第15話 彼女様のバスケ姿はふつくしい
やっと解放されたよ。
英語の藤井先生め。スマホを返して欲しけりゃ英語で反省文を書けとかえぐすぎるだろ。
どんだけ時間かかったと思ってんだよ、どちくしょう。
放課後になってようやくと手元に帰ってきた青春の必需品。
早速と取り戻したスマホの電源を入れる。
「わぁ。通知0だぁ。友達すっくなーい」
俺みたいな学校の嫌われ者にとってスマホは連絡ツールじゃないもん。スマホは他にも色々と用途があるんだもん。
いじけながらもスマホの時報を見てみると、時刻は17時になっていた。
いや、えぐ過ぎん? 藤井先生。
しかし、ふむ……。
「こんな時間まで残ってるなら顔でも覗きに行くかな」
スマホの通知は0だが、俺にはガールフレンド(偽)が存在するのだよ。
部活もそろそろ終わりだろうし、ここはボーイフレンド(偽)として行ってみるのも良いかもね。
ってなわけで、もう17時だというのに明るい空の下、体育館に足を運ぶことにする。
あー、こうやって晴れ間を見ると、ようやくと夏って感じがするよな。
夕方なのにサンサンと降り注ぐ太陽は熱波をこちらへと運んで来やがる。
体育館に出向くと、外なんかとは比べ物にならないサウナ状態であった。
「こんなところで練習してるなんてな……」
男子バスケ部と、女子バスケ部が体育館を仲良く半分こして練習をしていた。
必死に練習している女バスの練習着を見て興奮する男子は俺以外に沢山いるだろう。
そんな女バスの方へと怪しい視線を送ってしまいながら、俺は用があるんだ、ただ、女バスの練習風景に興奮している変質者ではないぞ。
なんて、誰に言い訳しているのやらな思考回路を高速に巡らせながらも、目的の女バス部員を探し出す。
結果、目的の人物はすぐに見つかった。
「我が彼女様は目立ちますなぁ」
美しいミディアムヘアを二つ縛りにした、誰よりも輝いている美少女。
いや、あんた、ほんと、まじで可愛いな。うん。目を惹かれてしまうほどの人物だ。
麗しのオーラをビンビンに放つ夏枝七海がレイアップシュートを決めた後に目が合う。
汗を軽く拭ってひらひらと手を振ってくれる。
おお、なんかすげー彼女っぽい。
こちらも初カノの練習を見に来た初々しい彼氏を演じるみたいに、ひらひらと手を振ってやる。
すると、他の女バス部員が夏枝の方へと駆け寄り、ニタニタとしながら、時折、こちらを見てはなにかを喋っている。
うんうん、完全に茶化しているのがわかるね。
これがマジなカップルであれば嬉し恥ずかしの気持ちがこみ上げるのだろうが、俺達は偽物のカップル。
これくらいの方が良い。
だからやめてくれや、男バスのみんな。
その、絶対コロス、みたいな視線を送ってくるの。あ、いや、視線だけじゃないわ。指鳴らしてる奴もいる。あれ? もしかしてぼくちゃん殺されるやつ?
「ななみーん! がんばれー!」
ぶんぶんと手を振って夏枝を応援してやる。
女バス部員の何人かが、夏枝への茶化しを強めると共に男バスの嫉妬も強まる。
殺されるとか知るか、ばぁか。
こちとらもう落ちるとこまで落ちてんだ。こうならとことん落ちてやるぞ、ぼけ。
もうすでに学校内では嫌われ者の地位を確立してんだから、今更周りにどう思われようが変わりはしないってんだ。
これで夏枝の狙い通り、俺と夏枝が付き合ってるってアピールになったかな。
いやー、それにしてもさ体の大きな男バス部員さんよ。その、まじで殺すぞみたいな目で見てくんなっての。
あれがターゲットのパイセンね……。
男バスの連中も、うざったいとか、殺すみたいな視線を送ってきているが、それ以上の殺意を感じるんだけど。こえー。退散、退散。