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セツなきミライは砂時計にながされて  作者: すずと
夏枝七海編〜サマータイムフェイクラバー〜
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第20話 夏枝七海の過去

 なんとかSNSにアップできるようの写真を撮れたけど、これってわざわざBE KOBEじゃなくても良かったかも……。


 なんて思っちまったが、バックに移る海の景色とか微妙に見えるBE KOBEの文字とかでデートしてる感があって、これはこれで趣がある写真だと思っちまうね。


 チェーンのカフェも港町にあるってだけでオシャレに見える。なんだか全然違った店に入った感覚になっちゃうよね。


 でも、やっぱり中身は行ったことのあるカフェなので、どこか安心しながら持ち帰りで好きなドリンクを飲みつつ、夏枝とメリケンパーク内を歩いて行く。


 海から通って来る風が夏枝のミディアムヘアを揺らした。


 キラキラ光って見える彼女の髪が綺麗でつい見惚れてしまっていると、チューチュー飲んでいたストローから口を離して夏枝が首を傾げてくる。


「どうしたの?」

「いや、やっぱ夏枝は神戸が似合うと思ってな」

「初めて来た神戸を物にしてしまったか。おそろしいよ、自分自身の美しさが」

「すげー。ナルシストに拍車がかかってる」


 くすくすと笑いながら夏枝が海の方へと視線を配るので、つられてそっちに視線をやる。


 水平線の彼方まで見渡せはしないが、船があり、ビット(よく港や波止場にある俳優が片足を乗せるリーゼントみたいなアレ)が見えて港町から見える海の景色って感じ凄く良い。


「てか、神戸に来るの初めてだったんだな」

「そ。だから四ツ木がわたしのこと神戸ってぽいって言ってるのがピンときてなかったよ」

「意外だな。中学の時からこういうオシャレな感じなところには足を運んでそうなイメージ」

「中学の時はイケてない女だったからね。わたし」


 予想に反した言葉が出てきて、彼女のことをついつい二度見してしまう。


 こちらの反応に首を傾げてくる。


「意外?」


 コクコクと頷くと、乾いた笑いをされる。


「見た目は今と変わらずに超絶美人だったんだけどね」

「性格は変わらんのだな」


 言うと、フルフルと首を横に振った。


「めちゃくちゃ暗かったよ。今では考えられないくらいね」

「ほんと、今の夏枝を見てると考えられないよ」


 イケイケな美女のイケてない過去なんて想像もできないな。というか、見た目はこのままなのにイケてないとか、そんな奴が存在することが不思議だ。


「だから誰かと付き合ったこともないし、高校入る前まで告白なんてされたことなんかないから上手い告白の断り方も全然わかんない。彼女持ちの先輩へのかわし方も知らないってわけ」


 虫除けスプレーの偽物の恋人役ってのはそういうところもあるんだな。


「高校でもね、別に変らなくても良いかなって思ってたんだ。結構楽なんだよ、暗い性格って。人も寄ってこないし、そもそもわたしソロプレイヤーだし」

「そんなソロプレイヤーがまたどうしてガラリと変わったんだよ?」


 聞くと、ビシッと指さしてくる。


「きみに出会ったから」

「俺?」

「そ、きみに出会ったことで夏枝七海は変わったのさ」

「ひとりの少女の運命を変えてしまっていたのか」

「《美》が抜けてる」


 ほんとナルシストは変わらないんだな。


「1年の頃、同じクラスになって四ツ木と美月と杉並を見てたら楽しそうだなって」

「それだけ?」

「それだけ」


 なんとも俺としてはなんにもせずとして美人の運命を変えてしまったみたいだな。


「なんでだろうね。小学校、中学校でも楽しそうな人は沢山いたんだけど、あの時に見た四ツ木は心の底から楽しそうに見えた。なんて言うんだろ。本物というか、素というか……」


 言葉に迷いながら、その答えは出ずにあやふやにしたまま夏枝がこちらを見た。


「わたしも四ツ木達と一緒なら学校楽しいかもとか思ってさ。勇気出して話しかけたら快く受け入れてくれて。そこに聖羅と友沢も入って来て居心地の良い場所に変わって、わたしの性格も明るくなった。やってみたかったバスケ部にも入れた。これが高校デビューってやつかな」

「その結果、四ツ木世津は学校の嫌われ者に変わってしまいましたとさ」

「あはは!」

「今の笑うところかよ、性格わりぃな」

「ごめん、ごめん。皮肉なポジションだよね四ツ木って」


 めちゃくちゃ言われるな、おい。


「でも大丈夫」


 目を細めて、港町に降り立った女神みたいな顔して言ってくる。


「わたし達は絶対四ツ木の側を離れない。少なくともわたしは絶対に離れないよ」


 そんな恥ずかしいセリフをよく言えたものだと思うと、ちょっぴりはにかんで言い訳っぽく返してくる。


「勘違いしないでよね。今のは深い意味じゃないから」

「今のを勘違いしないでは無理──」

「わかった?」


 ずいっと顔を近づけてくる。


 綺麗な顔が近づいてきて、ついソッポを向いてしまう。


「ワカリマシタ」

「ヨロシイ」


 ふたりで小さく笑うと夏枝が風で靡いた髪を耳にかける。


「海見てたらついつい本音喋っちゃうね」

「開放的になるんかな」

「そうかも」

「だったら、水平線まで見渡せる海を見たら夏枝の深層心理を赤裸々に語ってくれるのか」

「かもね」


 いつもみたいに余裕のある笑みを見せると、ふわりと軽い足取りで歩みを始めた。


「次、行こ」

「デートの証拠はもう取ったぞ」

「せっかく物にした神戸を堪能したいからね」

「なるほど。じゃ、デートの続きといきますか」

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