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セツなきミライは砂時計にながされて  作者: すずと
秋葉美月編〜女心と秋の空。幼馴染の心は夢と妄想に移ろう〜
29/100

第29話 秋葉美月とはストレートな幼馴染だね

 今日も一日とお疲れ様でしたー。


 労いの言葉を放つかのように校内に響き渡るチャイムの音。


 それと同時に2年6組の部活組がぞろぞろと出て行く。


 夏枝も涼しい風が吹いたかのように、颯爽と教室を出て行くのが見えた。


 部活組ではない聖羅も、どたばたと忙しなく出て行く。


 あの慌てようはレッスンかな。彼女はアイドルだから色々と忙しそうである。


 反して、部活組ではない奴等はのんびりとしている。帰り支度をしている奴、友達と駄弁ってる奴。色々といる。俺もその内の1人だ。


「よぉ、世津」


 部活組ではないピュアヤンキー豪気くんがポケットに手を突っ込み、大きな体を丸めてこちらにやってくる。


 こいつの性格を知らなかったら、カツアゲでもして来るんじゃないかと警戒してしまうが、こいつはそんなことをするような子じゃない。この感じは甘えに来た犬だね。


「うぃ豪気。おつー」

「おつかれー。今日、風を感じに行かねーか?」

「は?」


 前髪をかき上げ、なんとも中二病チックなことを言ってくるもんだから心底疑問の念が言語化しちまった。


「なんかよくわからんが、今日はバイトなんだ」

「そっかぁ、残念だぜー」


 ガックリと肩を落とす姿は、ご主人様が遊んでくれない犬そのものだ。


「でもよ世津。なんかよくわからんは酷すぎだろ」

「いや、高二の俺にそんな痛々しい中二病発言が通じるかよ」

「いやいや、『今度からツーリング行く時は、風を感じに行かないか? って誘い合おうぜ』って言ってたじゃねぇかよー」


 あー、記憶の断片にそんなことを口走った記憶が見つかっちゃった。


 真の中二病は俺だったってオチ。これ、なんか恥ずかしいから適当に誤魔化すか。


「……パァドゥン?」

「デュクシ!」


 適当に誤魔化すと、脇腹を突き手されてしまった。


「きゃはは! やめろって! なんでパァドゥンの返しがデュクシなんだよ」

「おめぇが言ったと言うまでデュクシをやめない!」

「わかった、わかった。言った、言った。確かに俺が言った」

「てめっ。やっぱり言ってんじゃねぇかよ。デュクシ!」

「きゃは! きゃはは! やめてねーじゃねぇかよ! ヤンキー詐欺師」

「誰がヤンキーだ!」


 そんな俺達のイチャイチャを隣の席でのんびり帰り支度している美月が、眼鏡の奥の目をジトーっとさせて見つめていた。


「世津くんと杉並くんって、ほんと仲良いよね」


 彼女の呆れたような物言いに豪気が反応した。


「ま、腐れ縁つうか」

「奇妙な関係だよな」


 俺と豪気は小、中と違う学校だが、小、中の時、同じ外部の軟式野球チームに所属していた。なので、同じグループの中でも付き合いはかなり長い。


 ちなみに、高校では野球を続ける気はなかった。ドラマになるような深い理由はない。


 やめた理由を強いて述べるなら、そうだなぁ……部活よりもアルバイトに興味があったからかな。


 部活しながらアルバイトってのはしんどそうだったので、アルバイトに専念することにしたってのが理由ってことで。


 豪気もバイクに興味を持ったみたいで、そっちを優先してやめることになった。俺がバイクの免許を取ったのも豪気の受け入りだ。


「俺らは奇妙な関係で付き合いなげぇけどよ、世津と秋葉も付き合い長いよな」


 どこか羨ましそうに言ってくる豪気の言葉を、美月が勝ち誇ったかのような顔をして返した。


「ふっふーん。世津くんとは小学校から一緒だもんね」

「幼馴染だよな」


 俺と美月はなんの捻りもなく、小、中、高が一緒。これは立派な幼馴染と言えよう。


「でも、あたしより加古川先輩の方が幼馴染歴が長いよね……」


 ちょっぴり寂しそうな声を出す彼女を否定してやる。


「美月よ。ありゃいとこだ。幼馴染とは違うだろ。一応、親戚なんだし」

「じゃあ、幼馴染ってあたしだけ?」

「ま、そうなるわな」


 答えると、花が綻ぶような笑みを見してくれた。


「世津!! 俺のこと忘れんなよ! 俺だって幼馴染だろ!?」

「いやー、俺と豪気を幼馴染と呼ぶにはあまりにも変化球が過ぎないか?」

「今まで学校違ったもんな……。くぅぅ。このもやもや、バイクで晴らしてくるぜぇ」


 幼馴染にこだわりでもあったのか、豪気は勢い良く教室を出て行った。


 美月と共にその背中を見送ると、彼女は鞄を持って立ち上がった。


「それじゃ、あたしもそろそろと図書室に行きますか」


 俺もぼちぼちとバイトへ向かおうと立ち上がった時、美月から質問が飛んでくる。


「世津くんは今日バイト?」

「バイトですよー」

「そうですかー」


 同じような喋り方で会話をし、自然と肩を並べ、教室を出る。


「じゃ、バイト頑張ってね」

「美月も、執筆頑張って」


 簡単な労いの言葉をやたらと嬉しそうに顔をくしゅっとさせた笑顔で、「うん」と頷いた。


 彼女の笑顔を見て、手を振り合い、互いの目的地を目指した。

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