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セツなきミライは砂時計にながされて  作者: すずと
秋葉美月編〜女心と秋の空。幼馴染の心は夢と妄想に移ろう〜
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第39話 俺達だけの秘密

 あれは小学5年生の頃だったな。


 美月と同じクラスで席が隣同士だったのを覚えている。


 小学生も高学年だってのに隣の席の人と席をくっつけないといけない謎ルールが存在していたな。でもあの頃は美月が隣で安心して席をくっつけれたっけな。


 夏休みも終わった秋口。ロングのTシャツを着て登校した日だからそれくらいだろう。


 小学生の昼休みの定番のドッヂボールから帰って来ると、美月がクラスの女子達に囲まれており、明らかに不穏な空気だったのを覚えている。


「えー。なにこの急展開」

「なんかご都合主義な感じ」

「白馬のW 王子様W」


 美月を囲んでいる女子達がノートをぺらぺらとめくって好き勝手言っていた。美月は俯いて耐えている様子だったっけな。今にも泣きそうな顔だった。


「てか、なんかさ、この登場人物の男の子四ツ木に似てない?」

「あ、わかる。なんか似てるわ」


 俺の名前が出てきて少しばかり、ドキッとした。だが、それ以上にドキッとしたのは美月だったことだろう。彼女は俯いていた顔を上げて涙目で訴えかけていた。


「そ、それは……」

「え? なに、やっぱ秋葉さんって四ツ木のこと好きなの?」

「四ツ木狙いかぁ。いや、あんたじゃ普通に無理でしょ」

「一緒に学校来てるもんなぁ。それで勘違いしちゃった系か」

「ち、ちがっ……」


 今にも泣き出しそうになっている美月をこれ以上見てられなくなり、俺は女子達から美月のノートを強引に奪った。


「ちょ。四ツ木……!?」


 少し乱暴な行為に、ノートを持っていた女子が睨みつけてくる。


「お前らそういうのいいから。まじで」


 この時期の男子ってまじで無敵よな。女子にどう思われようがなにも感じない。


「なんだよ。彼女が自分の漫画描いてくれて嬉しいとか思ってんのかよ。きもいぞ」

「お前らみたいなゴミが美月に絡んでムカついてんだよ。ぶす」

「ぶっ……!?」


 それだけでわんわん泣き叫んじまう。


 高学年の大人数でつるんでいじめをするような女子はまじで精神弱いよな。


 そっからはお祭り騒ぎ。四ツ木が女子を泣かせた。先生に言ってやろ。先生登場からの事情聴取。女子の圧に負けた先生が、四ツ木世津が悪い判決で放課後職員室へゴー。


 小学生の放課後は忙しいんだぞ。宿題そっちのけで公園でおにごっこしたり、友達の家でゲームしたりってさ。ふざけんな。


 理不尽なお説教をくらうと時間は結構流れていたな。


 ランドセルを取りに戻ってくると美月が俯いたまま自分の席に座っていた。


「なにしてんの?」


 声をかけると泣きそうな顔が上がってくる。


「世津、くん……」


 俺の名前を呼ぶと泣き出してしまうので、慌てて彼女の隣に座った。


「泣くなよー。そんなに見られたら嫌なノートだったのか?」


 フルフルと首を横に振りながら、手で涙をふいて答える。


「あたしのせいで、世津くんが、職員室、行ったから……」

「そんなもんいつものことだろう。この前だってドッヂボールで窓ガラス割って呼び出されたんだし」


 まじな話しをしながら相手を慰める。つうかドッヂのボールで割れるガラスが悪いだろって先生に言ったら、お説教が課金された。口は災いの元だよね。


「そんなこと気にして待ってくれてたのかよ」


 コクコクと頷く美月に、やれやれとため息を吐きながら言ってやる。


「付き合い長いんだし、俺がこんなんで病むはずないだろ。なんで美月が病んでんだよ。ほら、さっさと帰ってゲームしようぜー」


 そう言ってランドセルを背負って帰ろうとすると美月が俺を止める。


「待って。世津くん待って」


 そう言ってノートを渡してくる。それは先程女子達が美月をばかにしていたノートだ。俺が彼女達から無理やりに奪い取ったノート。


「見ろって?」


 コクリと頷くと、泣き止んで目を腫らした顔で言ってくる。


「あの人達の評価なんかいらない。世津くんの評価が欲しいから」

「なんのこっちゃ」


 こっちはなんにもわかんない状態で美月の熱い言葉だけがひとり歩きしているので困惑状態。でも、そんな美月へノートを突っ返すわけにもいかないので、ペラペラとノートをめくる。


 そのノートには漫画が描かれていた。


 内容から小学生同士の恋愛漫画らしい。


 絵が非常に上手く、恋愛漫画を読んだことのない俺でも、すんなりと話の内容が入って来る。


 パタンとノートを閉じて美月へと返す。


 だが、彼女はノートを受け取らず、恐怖と不安で動けないと言った顔でこちらを覗き見てくる。


 つまらないとかおもしろくないとか言われるかもという不安そうな顔に一撃をプレゼント。


「すごく面白かった」


 小学生だから気の利いたことは言えなかった。この程度の感想しか言えなかったが、真に心に思ったことで間違いない。


「恋愛漫画って初めて読んだけど、この漫画はすごくわかりやすかったよ。また美月の漫画見せてくれよ」


 付け加えた簡単な言葉は、彼女に取って安心の材料になり得たみたいだ。


 ノートを受け取ると宝物を扱うように胸に抱きかかえて、こくこくと頷いた。




 ♢




 その日から一週間、美月は体調を崩してしまい学校を休んでいた。


 元気に登校してきた授業中に美月がこっそり俺へ一冊のノートを渡してきた。


 もしかしたら漫画の続きを描いたので、約束通りに見してくれるのかと思いノートを開く。


 しかし、そのノートに漫画は描かれていなかった。


 代わりに、大量の文字でノートは埋め尽くされていた。


 小説というやつだ。


 漫画をバカにされてしまったから、小説に切り替えたのかと思うと胸が痛んだ。


 俺にもっと言語のキャパシティがあれば、彼女は今でも漫画を描いていたのではないだろうかと思う。


 でも、彼女の書いた小説は面白かった。


 活字ってのは国語の授業でしか読まなかったけど、美月の小説は、それはそれは読みやすく、国語の教科書に載っているそれとはまったくの別物で、シンプルにとても面白かった。


「美月。これ、すげー面白い。続きないの?」

「え、えと……。あたしが小説書いてるの秘密にしてくれる? してくれたら続き書いてくる」

「俺と美月だけの秘密だな」

「うん。世津くんとあたしだけの、秘密」


 その日から美月の秘密を守る代わりに、俺は彼女の小説を読ませてもらっている。

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― 新着の感想 ―
[一言] 手書きしかできなかった時代。その一文字に込める思いは、キーボード叩くよりずっと重かったような気がする。 なにより、読んでもらうためには、字をきれいに書かないといけないんだものねw
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