってんやん。
「なんだ夏枝。まだ世津に未練があるのか?」
陽介がからかうように言ってのけると夏枝が軽口で返した。
「そだねー。デートもできずに別れたから未練があるかも」
「そうやって冗談混じりに言ってるのがガチっぽいけど?」
「そりゃガチだからね」
「ふぅん。恋愛相談なら受付中だぞ」
「えー。友沢はチャラいから、フラフラっと相談したら口説かれそうなんで遠慮しておく」
「さりげなく心をえぐってくるなよ」
夏枝は笑いながら聖羅の腕を掴む。
「恋愛相談するなら聖羅が一番」
「このスタイル抜群のモデル様はなにを言ってんだ。ぼくは恋愛禁止のアイドル様だぞ」
「恋愛禁止だからこそ、この美少女の恋愛を羨ましそうに指を加えて見て欲しいな」
「こんのドSめっ。早く良い彼氏見つけてぼくを羨ましがらせろってんだ!」
「聖羅はドMかよ」
三人が笑い合う中で豪気がこちらに話かけてくる。
「でもよぉ。まじな話、世津が行けば秋葉も元気出るんじゃねぇか」
「それならみんなで行ってあげた方が元気出るだろ」
「いやいや世津。全員で押しかけたら迷惑だろ」
陽介にまともなことを言われてしまったのだが。
「でも、四ツ木が代表で行った方が美月も絶対喜ぶよ」
「そうだね。本当はぼく達も行きたいけど、友沢くんの言う通り、みんなで行けば迷惑だし、四ツ木くんが代表で行ってくれた方が良いよ」
「行ってあげて、四ツ木」
夏枝に改めて言われて俺はコクリと頷いた。
スマホを取り出して美月へと、『今日お見舞い行っても良い?』とだけ断わりをいれておこう。
「敵に塩を送って良いのか、夏枝」
「美月は敵じゃなくて味方だけど?」
「ふぅん。ま、そういうことにしておいてやるよ」
「なんか友沢ムカつくぅ」
「友沢くんはムカつく生き物だよ」
「おっと聖羅が参戦で女性陣からの攻撃とか、男冥利に尽きるね」
あっちはあっちで相変わらず中身のない会話をしてやがるが気にしている場合じゃない。
美月からの返信はなかった。




