第22話 噂に尾ひれは付き物
「噂の尾ひれが凄いことになってるな」
学食に集まったのは俺と陽介と豪気の男子メンバーのみ。夏枝は部活仲間と。美月は図書委員の仕事ついでに昼を図書室で。聖羅は休み。レッスンかな。
むさ苦しい男子だけの食事中、陽介がぽつりと零した。
「お前ら神戸デート行ったんだろ?」
陽介の質問に豪気が、「神戸」と思い出したように俺に言って来る。
「おい世津、このやろ。俺以外の野郎と中華街行ったのかよ! そりゃねーぜ。ありゃ俺達だけの思い出だろうが」
「豪気以外と行くわけないだろ。中華街はあえてスルーした。あそこは俺達の最高の思い出だもんな」
ビッと親指を突き立てる。
「ぜええええづううううう」
「お前ら……なにがあったか知らんが、キモイぞ」
「「あそこの小籠包めっちゃ美味しい」」
「それだけかよ……」
陽介は呆れた様子を見したが、脱線した話を戻した。
「神戸に行ったことで噂が変な方向にねじ曲がってんぞ」
「知恵の輪てきな?」
「犬は黙ってろ」
「わん……」
陽介に怒られてシュンとする豪気。ま、そうなるわな。
「夏枝が世津と付き合ってるってのが本格的に広まったんだけど、そのせいで夏枝が頼めば誰とでもヤラせてくれるビッチって噂になっちまってるらしい」
「そっ……か」
嫌われ者の俺と付き合うのはどう考えてもおかしい。つまり夏枝は男なら誰とでもヤるビッチ。だから四ツ木みたいな嫌われ者でも付き合えた。
そんなところか。
「んだと!」
豪気が、パシンと自分の手を殴る。
さっきまでご主人様に怒られてシュンとしていたのが嘘みたいに怒りを露わにしている。
「夏枝がそんな軽い女なはずねーだろ。くそがっ!」
「落ち着け豪気。そんなのはオレらのグループは全員わかってることだ」
「陽介。こんなの落ち着いてられるか。誰がその噂を広めてるか知らんが、噂信じてる奴を全員シメれば噂もなくなるだろ。お?」
席を立ち、指をボキボキと鳴らしている豪気を陽介が止めに入る。
「待て待て、待てって……豪気」
しかし、ガタイの違いが出て陽介では止められない。陽介も大きい方なんだけどね。豪気がでかすぎる。
「おおい、世津ぅ!」
陽介が暴走しかけの豪気にギブアップしたので、俺が豪気の目を見る。
「豪気」
「すみません」
まだなにも言ってねーよ。
名前を呼ぶと豪気は素直に言う事を聞いて着席する
「名前呼んだだけで言うこと聞くのかよ」
「陽介。ありゃ世津のまじな目だった。まじな世津はおっかないんだよ」
「なるほどな」
陽介も着席したところで彼を見て問う。
「噂が裏目に出たってことだよな?」
尋ねると陽介が頷く。
「夏枝にそんな噂が流れるのは辛いな。嫌な噂は心がすり減る」
「世津が言うと信憑性が増すな」
「現在進行形の男だからな」
苦笑いを浮かべたところで、陽介がまじな顔して言って来る。
「もう偽物の恋人なんてやめた方が良いんじゃないか? このままじゃ夏枝に変な噂が流れたままになっちまう」
「あれ? 俺の心配は?」
「お前にはオレと豪気がいれば十分だろ?」
「間違いねぇや」
かっかっかっと笑ったあとに深く椅子に座り直す。
軽く天井を眺めながらボソッと言ってのける。
「ややこしい先輩と直接話した方が良いのかもな」
最初からそうしていれば良かったのかもしれないな。えらく遠回りをしたせいで、夏枝に変な噂がついちまった。
「世津。オレも行くぞ。ややこしい先輩とわざわざ二人で話す必要はないだろ」
「もちろんおれも行くぜ。なんかありゃすぐに加勢してやる」
陽介と豪気の申し出はすごくありがたいし、嬉しい。絆を感じる。持つべきものは親友だ。
しかし、俺は首を横に振った。
「夏枝が告白されて困ってるってことを伝えるために野郎三人で行く必要はない。なぁに、大会前なんだしそんな大そうなことはしないだろうよ」
「でもよ世津──」
豪気が反論しようとしたところで陽介が彼の肩に手を置いた。
「わかった」
「陽介!」
「世津がそう言ってんなら世津に任せようぜ。本当に必要になったらオレらを頼ってくれるだろうしな」
豪気はチラリと俺を見てから、頭をガシガシとかきむしった。
「わかったよ。忠犬豪気は待つこともできるからな!」
強面が自分で犬って言っちゃったよ。




