第44話 自爆前なのかもしれない……
昼を終えるとそれぞれ散り散りになった。
美月は図書室へ。夏枝は部室に向かい、聖羅は便所だと。アイドルが便所って言って良いのか指摘すると、「便所」って言ってた。まぁある意味、腹を壊した連中からするとそうかもな。
陽介は女子とフリートークを楽しんでいる。あのチャラ男め。
豪気は職員室に呼び出された。なんでも提出したノートに誤りがあるとかなんとか。
そんなわけで、ひとりで過ごす昼休みってのはいつも迷う。とかなんとか言いながらも行き着く先は渡り廊下の自動販売機。ここが四ツ木世津のカフェとなっている。
別に陣取っているわけではないが、俺がひとりで座っていると通り過ぎる人がチラッと見て、スィーっと過ぎ去って行く。
あいついんのかよ。
そんな感じだ。
ま、学校の嫌われ者で名が通っているからな。直接の危害がなけりゃなんでもいいや。こうやって自動販売機前のベンチを独占できるんだからな。
かっかっかっ。
とか舞い降る枯れ葉に言い訳したりみたりして。
内心はやっぱり気にするわけさ。そりゃ嫌われるのが好きな人はいないだろうからな。俺は自分の仲間だけを大事にする。その思いは変わらないけど、やっぱ嫌われてるってわかるのはこたえるものがあるよね。
秋空の下、今日はうじうじする日だわ。うじうじしておこう。うじうじ。
「なぁに黄昏てんのさ」
大体の奴が俺の前をスルーして行く中で、秋風と共にやってくる元気な声に、こちらも元気な声が出そうになる。
「相変わらず四ツ木世津は嫌われ者だと自覚して病んでるんだよ。慰めてくれよ便所帰りのアイドル様」
ポニーテールアイドルぼくっ娘へ冗談混じりの言葉を発してやる。
「そんな元気のない子にはこれを進呈しよう」
言いながらポケットよりチケットを渡される。
これは先程聖羅が言っていた自分達のライブのことだろう。
「はぁ……」
一旦、ため息で答えておこう。一旦ね。
「おいごら、そのため息はどういう意味だ」
「聖羅。俺は慰めてくれって言ったんだぞ」
「だからぼくのライブに来て癒されてよ」
「はぁ……」
「よぉしわかった。そのため息の件、とことん話し合おうじゃないか。ああん」
腕まくりしながらも半笑いになっている聖羅を見て吹き出してしまうと、彼女も我慢できずに吹き出した。
にらめっこの要領で、笑ったら終わりのノリ。
次に聖羅は慰めるようにこちらに語りかけてくれる。
「四ツ木くん。嫌われ者とか気にしちゃだめだよ」
「まじな話をすると気にしてはないな。気にしてたら学校なんかに来れるかよ」
笑いながら聖羅の方を見る。
「俺には聖羅達がいる。居場所があるからな」
「居場所がある……か」
こちらの言葉を繰り返すと、聖羅はボソリと呟いた。
「ぼくにはあるのかな……」
寂しそうに小さく放つ言葉が枯れ葉と共にこちらに流れ着いてくる。
「聖羅は俺達と一緒なのに居場所がないって思っているのか?」
聞くと、ハッと我に返ったような声を出してすぐさま否定する。
「違うよ。四ツ木くん達と一緒の居場所がぼくにはある。居心地が良くてずっといたくなる場所。冬のかまくらみたいな温かい場所」
彼女の例えに少し吹き出してしまう。
「温かい場所の表現にかまくらってレアな例えだな」
「にゃはは。新しいでしょ」
笑ったあとに聖羅は真面目な顔して追加する。
「でも、四ツ木くん達はぼくを厳しい寒さを守ってくれるような場所。温かいかまくらみたいな場所。うん。この例えがぴったりだね」
うんうんと頷いて納得している。
どうしてそんな例え方をしているのか気になるが、聖羅はなんだか誤魔化すように、「そうだ」と話題を面舵一杯で切り替える。
「美月ちゃん。大丈夫なのかな」
「ん? なんで美月?」
唐突に美月の話題になり首を傾げてしまう。
「さっき美月ちゃんに手を握られた時なんだけどね。美月ちゃんの目、ちょっとやばかったというか……」
「あの子ホラームーブ得意だからね」
「にゃはは。そうだけど、今回はホラームーブじゃなくて、なんていうのかな」
聖羅は言葉を選んでいるのか、少し間を置いてから口を開いた。
「えっとね、アイドルの子でもいるんだけどさ。みんなの期待に応えようと必死になる子の目っていうのかな」
「みんなの期待に、応える?」
「そうそう。調子が良くて上手くいっている子にありがちだね。ああいう目をしてる子は大抵自爆しちゃうんだよ。ガス抜きを知らないから」
「自爆……」
物騒な言葉を頂いたあとに聖羅がブンブンと手を振る。
「美月ちゃんはアイドルじゃないから趣味とか勉強とかの調子が良いのかな。今の状態で横から水を差すのも邪魔だろうから今はなにも言わないけど、もし美月ちゃんがしんどくなったら黙って見てるわけにはいかないから助けてあげたいな」
だからなんて、いつもとは違った大人びた顔して言ってくる。
「四ツ木くんも気にかけてあげてね」
「もちろん。気にかけるよ」
そういうと嬉しそうに、にゃははと笑う。




