第33話 ハーレム野郎、ゲス野郎、犬野郎
「なぁ、陽介。豪気」
お昼前の体育の授業は体育館で行われた。
男女でコートを仲良く半分こにして行われるバスケの授業。本日は実戦形式をやるみたいで、ただいまミニゲームが行われている。ミニゲームというか、もはや試合だな。
試合じゃない奴は隅っこで自分の番を待つスタイル。俺らの出番は当分先だ。
隅っこであぐらをかいて視線は女子の方。
当然だよね。なにが悲しくて男子のバスケなんぞ見なあかんのだ。
女子だよ、女子。男子の試合なんか気にもならん。
なんて思いながら女子コートを見ていると、夏枝が無双してた。
流石は女バスのエース様。
華麗なるレイアップシュートを決めた後、元カノ様と目が合ってVサインをしてくるもんだからダブルピースで返しておこう。
「どったん?」
そういえば男子共に声をかけていたのを忘れていた。
ダブルピースをやめてから、反応してくれた陽介の方を見る。
「お前らなんか熱中してるもんってある?」
「んぁー」
質問に豪気が変な声を出して体育館の天井を見上げた。
どうやったらそこにバレーボールが挟まるねんって場所にバレーボールが挟まっている。あのボールは一体、何年間そこにいるのだろうか。
「やっぱ、バイクっしょ!」
豪気は考えた末に出した答えはバイクであった。
確かにこいつはそのために野球をやめて免許取りに行ったまでだもんな。
それにこいつは俺と違ってバイクいじりも好きだし、根っからのバイク好きって感じだ。
「レーベルだっけ? 豪気のバイク」
陽介の質問に指を振る豪気。
「レブルな。俺の相棒だぜ」
ビッと親指を突き立ててドヤ顔ひとつ。
「つか世津もバイクに熱中してんじゃねぇの?」
「んにゃ俺はそこまで。乗れたら良いやって感じ」
「くのいちだっけ? 世津のバイク」
「忍者な。陽介は絶妙におしいところを突いてくるよな」
あははと笑って誤魔化される。ま、バイクを知らない人ならこんなもんだろう。
「でも、世津のバイクもガチ勢が乗るようなやつじゃないの? ミッションなんだろ?」
「俺の場合はせっかくミッションで取ったからミッション車に乗らないと意味ないって考えなだけ。豪気みたくいじくり回すのも趣味じゃないし。ただの足って感じだよ」
「へぇ。バイク乗ってるやつはみんないじくり回すもんだと思ってたよ」
「俺なんかはオイル交換もすぐに店に持って行くよ。豪気は自分でやるだろうけどな」
まぁな、なんてまたドヤ顔してます、この犬様は。
「んで、陽介にはないんか?」
「オレなぁ……」
考え込むと陽介は爽やかスマイルを送ってきやがる。
「女の子を弄ぶことかな」
「ゲス」
「ビッチ」
「おい待て。世津の悪口はわかるが、豪気の悪口は違うだろ」
「違うのか?」
豪気がなにが違うのか心底わからないといった犬様の表情で見てくるので、笑いながら答えてやる。
「似たようなもんだよ」
とりあえず陽介が女の敵ってのに変わりはない。それでもモテるとかどんだけイケメン様なのか。いや、顔もそうだが、こいつの場合はまじに女の扱いが上手いんだよな。くそが。
「まぁそれは冗談として」
「現在進行形で女子に向かって爽やかスマイル投げてきゃーきゃー言われてるゲス野郎に冗談もくそもあるかよ」
「オレにも熱中できるものってのはないな」
陽介は女子達に手を振り終わると真面目な顔して言ってくる。
「オレ達男子高校生なんてそんなもんじゃないのか? 学校行って友達と駄弁って放課後だらだらして。ほとんどの奴に熱中してることなんてないと思うけどな」
「ま、そんなもんだよなぁ」
実際の俺だってそんな感じだし。
「しっかし世津。急にどうしたよ」
「だな。世津がそんなことを聞くなんて珍しいぞ」
確かに、俺からこんな話題を振るなんて今までなかったかも。
「美月がさ、熱中するもんはないのかって聞かれてさ、そういえば俺ってないなって思ったわけだよ」
「なんだ。嫁とのイチャイチャ案件かよ。このハーレム野郎」
「ゲス野郎にハーレム野郎呼ばわりされたくないわ」
「数では俺が圧勝だが、校内ベスト4に入る美少女をはべらかしているからな、世津は」
「はべらかしてねーわ」
「いやいや。夏枝という恋人。秋葉という嫁。聖羅というペット」
聖羅のポジションって不遇だね。
「いや、てめぇだろうが、女子はべらかしているんわよ」
「俺は弄んでるだけ」
「キミ、まじでホストになるなよ」
「あっはっはっ」
否定しろや。
「んぁ。なぁなぁ陽介」
「どした? 豪気」
「もうひとりって誰だ?」
豪気の質問は校内ベスト4の最後のひとりのことだろう。
「加古川先輩。あの人の絶対人気はえげつないよな」
「へ? 未来ってそんなに人気あんの?」
「は? そんなんも知らねーでいとこしてんのかよ」
なんで俺はちょっと怒られてんだ。
「加古川先輩なんか幻だとか言われてるくらいなんだぞ」
「実在するだろ」
「それくらい非現実的な美しさってこったろ。なんだろうな、あのミステリアスな雰囲気というか、高嶺の花というか」
陽介がそんな表現をするなんて珍しい。
「美しすぎて近寄りがたい。それによって告白する勇気のある奴はおろか、喋りかける勇者も指折り数えるほどだ」
「へぇ。そうなん」
「そんな先輩といとこ同士で仲が良いとか……いや、お前、美少女をどんだけ持っていくんだよ」
「持って行ってないわ、ぼけ」
「それに犬まで付いているぞ」
視線を豪気に向ける。
「ワン」
「いらねぇ」
「おいい! 世津、首輪付けろよ!」
「やめろ、きしょくわりぃ!」
「お前はどんだけ持っていくんだよ、ちくしょうが!」
拗ねた声を出す陽介に言ってやる。
「親友もいるしな」
「……世津ぅ」
ガシっと男の友情が芽生えた。
その様子を見ていた女子達がきゃーきゃーと騒ぎ出す。
「陽介。また俺らを当て馬にしたろ」
「てへっ」
「てへっが爽やかかっこいいよ、お前」




