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セツなきミライは砂時計にながされて  作者: すずと
夏枝七海編〜サマータイムフェイクラバー〜
25/100

第25話 夏、きみと最後のデート

 大阪駅の5階にある時空の広場。


 金銀の時計が目印になっており、摩天楼と化している大阪梅田──通称キタの定番の待ち合わせの一つに数えられている。


 いや、ほんと、まじでダンジョンだからね。東京の方がダンジョンだろうが大阪も負けていない。何回来ても迷う。


 他にも色々と待ち合わせ場所はあるのだが、数ある大阪待ち合わせスポットの中でもここが一番好きだな。


 陽介はビックマン派。


 豪気はヘップ派。


 待ち合わせ場所に派閥はあるけれど共通点がある。


 梅田人多すぎワロタ。


 実際、今日も人でごった返している。


 今日は特に多い。それというのも、今日は関西で有名な、淀川の花火大会が行われるからだ。


 金の時計の下にあるベンチに腰を下ろして辺りを見渡せば、浴衣美人がそこら辺に集まっている。恋人なり友達を待っているのだろう。かくゆう俺もその1人だ。


 ガールフレンド(偽)は終了している夏休み。


 あの後、男子バスケットボール部から顧問を含め、全員で俺へと頭を下げに来た。


 見逃して欲しい。最後の大会がある。今までの練習が無駄になる。


 俺だって鬼じゃないんだし、そもそも男子バスケットボール部には恨みもなにもない。


 ま、練習見に行った時は睨まれたけど。


 そんなことは些細なことだ。それに、こっちだって変に偽物の恋人なんて設定を作らなければ全身ちんこ野郎が暴走することもなかったわけだし。連帯責任なんて残酷過ぎる仕打ちなんか俺にはできない。


 ってなわけで、俺は殴られてないって設定を自分で作り男子バスケットボール部は大会に出場できた。1回戦負けらしいけど。


 全身ちんこ野郎は停学&レギュラーを外されたってオチにプラスして彼女と別れたらしい。救いはないな、あのちんこ野郎には。当然の報いだわ。


 全身ちんこ野郎の停学が明けて報復に来るか心配だったが、全身ちんこ野郎よりも更にガタイの良いキャプテンと先生がしっかりと手綱を引いてくれたみたいで、報復もなにもなかったな。


 こうして、ガールフレンド(偽)は無事に終幕となった。


 だけど──。


『これで彼氏のフリは終了か』

『そうだね。付き合ってくれてありがとう。でも、これで終わりってのも味気ないからさ、夏休みに花火大会に行こう。そこで偽物の恋人を終わらせるね。一瞬を輝く花火と共に散る偽の恋。ふふ、なんかいいでしょ』

『良きですなー。んじゃ、ガールフレンド(偽)延長編ってことだな』

『お願いします』


 そんなわけで俺達は今日、ガールフレンド(偽)の延長線上にいるってわけだ。


 それにしてもやけに緊張しちまうのは夏枝を意識しているからだろうな。


 そりゃさ、『好きだから……四ツ木世津のことが大好きだから付き合ってんだ!』なんて決めセリフを目の前で出されちゃ困惑もんだよ。


 あの状況じゃ演技なのか本気なのかもわかんないし。


 本人にやんわりと聞こうとしても華麗にかわされるし。


 あんまり触れられたくないのかな。アドレナリン出てて咄嗟に出た言葉なのかもしれないし、こっちからつつくのも嫌だろうしで、モヤモヤしつつもドキドキしてんだよ。


 偽物の恋人も終わり、なんだな……。なんか寂しい気がする。


 夏枝と本物の恋人になれたら……。


「お待たせ」


 ドキンと更に心臓が跳ねる。


 心臓の鼓動を強めながら聞き慣れた声に反応して視線を向けると、時空の広場の時が止まった。


 視線の先には浴衣姿の夏枝七海。


 上品で落ち着いたデザインの水色の浴衣は、暑い夏にぴったりな涼し気な印象。ミディアムヘアをかんざしで止めてアップヘアにしている。


 彼女は元々大人びているのに更に大人の女性へと印象操作を施してくる。


 控えめに言って、今日の夏枝七海は誰よりも綺麗であった。


「大阪に女神様が降臨なさった」


 ドキドキしすぎて変な例え方になると、夏枝はくすっと笑った。


「褒め方が素直じゃないなー。ちょっとふざけた感じ出して照れをカバーしてる」


 彼女は軽く一回転し、夏を彩るモデルショーみたく前から後ろまで存分に浴衣姿を披露してくれた。


「さぁ。正直な感想を言いたまえ」

「綺麗だよ」


 本物の芸術品を見た時に、単調な感想しか思いつかないのと同じで、彼女の浴衣姿は綺麗だという感想しか出て来なかった。しかし、それではありふれた浴衣美人に対する評価と何ら変わり映えしない。でも、そんな言葉しか出て来ないんだ。


 だから目で訴えかける。


 言葉はおまけと言わんばかりに、正直な気持ちを視線に込めて夏枝へ放つ。


 どうやらそれが伝わったみたいで、彼女は頬を赤らめて視線を沈めた。


「や……。ど、ども、です」


 彼女の視線を打ち落とすことに成功したことによるちょっとした優越感と、このとんでもない浴衣美人と今から打ち上げ花火を見るというドキドキ感が合わさった、なんとも言えない緊張感の中、立ち上がると軽く睨みつけるように俺を見てくる。


「ん?」

「なんか悔しくて。四ツ木も浴衣着たら褒めちぎってやったのに」

「男の浴衣も風情があって良いけど、男女共に浴衣だと目立つだろ。そこはやっぱり女の子が華を持つべきっていう考えだな」

「そ、っか。じゃ、四ツ木はこんなに華のある浴衣美人の隣を歩けてドキドキってことかな?」

「さっきから心臓の音がやばいよ」


 本音を言ってやる。


「まぁたそんなこと言って」


 ガシっと腕を掴んでくると、浴衣独特の生地の感触の奥に夏枝の熱を感じることができて、心臓がギアチェンジをして更に速まる。


「おいおい。ガールフレンド(偽)はもう終わったんだろ?」


 やばいな。この距離なら俺の心臓の音聞かれるやもしれない。


「延長編でしょ」

「追加料金払ってないですよね?」

「今、払っておりますが」


 この腕組みが追加料金ね。


「お釣りは出ませんがよろしいですか?」

「もってけドロボー」


 普段の俺達のやり取り。違うのは俺がやけに緊張しているだけ。


 夏枝はそんなに緊張しているようには見えないな。さすがです。


「ほらほら、会場に行こう」

「このまま?」

「もちろん」


 強制的に腕を組んだまま会場を目指す。途中、多くの人の視線を感じたが、その多くは夏枝を見るものだろう。そりゃ、こんだけの浴衣美人なら見てしまうわな。


 それにしても、聞こえるくらい俺の心臓はうるさいんだけど、夏枝にいじられなかったな。

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