第47話 嫌われたくないがための選択。それが正しいのか正しくないのかなんて誰もわからない
その後、閉店した薄暗いカフェでちょっとだけ美月と過ごして彼女と帰宅。
今日も今日とて自転車通学。暗がりでもすっかりと慣れた通学路を、秋の風を切って互いに駆ける。
談笑しながら、時折、前から人が来た時は一列になったりと。
そういえば一列になる時は必ず俺が前を行き、美月は後ろに回るな。なんてことを思いながらも、誰もいなくなれば二列になってチャリを漕いで家を目指す。
いや、家を目指すというよりは互いに公園を目指していたといった方が正しいのかもしれない。
当たり前のようにいつもの近所の公園に腰を下ろして今日も雑談に花を咲かせる。
「ごめんね。こんなに遅い時間まで居座って」
「いやいや。じいちゃんが残って良いって言ってたから良いんだよ。それにじいちゃんが一番楽しそうだったからな」
じいちゃんが、「コップキュッキュッをできていなかったから」なんて言いながら俺達と雑談してくれた。
遅くなったと言ってまだ夜の9時過ぎだ。良い子でも起きている時間だろう。
「今日も執筆おつかれさま。めちゃくちゃ頑張ってんだな」
「ありがとうございます」
少しばかり疲れた様子だが、それでもいつも通りの美月らしい笑みを見してくれる。
「無理してないか?」
でもやっぱり心配だから聞いてしまう。
「無理はしてないよ」
「本当か? 美陽の晩飯無視事件はまじの案件だと思われるぞ」
「うっ」
ボディブローでも受けたかのような声を出すと、美月は苦笑いを浮かべた。
「あれは、その……あはは。もう、すみませんしか言えない。世津くん。美陽の晩御飯ご馳走様でした」
ぺこりと妹の晩御飯をありがとうと頭を下げてくる。
「こっちは全然大丈夫だよ。俺がコブラツイストとアイアンクローを受けて終わったんだから」
「なんで世津くんは自分の家なのに技をくらっているの?」
「俺にもわからん」
「摩訶不思議だね」
あははと互いに笑い合うと美月が逸れた話を戻してくれる。
「今ね、小説書くのがめちゃくちゃ楽しいんだ」
「前々から楽しそうに書いていたように見えるけど」
「もう比べ物にならないくらいの楽しさだよ」
言うと美月はピースサインを見してくる。
「バズったんだよ。あたしの小説のアクセス数がめちゃくちゃ増えたんだ」
言いながら美月がスマホを取り出して画面をこちらに見してくれる。
今回は疲れて落ち着いているのか、俺の顔面に押し付けるってことはしなかったので画面がよぉく見える。
棒グラフみたいなものがあり、ある日を境に一気に棒が長くなっているのがわかる。
今日のPV数が10001と書いてある。
この数値の基準はわからんが、10001回は美月の小説へアクセスがあったということだろう。今日だけでその数値はかなり凄いのではなかろうか。つうか、ブログでPV0をたたきだしている俺からすると意味わからんくらいに凄い数値ってのが理解できちまうね。
「すげー……。つい最近まで自虐的に読まれないって言っていたのがウソみたいだな」
感心した声を漏らすと美月はスマホを操作して、改めてスマホの画面を見してくれる。
「コメントも沢山来てて、いっぱい褒められちゃった!」
小学生が先生に褒められたみたいな嬉しそうな笑顔を向けてくれる。
しかしまぁ、美月が無理をしている理由は少しばかり予想通りであったな。
自分の小説がバズったから無理をしている、ね。
美月は顔を上げて、キラキラと輝く秋の星々を見上げた。
「あたし、世津くんの期待に応えるため、読者さんの期待に応えるために執筆がんばるね」
星空へと誓いを立てる美月の目を見て聖羅の言葉が蘇る。
『アイドルの子でもいるんだけどさ。みんなの期待に応えようと必死になる子の目っていうのかな』
『調子が良くて上手くいっている子にありがちだね。ああいう目をしてる子は大抵自爆しちゃうんだよ。ガス抜きを知らないから』
『美月ちゃんはアイドルじゃないから趣味とか勉強とかの調子が良いのかな。今の状態で横から水を差すのも邪魔だろうから今はなにも言わないけど、もし美月ちゃんがしんどくなったら黙って見てるわけにはいかないから助けてあげたいな』
なんだか悪い予感がして、見えない不安に襲われてしまう。
美月をこのままにしても良いのだろうか。
今ならまだ止めることもできるかもしれない。
しかし、聖羅の言う通りで、調子が良いのを横から水を差すのは邪魔になるだろう。
もし、邪魔をして美月に嫌われたら?
いやだ。学校のどうでも良い奴に嫌われるのとは訳が違うんだぞ。
美月に嫌われる未来なんて想像もしたくない。
「美月が嬉しいのなら俺も自分のことみたいに嬉しいよ」
「世津くん……。よぉし。あたし、これからも書きまくるぞぉ」
大丈夫だ。大丈夫。
もし、本当にしんどくなったら俺が助けてあげれば良い。
幼馴染の俺が助けてやればそれで済む話だ。
今は楽しい時期を満喫してくれた方が俺も嬉しいし、美月も嬉しいことだろう。
俺は彼女をソッと見守ることを選択した。
それが正しかったのか正しくなかったのかわからないが、美月は体調を崩してしまい学校を休んでしまった。




