第11話 1番怒らせたらだめなのはおかあさんでも先生でも上司でもない。普段優しい人。間違いない
ガールフレンド(偽)ができてから初日の朝。
夏だというのに、今日も今日とて雨。お天気アプリも断続的に雨が続くといっていたので、今日は途切れながらも雨が続くのだろう。
そんな訳だから今日もバス通学を選択。本当はバイクで通学したいけど、いくら自由な校風である我が鷹ノ槻高校でも、流石にそんなことをしたらお説教ではすまないだろう。
そんなことをした日には、停学という学生泣かせの罰が待っている。最悪退学なんてことにもなりかねないな。
バイクの免許を取る時も、分別をつけて乗りなさいと言われたし。
そんなわけで、普段は自転車通学だが、雨の日はバス通学を貫く俺は、朝からノロノロとバスで学校へと向かった。
駅前に到着。
いつも通りに足を学校に向けて動かすと、いつもの朝には見ない顔があったのに気がついてピタッと足を止めた。
「おはよ。四ツ木」
「おはー。夏枝」
いつもは教室でかわす朝の挨拶を、バスロータリーでかわす新鮮な違和感を抱きながら夏枝と自然と肩を並べて学校へ向かう。
「夏枝、今日はどうしたんだ? いつもはもっと朝早いだろうに」
「ありゃ。もう付き合ってることお忘れで?」
「いやいや。覚えてるけども」
「彼氏と一緒に登校するのはJKの鉄則でしょ」
「そうなん?」
「知らないけど」
「知らんのかい」
「まぁまぁ。わたしと四ツ木が付き合ってるって噂されるのが目的でもあるんだし。ほら」
夏枝が周りへ視線を配るので、俺も周囲の様子を伺ってみる。
朝の駅前は様々な人で行き交っている。俺達に興味のある人なんて数パーセントにも満たないだろう。だが、そんな中でも同じ制服を着た人達だけは俺達に興味があるみたいだ。
「学校の嫌われ者と女バスのエースが一緒に登校してたら目立つわけか」
「健気に四ツ木を待ってた甲斐があったわけだ」
「そんなに待ってたの?」
「三分」
「短っ」
「何を言っているんだ彼氏くん。カップ麺ができる時間も彼女さんを待たせたのだよ。反省してくれたまえ」
「確かにカップ麺を待つ時間って異様に長く感じるよな。ごめん待たせて」
「四ツ木って案外簡単?」
「真の紳士はレディーの言葉を尊重するものなのさ」
「四ツ木が紳士なら人類皆、紳士だね」
「な、なにをおお!?」
「あははー!」
偽物の恋人になろうが、朝の教室で喋る感じと変わらないノリ。この空気は大変心地が良い。
「世津くん。七海ちゃん。おはよう」
聞こえてきた声に反応すると、美月が手を挙げて軽い足取りでこちらにやってきてくれる。
俺と夏枝を見比べると違和感のある声を発した。
「珍しいね。七海ちゃんがこの時間なの」
「うん。今日はね……えへへ」
ガシっと夏枝が上機嫌で腕に絡みついてくる。
まるで恋人の距離感。腐っているが俺達は一応、恋人関係という設定。
わかってるよね?
夏枝の綺麗な瞳が訴えてくる。この場合は設定その2に該当する。美月に説明をしなければ。
「美月。実は俺達、付き合う──」
「ほぅ」
こちらのセリフを強制的にかき消し、眼鏡を怪しく光らせて切り返して来る。
美月の姿は異様に怖く、結婚三年目の浮気がバレた嫁のような雰囲気を醸し出してくる。
「続けて」
端的に発する言葉に圧があり、そのプレッシャーに押しつぶされそうになる。
夏枝も同じなのか、いつもの余裕はなく、しがみついている体が震えている。
「え、ええっとね、美月。こ、高校入学の時から四ツ木のことが気になっててさ。昨日、告ったらOKもらって……」
「ごめんね七海ちゃん。今は世津くんに聞いているんだ。ちょっと静かにしてもらえるかな」
「すみません! 黙ります!」
なん、だと……。
いつも余裕しゃくしゃくの夏枝が赤子のように扱われている。
成すすべもなしの夏枝はこちらに視線だけで、なんとかしろ、とか送ってきやがる。
やめろ、バカ野郎。こんな裏ボスみたいな美月ちゃんに俺みたいな雑魚が敵うはずないだろうが。
しかし、彼氏役を引き受けた以上、ガールフレンド(偽)が困っているのなら、助けるのが道理。
ここを突破できれば偽物の設定に拍車がかかり、かなりの経験値が入るはず。
バスケ部の連中くらいなら容易に騙せることになるだろう。
やってやらぁ。
「み、美月……。付き合うって言ってもな、その、なんだろうな、あははー」
うん。上手い言い訳なんて思い浮かぶはずもなし。
あわあわと言い訳臭く、美月へ手振り羽振りだけして肝心のセリフは思い浮かびません。
「別に、世津くんと七海ちゃんが付き合おうがあたしには関係ないよね? あれ? あたしと世津くんって、そんな関係?」
「わ、わたくし勘違いしておりました。全て美月様の言う通りでございます」
こんな美月に逆らえるはずもなく、彼女の言動を肯定するYESマンへとジョブチェンジ。
「それと」
まるでメデューサに睨まれて石にでもされそうな強い瞳が夏枝を捉えた。
「いつまで抱き着いているの?」
「も、申し訳ありません。すぐに離れます」
夏枝は、軍人にでもなったかのような綺麗で無駄のない立ち姿を披露する。
「とにかく、話しはみんなで聞きます。今は高校生らしく分別のある行動を取る様に」
「「はい!」」
先生みたいなことを言ってくる美月に当然逆らえず、野球部よりも歯切りの良い返事をする。
美月が不機嫌に前を歩き出したところで、ボソッと夏枝が耳打ちしてくる。
「美月って、あんなに怖いの?」
「一番怒らせちゃだめな人だな」
普段、温厚な人がキレるとめっちゃ怖いタイプ。
それが秋葉美月だ。
優しく、奥ゆかしい彼女が怒ると、さっきみたいな感じで詰めてくる。怒鳴るというよりは精神的にダメージを与えてくるタイプ。
1番おっかねぇな。
「そこ」
「「はいぃ!」」
こちらがチンタラと歩いているから、厳しい体育の先生みたいな注意をしてくる。
今は絶対、彼女に逆らうべきではない。




