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セツなきミライは砂時計にながされて  作者: すずと
日常〜いつもの高校生活〜
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第2話 夢で告白してくれた夏秋冬娘

「今日の夢は良かったなぁ」


 鷹ノ槻(たかのつき)高等学校、2年6組の窓際の1番後ろの席。


 自分の席に座って今朝の夢を思い返す。


 4人の美少女に告白される夢。


 おぼろげながら思い出せる夢の内容は、思春期爆発の嬉し恥ずかしの幸せな夢だったな。もちろんそれが夢だってのはわかってるさ。夢と現実をごっちゃにさせた中二病まではいってないから安心して欲しい。

 でもさ、その夢の内容を自分の胸という宝箱にでもしまって、時折思い出してはニタニタするくらいは許して欲しいかな。

 とか、窓の外でザーザーと降り注ぐ雨に言い訳してみたりして。


 もう夏だってのに梅雨のやつがボケてやがるのか、まだ雨をちりばめてやがる。

 そのせいで体育終わりの教室内は、冷房を入れ直したばかりなので蒸し暑いのなんのって。


 あー、くっそあぢぃ!


 俺は鞄から携帯扇風機を取り出して顔面目掛けてスイッチオン!


 あー、すっずしぃーぃぃ!!


「四ツ木くん。ぼくにも風プリーズ」


 ドキッと心臓が跳ねた。


 女の子の声に反応すると、長い髪をポニーテールにした元気印の可愛い女の子が立っていた。

 不覚にもドキっとしたのは彼女が夢の中で告白してくれた美少女のひとりだからだ。


「現役アイドルの冬根聖羅ふゆねせいら様が汗だくでいらっしゃる」

「汗だくとか言わないでよ。アイドルは汗かかないんだから」

「その額から流れ出ている雫は?」


 指摘してやると、彼女は手で額を拭ってみせる。


「これは……。ええい! とにかく風をよこせー」

「横暴なアイドル様なこって」


 携帯扇風機を向けてやる。


「あー生き返るぅ」


 なんともまぁアイドル様とはかけ離れた油断した顔なこって。


 聖羅は駆け出し中の4人組アイドルグループのメンバー。

 アイドルだけど気取った態度は取らず、ノリ良く接してくれる俺の数少ない大事な友人だ。


「四ツ木。私にも風ちょーだい」


 ちりんと風鈴でも鳴ったかのような澄んだ声が聞こえてきた。


 声の主は空いている前の席に腰掛けて、俺の手首を掴んで強制的に自分の方へと扇風機を向けやがった。


「ふぅ。涼し」


 夏枝七海なつえだななみが夏のサイダーよりも爽やかな声を出す。

 風で靡くミディアムヘアが美しくて目を引く。女子バスケ部のエース様なだけあり、鍛え抜かれたモデル体型はもはや芸術品。夏のジュースのCMで海辺を走ってそうな絶世の美女だ。


「七海ちゃん、ぼくの風取らないでよー」

「聖羅は汗かかないんでしょ? わたし汗だくだし」

「ぐぬぅ。自分で設定したからなにも言い返せない」

「この子設定って言っちゃったよ」


 笑いながら夏枝が夏の制服の胸元に指を突っ込んで胸元に扇風機の風を送る。


 ええっと、その行為は思春期男子には刺激が強すぎるのですが。


 夏枝も夢の中で告白をしてくれた美少女のひとり。

 そんな胸元をチラつかせる仕草プラス夢の相乗効果で意識しちまう。

 こっそりドキドキしていると、夏枝が見透かしたかのように微笑んできやがる。


「あれ? 四ツ木の手首の脈、早くなった?」

「美人に手首を掴まれたら否が応でも緊張するわ」

「こらこら。隣に現役アイドルがいるんだからぼくに緊張しなよ」


 むくれながら、聖羅が夏枝とは逆の手首を掴んでくる。

 あ、これってもしかしなくても両手に花ってやつだ。


「あ、四ツ木の心拍数が下がった」

「なんでぼくが掴むと平常心になるんだよ!」


 こちらの騒がしいやり取りの中、「相変わらずみんな仲良いよね」なんて落ち着いた声が聞こえてくる。


 ストレートロングの眼鏡美少女が微笑ましい光景を見る目をしながら隣の席に座った。


 小学生の頃からの仲である、秋葉美月あきばみつき

 知的な雰囲気の大和撫子といった表現がピッタリの眼鏡美少女だ。

 スタイル抜群で、グラビアアイドルでデビューしたのなら美月の載っている雑誌の発売日と共に書店へレッツゴーもんだよ。

 恵まれたボディに対してドキドキしているのと、彼女も夢の中で告白してくれたひとりなのでドキドキが加速する。


 夏枝、美月、聖羅による、夢の中での告白トライアングルに囲まれてどこを向いてもドキドキのシュチュエーション。

 嬉し恥ずかしのサンクチュアリの形成にたじたじとなってしまう。


「美月よ。夏枝に扇風機取られた。風をくれー」


 内心のドキドキを隠しつつ、いつも通りに接してみせる。

 普段よりワンオクターブ声が高くなってるのは秘密だ。


「はいはい。しょうがないなぁ、世津くんは」


 手のかかる子の相手をしているかのように返されると、机の中から下敷きを取り出し、うちわ代わりにあおいでくれる。


「風加減はいかがですか?」

「最高」

「あ、四ツ木の心拍数が上がった」


 夏枝直々の心拍計によると俺の心拍数が上がったみたい。


「ぼくじゃ微塵も上がらないのに七海ちゃんと美月ちゃんの時にだけ上がりやがって」

「聖羅よ。美少女が作り出した風だぞ。興奮するだろうが」

「世津くんキモい」

「そうだぞ四ツ木くん。キモ過ぎ」


 美少女ふたりからのキモいは傷つくな。


「四ツ木の言ってることわかる気がする」


 予想外に夏枝が同意してくれたので、ニヤリと笑って同志を迎える。


「美少女が作る風の良さを夏枝もわかってくれるんだな」

「キモ」

「キモいとか酷い。もう風あげない」


 手を振り解こうとしたが、ガシッと強く握られる。


「こらこら。まだ涼んでるぞ」

「流石は女バスのエース様。凄い力なこって」

「そりゃどうも」


 嫌味を言ったつもりが軽くあしらわれちゃった。


「四ツ木に同意したのは美少女の方。美月って本当に美人だよね。わたしが言うくらいだから相当美人だよ」

「夏枝よ。それは自分が美人だと認めていることになるぞ。ナルシスト発言が過ぎるんじゃ?」

「真実」


 単語で論破されちゃった。


「いやいや滅相もない。七海ちゃんには到底及ばないよ」


 パタパタと手を振って否定していやがるけど美月ちゃんやい、「悪い気はしないね」って感じが表情で読み取れますぞよ。


「少なくとも聖羅には余裕勝ち」

「あ、それはね。聖羅ちゃんには余裕で勝ってる」


 ふたりは仲良くピースサインで聖羅への完全勝利を宣言していた。


「おいごら。どういう意味だ、あばずれ共。ぼくは現役アイドル様だぞ」


 勝手に比較対象にされた聖羅が至極当然の怒りを露わにする。


 もちろん、これが冗談のノリだというのはわかっているだろう。


「この超アイドル冬根聖羅様をなめるなよ。今度のライブでぼくの本当の力を見してやる」

「ハシャギ過ぎて転ばないようにね」

「転ぶのは仕方ないとしてもさ」

「「自分のメンバーカラーとパンツ合わせるのはやめた方が良いよ」」

「貴様ら! あれは忘れろー!!」


 騒がしく過ぎる体育終わりの教室内。


 楽しい時間が過ぎているが、他のクラスメイト達は俺達を……正しくは俺を見て、疎ましそうな表情をしているのが伺えた。


 やれやれ。羨ましいからって、そんな目で見て来るなっての。

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