第34話 趣味探し(図書室)
男子共に喋っても現状は変わらず。
ただただ俺と豪気が女子の当て馬にされただけで終わってしまったよ。
ここは文明の利器に頼ろう。
スマホに【趣味 高校生 なんか】で検索かけた。
けどね、うん、情報過多で逆にわからん。
今日はバイトもないので、放課後になって図書室にでも足を向けた。
デジタルな時代だからこそ、逆にアナログで趣味探しをしても良いかも。それに受付には美月がいるはずだし、趣味探しに飽きたら彼女と駄弁って一緒に帰れる。
図書室のドアを開けると独特の匂いがする。
ノスタルジックな香り。加えての沈黙。
この雰囲気はかなり好きだ。
テスト期間中じゃない図書室は人気が全くなく、受付の方からカタカタとタイピングの音が響いていた。
今日も執筆作業に精が出ている美月は、眼鏡の奥の瞳をノートパソコンに一点集中させていた。
声をかけるのも悪いか。
あの状態なら声をかけても反応はなさそうだが、極力邪魔しないように入って行く。
棚の側面に書いてある整理番号やら本の種類やらを頼りに適当な本を探す。
へぇ。図書室ってあんまり来ないけど色々な本があるんだな。
野球の日本代表の本めちゃくちゃ厚い。ま、この前の世界大会は熱かったもんね。事実は小説よりも奇なり。ありゃ漫画やドラマを超えていたもんな。また野球人口が増えそうだ。
あー、はいはい。将棋ね。将棋も平気で現実世界が創作の世界を超えてるよな。
最近の現実世界のプロってまじで凄いよね。
っと、そうじゃなかった。趣味の本、趣味の本……。
……ぬ?
《彼ピのハートを打ち落とせ。激うま真心手料理集》
なんともまぁタイトルが胡散臭いんだけど……。
しかし、料理か。料理も良いよね。食べるの好きだし、自分好みの味付けにできるし、「休日ですか? 創作パスタを作ってますね」とか言えたらできる男感あるな。よしよし、料理も候補に入れますか。
待てよ。食べるのが好きなら食べ歩きも良いよな。俺とかラーメン好きだし、ラーメンの食べ歩きとか。カフェでバイトしてるからカフェ巡りとかもありだな。よしよし、食べ歩きも候補に入れますか。
待てよ。だったらそれをブログにアップしてちょっとした小遣い稼ぎも可能なのでは──。
♢
「世津くん。そんなに本を山積みにしてなにしてんの?」
「んぁ?」
図書室の大きな席を陣取って本にふけっていると隣から美月の声が聞こえてきて顔を上げる。
そこには眼鏡を外した美月が少々呆れた顔をしていた。
「あれ? さっきまで眼鏡してなかった?」
「途中で覚醒したので」
なるほど。熱が入ったという設定を忠実に守っているのね。
「そんなことより世津くんやい」
「なんだね、美月やい」
「こんなに大量の本をがめてどうするの?」
「がめ……? なに?」
「え、うそ。通じない? 関西弁でしょ」
「関西弁にそんな言葉ありません」
「うそだ……」
信じられないといった表情で美月がスマホを取り出して検索すると、目を大きく丸めた。
「博多……弁、だと」
「ほらぁ」
「でも普通に言うでしょ、がめるって」
「なんとなく今の状況と照らし合わせて想像をできるな」
俺の座高よりも随分と高い本の山を見ながら答える。
「盗るとか、無駄に持ってくるとかそこら辺?」
「うん。正解みたい。盗むとか、寄せ集めるだって」
まぁこうやって方言もなんとなくわかるのなら良いが、鹿児島弁の難しさよ。
「いやいや、だからそうじゃなくて」
美月がスマホをポッケにしまって改めて聞いてくる。
「こんなに大量にどうしたの?」
「きみに言われて熱中できる趣味というのを探しているのだよ」
「趣味、ねぇ」
美月がほんの山に手を伸ばしてタイトルを俺に見してくる。
「かいけつソロリとかズッコケ三人衆とかは趣味探しに役に立つ?」
「ぬぬぬ。なぜこのような本が……」
「それは知らないよ」
とかなんとか言いながら、本の山をかきわけていると美月の目が輝きはじめる。
「うわー。怪談ファミレス懐かしい」
一筆書きしたかのような可愛いお化けが表紙の本を持って懐かしむ顔をしている。
「その本、美月が小さい頃よく読んでたよな」
「そうそう。よく図書室にこもって全巻読破したなぁ。懐かしい」
ん? と思い出したかのように首をひねると、そっと思い出の本を置いた。
「だから、趣味の本探しているのでは?」
「なぜ懐かしの本たちがここに」
「だから知りません。もう……」
呆れながら本の山をかきわけると美月が、《彼ピのハートを打ち落とせ。激うま真心手料理集》の本を取り出した。
「これなんか料理の趣味っぽいけど」
「あ、それだわ」
「なにが?」
「それから派生して色々と本をがめたのさ」
「早速と博多弁をナチュラルに使えってくる世津くん流石」
「てへ」
陽介の真似してみるとスルー余裕でした。
「料理するの?」
「料理も良いと思うし、食べ歩きも良いと思う。んで、ブログも良いと思ったんだっけな」
「なるほど、それで地図やらブロブの書き方の本があるのか」
「そうみたいだな」
他人事みたいに言ってのけてから、視線を本に戻そうとしたら美月に取り上げられてしまう。
「お客様。当館は閉店となりまーす」
言いながら、窓の外を指差すとすっかりと暗くなってしまっている。
「おお。いつの間に」
「世津くんって意外と本読めるタイプだよね」
「意外とは失礼な」
「いや、明らかに外でドッヂボールばっかりしてるタイプだもん」
「何度美月を助けたことやら」
「世津くん、その節はどうも」
「俺の名前でだじゃれ言うな」
「てへへ」
ふざけた笑みを見した後に感謝するような顔をする。
「そんな世津くんがあたしの小説読んでくれて嬉しいな」
「美月の小説がどの本よりも面白いからな」
「単純なお世辞で舞い上がるよ?」
「舞い上がってくれたまえ」
ふふっと嬉しそうにする美月が嬉しそうに提案してくれる。
「今度の休み。趣味探し行こうよ」
「唐突のデートのお誘いとは舞い上がり過ぎでは?」
こちらの言葉に恥じらいの一つも見せずに息をするように言われる。
「いつも小説を読んでもらってるお礼。食べ歩きしようよ」
「食べ歩き……。あ、そういえば行ってみたいラーメン屋があるんだ。付いて来てくれないか」
「ん、いいよ」
美月を誘うと即答でOKをもらい、今度の休みの日に行きたいラーメン屋に行くことになった。




