第42話 人生何週目?
「どうして夏枝さん……?」
俺と夏枝がカフェ、シーズンで駄弁っていると未来がやって来たのだが、どうしてそんなに驚いているんだ。
「こんにちは、加古川先輩」
「あ、ど、ども」
流石は運動部。学校の先輩を見かけたら自分から挨拶とういのが徹底されているみたい。夏枝は自分から挨拶をかわす。未来は面食らったところに挨拶されて噛み噛みだった。
「え、あれ、秋葉さんは?」
この誕生日が1日違いの先輩様はなにを焦ってらっしゃるのか。
「なんで美月なんだよ」
「だって……あっれー」
困惑の声を出す未来へ夏枝が声をかける。
「まぁまぁ立ち話もなんですし、座ってくださいよ」
「う、うす」
「あの、加古川先輩。別にわたしが運動部だからって無理にそんな挨拶しなくて良いですよ?」
「うす」
「だめだこの先輩、聞いてくれない」
夏枝は笑っているが、謎に余裕のない未来はあわあわと俺の隣に座る。
「えとえと……。もしかしてデートだった?」
申し訳なさそうに尋ねてくると夏枝がイタズラっぽい笑みを浮かべて言い放つ。
「デートでした」
「ええー……。えええぇぇぇ……」
なんでこの子引いてるの?
「えっと、加古川先輩。思ってる反応と随分違うのですが」
「奇遇だね夏枝さん。私も思ってる展開と違いすぎてまじバタフライエフェクトなんだよね」
「バタフライ得意なんですか? 水泳部?」
「テニス部のバタフライ代表」
「やばー。テニスの女王様だ」
「得意技はジャイロボール」
なんの話をしているのかな?
「待て待て美女ふたり。会話がカオスが過ぎるだろ」
「世津。現役JKの先輩と後輩ってのはこんなもんなんだよ」
「そうだぞ童貞くん。わたし達の会話はカオスが基本だよ」
「夏枝に童貞って言われるとすげー良いんだけど、これは俺がMということなのか?」
「「キモ」」
あー、ありがとうございます。現役JKふたりからのキモをいただきました。こんなもん、なんぼもろてもええですからねぇ。
「ところで世津」
「なんだよ未来」
「未来先輩、でしょ。ここ、どこだと思ってるの?」
「カフェだよ」
「だね」
「じゃあ良いじゃねーかよ」
「だね」
「良いんかい」
「ちょっと。話を脱線させないでくれるかな」
すっげーやこの子。先輩特権を使って人のせいにしてきやがりました。
「えっと。世津と夏枝さんって付き合ってるの?」
その質問に夏枝がちょっぴりムスッとして言ってくる。
「それって四ツ木の彼女は美月しか認めてないって意味ですかー?」
流れ的にはそうなるよな。
なんで夏枝さん? 秋葉さんは?
って聞きゃ、夏枝てきにも気持ち良くない。
俺と本当に付き合う気なんかないだろうが、乙女のプライド的にその聞き方はプライドを傷つけられたみたいな感じなのだろう。
「違う違う。夏枝さんと付き合ってるなら……」
未来が俺と夏枝を見比べると、ちょっぴり複雑な顔をした。けど、すぐに切り替えて優しい笑顔を見してくれる。
「……うん。祝福する。ほんとだよ」
そう言ってくれる未来に対し、夏枝は申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。
「すみません。調子乗りました。付き合ってはいません」
「そっかぁ」
未来はどこか安堵したような声を出した。
「付き合ってないんだ。えっと、ふたりはこれから付き合う予定は?」
「親戚のうぜーおばさんかよ」
「ね、ね、どうなの? どうなの? おばちゃん気になるわー。世津? 夏枝さん? 付き合う? 付き合っちゃう? 付き合おう!」
「じいちゃーん! ここにシラフでやべー奴がいるー! ヘルプー!」
「それは幸せなハーレムの波だ。乗りなさい」
ウィンク、パチッ、コップ、キュッとして終わり。だめだあのじいさん。このやべー展開をハーレムと思ってやがる。
「ええっと……」
ドン引いた夏枝がウザ絡みしてくる未来へ質問。
「加古川先輩は四ツ木のこと好きじゃないんですか?」
未来のウザ絡みは電池が切れたみたいにピタッと止まる。
少しだけ考え込んだあとに夏枝を見た。
「夏枝さんこそ世津のことどう思ってるの?」
「好きですよ」
ドキンと心臓が跳ねる。
こちらのリアクションに気が付いて夏枝はケタケタと嬉しそうに笑っていた。
「仲間ですから」
ピース。じゃないんよ、こぉんの小悪魔め。もっと俺を弄んでください。
「加古川先輩は?」
「好き」
未来が短く言うと、頭を撫でてくる。
「でも、この子がハッピーエンドになるなら相手は誰でも良いよ」
「なるほどー。距離が近過ぎてそんな感情になるんですね」
「そうかもね」
「おいごら1日違い。なにをお姉さんぶってやがる」
「先輩だぞ」
「くそぉ。1日違いなだけなのにぃ」
ポフポフと俺の頭を軽く叩きながら未来が立ち上がる。
「ごめんね、ふたりの邪魔して。お邪魔虫は帰るね」
「そんなことありませんよ。もう少しお話しましょうよ」
夏枝の言葉を未来は嬉しそうに受け止めたが、ポケットからなにかのチケットを取り出して答える。
「ありがとう。でも今日はマスターにこれを届けに来ただけだから」
「そうだったんですか。では、また今度ゆっくりお話したいです」
「私も。夏枝さんと秋葉さんと冬根さんと4人でゆっくりお話がしたい」
どうして俺の仲間の女子連中なのだろうかと思ったが、いとこと仲が良い女子と話したいって意味だろう。深く詮索はしないでおく。
「また機会作りますよ」
「ありがとう。じゃ、またね」
軽く手を振って未来はじいちゃんにチケットを渡して帰って行った。
じいちゃんは飛び跳ねて喜んでいる。跳ねたら足を痛めるんじゃないか。
「四ツ木」
夏枝が呼んでくるんで顔を見ると複雑そうな顔をしていた。
「どうかしたか?」
「加古川先輩ってあんな感じだったっけ?」
「夏枝よ。未来はみんなが思っている以上にポンコツだぞ」
「いや、そうじゃなくて……。前々から大人びた人って感じだったけど、本当に同世代くらいなのかなって思って」
「そりゃあいつは四月一日生まれなんだからほぼ俺達と同級生だぞ」
「違うんだよなー。なんて言うのかな……。なんか人生5回目くらいって感じ」
「今のカオスな会話でどうしてあいつが人生5回目くらいってなるんだよ」
笑いながら言ったあとにすぐに自分の言葉を曲げる。
「でも、夏枝の言いたいことはなんとなくわかる」
「でしょー」
同意してやると嬉しそうに言葉を続けた。
「大人の余裕というか、なんか見透かされているっていうか……」
「なんとなくわかる。お姉ちゃんぶるのに拍車がかかっているというか……」
「四ツ木ってお姉さんがタイプ?」
「ばかいうな。美人だったら全部タイプだ」
「ここに四ツ木のドストライクがいるぞ」
「夏枝が言うと洒落にならんのだよ」
「マジで言ってるからね」
「流石夏枝七海様。そのナルシストは秋になっても健在ですか」
「真実だけを述べるのだよ、わたしはね」
ウィンク、パチッが似合うな、この美人様は。




