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セツなきミライは砂時計にながされて  作者: すずと
夏枝七海編〜サマータイムフェイクラバー〜
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第14話 スマホを没収されたけど彼女様と腕組み校内デートしたから、よし

 夏枝がガールフレンド(偽)になったけれど、そこまで大きな変化ってのはない。


 そりゃ本当に付き合ってるわけでもないから当然だ。俺は夏休みまでの虫除けスプレー。これでややこしい先輩から回避できるならそれで良し。


 でもやっぱり、あの夏枝七海と付き合っているんだからちょっとばかしの期待はしちゃう自分もいるわけなんだよな。


 男ってやつはなんともだよ、ほんと。


 英語が飛び交う教室内だからそんなこと考えちまう。人間、意味がわからない言葉の前には違うことを考えたくなるよな。春先のばあちゃんの葬儀の時も、鹿児島弁全開で喋られた時は違うこと考えてたし。


 しかしだ。もうすぐ期末試験が始まる。鹿児島弁は試験に出ないが、英語は出やがるので授業は聞いとかなきゃならん。


 意識的には期末に向けて取り組もうとしているのだが、ポッケのスマホが震えたら集中力ってのは簡単に切れやがる。


 高校生は英語より震えたスマホ優先だろうよ。


 鷹ノ槻高校は授業中にスマホを触れば没収。青春を駆け抜ける俺達にスマホ没収は死を意味する。


 しかし! 授業中にスマホを触るというスリル体験こそ青春と思わないかね。


 机の下の攻防、先生背中に目があるよとかいう心理的策略。教科書を立てた瀬戸際の戦いは手に汗握るものがあるよね。


 スッとスマホを取り出して確認すると、夏枝からメッセージが来ていた。


 窓際の後ろの席から遠く離れた廊下側の前の席に視線を送ると、何食わぬ顔で黒板を見ている。


 あやつ、あの席でスマホをいじるとは、くのいちかよ。


 感心しながらも彼女からのメッセージを見ると、『次の休み時間に自販機行こ』と書かれていた。


 あ、なんだろ、なんか付き合ってる彼氏彼女な感じする。


 とか青春を感じてるのも束の間。


「what are you doing? Yotsugi(なにしてるの? 四ツ木くん)」


 そりゃもう流暢な英語が飛んできて前を見てみると、英語の藤井先生がニコッと笑顔をむけてくれていた。


 あ、これ、やらかしたわ。


「クライアントから連絡が来ましてね。急ぎの用件でしたので。ええ」


 こんなん適当ぶっこむしかねぇだろ。


「client? That's amazing. You're the president, aren't you? What kind of company is it?(クライアント? すごいね。きみは社長なんだね。どんな会社?)」

「日本語ぷりーず」

「今のに英語で答えれたら見逃してあげるわ」

「い、いえーす、マダム」

「失礼ね。私はマダムって歳じゃないわよ」

「先生の見た目は俺と変わらないです」

「そりゃどうも。でも、今更煽てたって運命は変わらないわ」

「先生。高校生の青春はスマホなしでは駆け抜けれません」

「四ツ木くんならスマホなしでも青春を謳歌できるわ。がんば」


 無情にも俺のスマホは奪われた。


「Gaddem」

「Good pronunciation. Keep up the good work and do your best on the exam.(良い発音よ。このまま試験に向けて、がんば)」


 なんて言われてるかわかんねーが、とりあえず無常にも俺のスマホは没収されちまったとさ。




 ♢




「や、スマホを取られた彼氏くん」


 メッセージに返信できなかった夏枝の席に行くと、ケタケタと笑いながら言われちまう。


「現代っ子がスマホなしでどう学園生活を送れば良いんだよ」

「良い考えがある」

「それは?」

「それはだね、彼氏くん」


 夏枝は不敵に笑ってみせると立ち上がって腕を組んでくる。


「こうすれば楽しい学園生活のはじまりはじまり」


 内心は凄く嬉しくて、恥ずかしくってな感情。クラスメイトの目が、教室で騒ぐなボケだなんて痛い視線を感じるが、そこは脅威ではない。


「夏枝やい」

「なに?」


 おそるおそる自分の席を指差した。正確には俺の隣の席。


 そこから感じる波動は、それはそれはおどろおどろしいもの。


 秋葉美月。彼女は波動だけで何人か殺せるのではなかろうか。


 ちなみに陽介は爆笑していた。


「ひっ」


 夏枝もやっと気が付いて、俺を引っ張る形でそのまま廊下へと逃げた。


 スタスタと腕組みをしながら早歩きをしている姿はそりゃ目立つ。プラスして夏枝が学校の嫌われ者と腕なんか組んでるから余計目立つ。


 視線が痛い。めちゃくちゃ痛い。なにしてんだよの視線がえげつない。


「ふふふ。作戦通り」

「めちゃくちゃ視線が痛いのですが」

「我慢しなさい。男の子でしょ」

「はぁい」


 夏枝に言われちゃ仕方ない。


 メリット、デメリットを考えた時、視線に耐えて夏枝と腕を組んでいた方がメリットだ。


「んで、これのどこが作戦?」


 聞くと、グイグイと組んでいる腕を軽く引っ張られる。


「こうやって校舎で腕組んで歩くこと」

「既に術中にハマっていたのか」


 ニコッと笑うと夏枝が解説を始めてくれる。


「昨日わたしは告白をされました」

「あー、ね」

「むむむ。なんだね彼氏くん。彼女が告白をされたってのにその反応は」

「すみません。一部始終を見てました」

「ふふっ。知ってますー。聖羅と頑張って隠れてたつもりだろうけど見えたよ」


 バレてたか。


「覗き見してごめん」

「いえいえー。ま、本来は告って来た人に謝るべきだろうけど、本人は気が付いてないから、わざわざ言う必要はないよね」


 知らぬが仏ってあるし、わざわざ見てた、ごめんなんて言った方が悪いよな。


「昨日告白してくれた男子は良い子だったね。わたしが四ツ木と付き合ってるって噂を広めてなかった。ポイントは高いけど、今回に関しては減点です」

「硬派を貫いた昨日の男子かわいそう」

「四ツ木と噂にならなきゃ意味ないから。そして四ツ木はスマホを取られてしまって休み時間にやることがないってなれば、この腕組みはWin-Winでしょ」

「なるほど。だからこうやって校舎を歩いているのか。恋人アピール」

「そういうこと。あ、飲み物はついでね。ただ歩くだけじゃ面白くないし、喉渇いたから」

「その飲み物代は?」

「こんな美女に奢るのって男として幸せでしょ?」

「すまんが俺はヒモ気質なんだ。世話をするよりされたい派」

「相性バッチリ。わたしは世話したい派」

「じゃあ夏枝の奢りだ」

「それとこれとは別腹でしょ」


 お互い一歩も譲らない戦い。互いの目を見合ってから拳を突き出す。


「「──ほいっ!」」


 俺はパー。夏枝はグー。


 ウィナー俺!


「くっそぉ。ね、もう一回しない? 普通にジュース代は出すから」

「え? なに? 負けず嫌いなの?」

「や、ほんと負けるのって嫌いなんだよね。だからさ、お願い」

「ジャンケン如きで熱くなるタイプなのね」

「ほら、いくよ! ジャンケン──」




 ♢




 自販機に行くまでに10戦10勝。


「うう。四ツ木強すぎワロタ」

「夏枝弱過ぎワロタ」

「ほれ、戦利品だ。受け取るが良い」


 言われて投げ渡されたコーヒーを、「サンキュ」と遠慮なく受け取った。


 でも、やっぱ奢ってもらうのって申し訳ないな。しかもこんな美女に。


 自販機にコインを入れて彼女へ尋ねる。


「なにが良い?」

「え? ジャンケン負けたしいいよ」

「まぁまぁ。付き合った記念で出すよ」


 半ば強引にコインを入れると、夏枝は遠慮しながらもサイダーのボタンを押した。


「ありがと」

「いえいえ」

「でも、付き合った記念が自販機ってのもしょぼいね」

「ガールフレンド(偽)だからな」

「本物の彼女だったらなにしてくれるの?」

「そりゃ大きなケーキでも買うかな」

「誕生日かよー」


 あはは、と笑いながら自販機前に腰を下ろす。


「ありがとね。こんなことに付き合ってもらって」


 唐突にポツリと漏らす彼女に笑って答える。


「まだなんの効果も得られてないけどな」

「そっか。お礼はまだ早かったか」

「そうそう。夏休みまでは夏枝の彼氏だ。なんでも付き合うさ」

「どうも」


 言いながらコーヒーを全部飲み終えるとチャイムが鳴り響く。


「っと、もう授業始まるみたいだね」

「夏枝と喋ってると時間経つの早いな」

「あ、今の本物の彼氏っぽくていいね」

「今のは本音」

「またまたぁ。ほら、教室戻ろう」

「腕組んで?」

「流石にダッシュするから腕組みはなしで」

「ざーんねん」

「ほらほら。さっさと行くぞ、彼氏くん」


 夏枝が先に行くもんで俺も彼女に続いて教室に戻って行った。

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