第36話 はじまりのファンタジア。天上天下唯我独尊。
美月を乗せて地元から京都の方へと北上して行く。
バイクがあると本当に便利だね。中学生の頃までは、京都に行くなら公共交通機関必須だったけど、バイクがあると公道を走って目的地へと行ける。
そりゃ車よりはバイクの乗り心地は劣ってしまう。
でも、後ろに乗せているのは幼馴染。お互いに多少のわがままを言い合える仲だ。
疲れたとか、お尻痛いとか平気で言ってくれるから運転してる側も気が楽だ。
夏枝とか聖羅を乗せたらこうはならんだろうな。なんだかんだで気を使うだろう。
もちろん、美月だから気を使わないで良いってわけではないが、やはり付き合いの長さってのはこういうところで生かされるのだろうな。
さて、京都は白川通までやって来た。白川通は京都の主要な通りの1つ。京都は国宝だけじゃなくて有名な通りが多い。住所も長いところ多いし。でも、道は結構単純で囲碁の基盤の目のような感じだから、案外簡単に行きたいところに行けるんだよ。
大阪府民が京都の豆知識にもならなようなことを披露しながら、餃子の玉将が見えて、うわー餃子食いてぇと欲求を抑えながら通り越して、目的の店が見えたところを裏に入って行く。
駐車場にあるバイク置き場にバイクを置いて、店の前に立った時に美月が店の看板を見て首をひねった。
「行きたかったお店ってここ?」
「天一の総本店」
天一の愛称で知られる天下一口はどろどろスープのこってりしたラーメンが特徴の人気チェーンラーメン店だ。俺の1番好きなラーメン屋でもある。
「ここって地元にもあるよね? 何回か連れて行ってくれたし」
彼女の言う通り地元の駅近にもある。全国チェーンだからな。美月を引き連れて何回も行っている。
「甘いぞ美月」
俺は指を振って彼女へ説明する。
「ここは総本店。この意味がわかるか?」
「はじまりのファンタジア」
あ、うん。よくわかんないけど、語呂は良いね。
「天一の総本店は他の店よりも美味しいという噂がある」
「ほんとに? チェーンでしょ?」
「それを確かめるために高校生ブロガーの四ツ木世津が相棒の秋葉美月と参上つかまつった」
「とりあえずわかったのは、世津くんの趣味の候補にブログが入っていることだね」
「行くぞミツソンくん」
「語呂わるー」
♢
ここは天一総本店。
店内は真っすぐに伸びるタイプの内装で、テーブル席が少しとカウンター席の昔ながらのラーメン屋さんって感じだ。店はお世辞にも広いとは言えないが、これこそがはじまりの場所。
本当のはじまりは屋台みたいなんだけどね。創業者様が自分にしか作り出せない味をとことん求めて完成させたスープ。それを食べに来てくれたお客様が増えて繁盛していき、屋台から店舗へとなったみたいだ。
営業開始と同時くらいに入ったため、運良くテーブル席に座ることができた。
美月と一緒に天一の超有名ラーメンを注文し、今か、今かとラーメンを待つ。
「そんなに楽しみなの? いつも食べてるでしょ」
くすりと子供を見るように笑いながら、美月がピッチャーに入った水をコップに注いでくれる。遠慮なく飲みながら彼女へ答える。
「総本店だぞ。絶対うまいよ。いや! 他の店もうまいけどね、うまいけど、総本店って付いたら絶対うまいだろ」
「テンションたかー」
そのまま他愛もない話をしていると、お待たせしましたと天一のラーメンがやってくる。
もう見ただけでわかる。うまいやつ。
美月は総本店のありがたみがわかってないのか、いつもの地元に行く時のノリで食しがやがっておいでです。
このバカたれめ。総本店だぞ、ここ。
なんて注意すると鬱陶しがられるだろうから黙っておくか。
天一のラーメンをジッと見つめる。
濃厚スープに浮かぶ麺とチャーシーとネギ。そしてメンマ。王道中の王道に見えるラーメンの中身だが、圧倒的違いを放つ濃厚スープ。
「んぁー。美味しい。やっぱ天一美味しいね。世津くんもはやく食べなよー」
この無礼者め。のうのうと食べやがって。今から創業者様に感謝の意を示そうとしておるのに。
ああ、創業者様。このラーメンを作ってくださり本当にありがとうございます。
創業者様の魂の一撃、時代を超えて、今、頂戴するっ!
ずるー、ずるー!
麺をすするというよりは、スープをすすっているかのように絡みついた麺を食す。
一口食べて俺は指を突き上げた。
「天上天下唯我独尊」
「ふつうに美味しいって言えばいいのでは?」




