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セツなきミライは砂時計にながされて  作者: すずと
夏枝七海編〜サマータイムフェイクラバー〜
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第17話 肉を切らせて骨を断つ

 俺と夏枝七海が付き合っている。そんな噂が校内に広まっていた。


 ま、あんだけ派手にやりゃ噂が立っても不思議じゃない。


 昼間は腕組んで校内を徘徊し、たまの夕方に一緒に帰る。


 学校の嫌われ者と女バスのエース様。アンバランスなカップルだから色物を見るような感覚なのだろうか。


 ま、こちらとしては計画通りである。


「結構噂が広まってんな」


 3限が終わり、4限は体育。


 体操服を持って陽介と豪気と一緒に体育館にある更衣室へと移動している時に陽介がポツリと零した。


「そうなんか?」


 豪気はあんまり周りのことを気にしないタイプなので噂なんて耳に入ってこないのだろう。首を傾げていた。


「結構派手に宣伝してやったからな」

「刺されるかもなぁ」


 この爽やかイケメン様は相変わらずサラッととんでもないことをぬかしよります。


「おいおい。物騒のこと言いやがるなよ」

「学校の人気者である夏枝と学校の嫌われ者の世津が付き合ってるなんて考えたくもない男子が多いだろ。オレが世津と仲良くなかったら殺してたな」

「ありがとうございます、親友をしてくれて」

「いえいえ。こちらこそ親友をしてくれてありがとうございます」


 恥ずかし気もなく親友なんて言葉を放っていると、「うぉおおおい」と豪気が泣きそうな声を出して訴えかけてくる。


「おれは!?」

「「犬」」

「ワン!」


 速攻で吠える豪気にケタケタと笑った後に背中をポンポンと叩いておく。


「豪気ももちろん親友に決まってんだろ、バッキャロ」

「当たり前だろ。なにを心配してんだよ」

「世津ぅ、陽介ぇ……。うう……。わんわん……」


 それにしたって強面の犬の鳴き真似なんて需要ないな。


 そんなバカ話をして、校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下を歩いている時だ。


「ん? な、世津、陽介。あれって……」


 すっかり犬真似をやめた豪気が渡り廊下から外れた先を指差した。


 そこには体操服に着替えた夏枝と、体操服に着替えた隣のクラスの男子生徒が立っていた。


 あんなところで立ち話なんかしてるもんだから、そよそよと風に乗って会話が聞こえてきやがる。


『四ツ木と付き合ってるとか嘘だよな。あんな嫌われ者と付き合うとかどうかしてるって。あれと付き合うんだったら俺と付き合おうぜ』


 ひでー言われようだな、ぼくちん。


 もうすっかり慣れちまった嫌われ者ってワードに傷つかない……わけねーよ。悪口言われて傷つない奴とかいないだろ。


 そんな告白に対して、夏枝は思いっきり相手を睨みつけていた。


『そもそもなんで四ツ木は嫌われてるの?』

『は? そりゃ……』


 口籠る男子。そりゃ元々俺は誰かに危害を加えたりはしてないからね。理由を聞かれても答えられないだろうな。


 はぁとわざとらしく大きなため息を吐いた夏枝は頭を下げた。


『わたしは四ツ木のことが好きで付き合ってる。だからあなたとは付き合えません』

『ちっ……。あーあ、やっぱ無理かぁ。つか、学校の嫌われ者と付き合ってるとかやばいよ、お前』


 男子生徒はフラれた腹いせなのかそんな言葉を残していった。


「あの野郎……!」


 ぼきぼきと指を鳴らす豪気に、陽介が手を伸ばして静止させる。


「落ち着け豪気。あんなクズ相手にすんな」

「だけどよ陽介。あいつは世津のことだけじゃ飽き足らずに夏枝のことも侮辱しやがったんだぞ。仲間があんだけ言われて黙ってるなんてできっかよ」


 流石は仲間思いの強面様だ。ほんと、良い奴だなお前。


「陽介の言う通り落ち着けって。あいつはムカつくけど、あれで良い」

「世津が言うなら……」


 納得いってなさそうな顔で豪気は拳をおろした。


 そんな彼に陽介がなだめるように説明する。


「豪気。ありゃクズだ」

「クズだった。性根を叩き直してやらないといけないほどのクズだ」

「そう。根性が腐ってるな。そんな奴がフラれたんだ。どうなると思う?」

「んぁ? あー、んー?」


 頭を捻っている豪気に陽介が優しく教える。


「フラれた理由を相手のせいにする。例えば、『四ツ木みたいなゴミとまじで付き合ってるゴミ女』とかな」

「あの野郎! 世津と夏枝の悪口言いやがって! 許さん!!」

「どうどうどう。例えだから、例え」


 豪気は頭に血が昇っており、すぐに暴れ出しそうだな。


「そんな噂を流してくれれば、目的の先輩の耳にも届くだろ。『俺はそんなゴミ女に告ったのか。やっぱなしで』なんて勝手になってくれて絡んで来なくなったら解決じゃねぇか? ま、多少夏枝の悪評が出ちまうが、それは人気者に付き物だろ。本人もわかってると思うし」

「あ、あー。なるほど、なるほどなー。骨を切らせて肉を断つってやつか」


 間違えてるなぁ。致命症を受けて相手に軽傷は部が悪いだろ。


 肉を切らせて骨を断つ、だな。


 ある程度の悪評は夏枝も覚悟の上だろ。じゃないと俺みたいな嫌われ者と腕組んで校内を徘徊なんてしないだろうからな。


 豪気が落ち着いたところで、夏枝と目が合う。


 なんだか安心しきった油断した表情を見してくれると、ピースサインを送ってくれる。


 お返しのピースサインを送るとこちらに駆け寄ってくれた。


「やー。見られちゃったか」


 まいった、まいったなんて言いながら頬をかいている。


「まだ告白してくる奴いるんだな」

「ほんとねー」


 苦笑いを浮かべながらも、夏枝がグイッと俺の腕を掴んでくる。


「ま、虫除けスプレーのおかげで断るのが随分と楽になったけどね」


 俺と夏枝を見て陽介が微笑ましい光景を見ながら言ってくる。


「お似合いだしマジに付き合えば良いんじゃない?」

「なっ……」


 少しばかり動揺した彼女がすぐにいつも通りに陽介へと返す。


「それもアリかなぁ。夏休みまでって話だけど、好きな人が見つかるまでとか。ね? どう? 四ツ木」

「俺の高二を虫除けスプレーで終わらせる気かよ」

「こんな美女の虫除けスプレーとか子々孫々まで自慢できるんじゃない」

「確かに」


 ケタケタと冗談で笑い合う様子を陽介が、「ふぅん」なんて悟ったような目で見ていた。


「ま、相談なら乗るぞ、夏枝」

「ごめんね友沢。相談に乗ってもらった結果、四ツ木に彼氏役を頼んでるから」

「はは。そういうことにしとくか」


 手をヒラヒラとさせて陽介が先を歩く。


 その後に豪気が夏枝の肩にポンッと手を置いて尊敬の眼差しを送っていた。


「骨を切らせて肉を断つ。しびれたぜ夏枝」

「わたしはいきなり間違えたことわざを放たれてしびれてるよ」

「はっはっはっ!」


 豪気は機嫌良く陽介の後に続いた。


「あのヤンキーはなにが言いたかったの?」

「バカだからほっとけ」

「だね」

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