第23話 バッドエンドなんか覆すさ(夏)
学食で昼を食べたあと、俺はひとりで渡り廊下を歩いて校舎へと向かう。
相手は彼女がいるってのに夏枝に告白してきたややこしい先輩。
そんな相手に放課後ゆっくりと腰を下ろして話しなんてしたくもない。
だから、この昼休みの中途半端に残った時間を有効活用しよう。残り時間が少なければ少ないほど相手の話も短くなる。相手は最後の大会を控えたバスケ部員だ。授業態度くらいは真面目にするだろうから、昼休みが終われば素直に教室に戻るだろう。
さてと覚悟を決めるかな、っと決心したところで、渡り廊下から校舎に入る入口のところで見知った顔があった。
「未来?」
疑問形になっちまったのはなんでだろうか。
目の前に立つのはいつもの未来のはず。それなのにどうしてこんなにも大人びて見えるんだろう。
まるでいくつもの困難を体験してきたかのような彼女の佇まいに、人生経験の浅い俺は蛇に睨まれた蛙みたく立ち止まってしまう。
「教室に戻るの?」
こちらが黙りこくっていると、未来から質問が飛んでくる。
「い、いや。ちょっと3年の先輩に用事があってな」
「その用事ってのは大事なこと?」
なんだか見透かされたような目で見られてしまい、異常にドキドキする。このドキドキは恋するドキドキなんかとは全然違う。面接で質問された時のような、そんな嫌なドキドキだ。
「どういう意味だよ?」
相手は面接官と違うため、質問を質問で返すことができる。
「世津が危ない目に合おうとしてるから止めようとしてる」
未来は知っているのだろう。夏枝の噂を。その噂をなんとかするために俺が3年の先輩に会おうとしていることも。その先輩と会うのは危ないから止めようとしてくれているんだ。
流石は俺のいとこ様。お見通しってわけか。
「大丈夫だよ。夏枝が困ってることを先輩に言うだけだ。なにも心配はいらない」
「そういうことじゃないんだよ」
俺の柔らかく否定する。
「そういうことじゃなくてね。ううん。そういうことでもあるんだけど。なんて言えばいいのかな……」
言葉を遮った割に、定まった言葉を発しない未来は大きく深呼吸をしてから俺を真っすぐと見つめる。
「もし、夏枝さんを助けることが世津にとってのバッドエンドだったとしても、夏枝さんを助けることができる?」
「なんだそりゃ」
なんでそんな質問をしてくるのかわからないが、相手は至って真面目に聞いてくる。
適当に誤魔化すこともできるが、こんなに真面目に聞いてくれている未来に対してそれは失礼である。
「バッドエンドなんかにさせない。もし、そんな終わり方が待っているだけだとしても、覆してハッピーエンドにしてやるさ」
本気の答えはどこか子供っぽく、綺麗事の単語の羅列を描いてしまった。そんな小学生でも出せそうな決めセリフを受けて未来はこちらに歩み寄ってくる。
「わかった。証明してみせて。バッドエンドをも覆す、きみのハッピーエンドを」
言い残して、こちらの返答は聞かずに校舎の方へと戻って行った。
未来が俺になにを伝えたかったのかは理解できなかったが、心配してくれているのは間違いないだろう。
校舎の奥の方へと消えていく未来の姿は、本当にどこかに消えてしまったのかように見えて心配になっちまう。
「おい。お前」
ふと後ろから男子生徒の声が聞こえてきて振り返ると、そこには体の大きなバスケ部の先輩が立っていた。
ターゲットのややこしい先輩だ。
「ちょっと話がある。面貸せや」
いや、ね。こっちもあんたに用があったから別に良いんだけどさ。
いくら後輩相手でも言葉使い汚さすぎるだろ。
ま、それならそれで遠慮なく言いたいこと言えるんだけどな。




